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348話 - 辺境伯

 おっさんは昔を思い出すようにゆっくり話し始めた……。


 おっさんの親はアイゼンベルグ辺境伯。

 元、親かな。


 今はおっさんの領の南に隣接した土地に領を持っている。

 ただ特別密接な関わりはないんだって。

 普通に資材の交易をしてるだけらしくその辺は全部商人さんに任せてるらしいんだ。


 辺境伯は凄く厳格な人だった。

 力こそ全て、の代名詞のような人だったんだって。

 これぞ昔ながらの獣人、と言っていいような人らしい。


「俺は幼い時は体が小さくてよ?兄貴2人にずっといじめられてたんだ」


『親は助けてくれなかったの?』


「あいつはそんなことしねぇよ。すげぇ見下されてたな」


 おっさんは落ちこぼれだった。

 それとは逆で兄2人は勉学も力もとても優秀だった。

 おっさんはそんな環境で育った。


 昔は体も小さくて勉強も出来なかった。

 親にはもはや家庭には居ない者として扱われていた。

 ある日を起点に屋敷を追い出され、ずっと離れで暮らしていたらしい。


『ひどいな……。でも獣人国って環境じゃそうもなるのかな……』


「オグルちゃんの所はそれにしてもひどいわよ」


「アイゼンベルグはその筋で有名だな。だが、ありふれた話だな」


『気を遣えよベル……』


「何か間違ったことを言ったか?貴族社会では長子相続が普通だ。次男以降は自力で爵位をもぎ取るしか貴族として生きる道はないぞ」


「その通りだ。むしろまだ俺は恵まれてる方だと思ってた。飯も美味かったし、余計な口出しをされてたわけじゃねぇからな?」


 ベルは淡白だけど要点は付いてる。

 酷い親だけど貴族の中ではありふれた話って事が言いたいんだろうな。


「んで、離れには俺に世話を焼いてくれる優しい家政婦が付いてたんだ。まぁ、厄介払いの為に家政婦をつけられて放任されたんだと思ってけどな。幼い時かまってくれるのはその家政婦だけだったな」


『優しい家政婦さんだったんだね』


「……だが、ある日そいつは俺のそばから居なくなったんだよ」


『なんで?』


「当時は何か不手際を起こしてクビになったのかと思った。寂しかったがしゃあねぇと思った。もちろん俺にも別の家政婦が用意されたさ。家で勤めてるやつなんて日に日に変わってる。ただ、それだけの事だと思って俺は家政婦の事なんてすぐに忘れたんだ」


 放任されて育ったおっさんの親代わり、って所か。

 その人が仕事とは言え急に居なくなっちゃったら寂しいよな……。

 ただ、おっさんもそういうものだって割り切ってたんだな。


「だが、そっからの生活はひでぇもんだった……。新しい家政婦は俺と余計な口なんて一切聞いてくれなかった。飯なんて野菜くずに乾燥したパン一切れだぞ?優しい家政婦に何度戻ってきて欲しいと思ったかわかんねぇよ……」


『家政婦が変わったらそんなことになる?ベル、これもこの世界では普通?』


「そんな訳ないだろう。辺境伯の指示か?」


「あぁ。新しい家政婦は自分は言われた通りの業務をこなしているだけだって言ったんだよ。当時は俺も幼かったから新しい家政婦に嫌がらせでもされてるんじゃねぇかと思ったけどな」


 家政婦さん、だもんね。

 特別な事がない限り一般的には言われたことをこなすのが仕事だろうな。

 って事は最初の家政婦さんがおっさんのことを考えて特別優しくしてくれてたんだろうな……。


「屋敷にはどんどん居辛くなった。俺は家を出たくて仕方なかった。で、それから数年。歳も10を超えた頃にこっそり家を抜け出して身分偽って冒険者を始めたんだ」


『貴族が冒険者やってることってかなり珍しいんだよね?』


「碌に食えねぇ飯ばっか喰わされるし、腹減って仕方なかったんだよ。ガリガリだったぞ……。まぁそれが俺が冒険者になったきっかけだ。飯食う為にって普通の理由だな。あの家政婦が居たら俺は冒険者やってなかっただろうな」


 冒険者活動は頑張れば頑張る程報酬が増える。

 それからおっさんは冒険者活動にかかりっきりになった。

 その時はもう自分が辺境伯の息子なんてことは頭になかった。


 屋敷の離れにすら殆ど帰っておらず外で寝泊まりをしていたそうだ。

 それでもアイゼンベルグ夫妻は何も言わなかった。

 貴族の息子が冒険者をやっているなんて一般的には恥でしかないらしいとはベルの話だけど……。


 きっとおっさんに本当に興味が無かったんだろう。

 しかも夫妻ともにって感じか……。


「そのうち俺の体はどんどん大きくなって力も付いた。15になる時には兄貴達も全然上回ってたな」


『冒険者やってたんだもんね。鍛えてる人とそうでない人の差は出るよね』


「いや、兄貴も私兵と訓練はしてただろうさ。そうじゃねぇ。俺は虎人の純血種だって言ったろ?純血種は成長がちょっと遅いらしいぞ?まぁクロムレベルになりゃ関係ねぇかもしれねぇが種族の違いは獣人にはデカいんだよ」


「そうね。私もガウルちゃんもリトちゃんも種族によるところもあると思うわよ?」


 獣人さん達は種族によって特性も違ってくる、と。

 ……でもそれなら兄弟も同じじゃないのかな?

 じゃ、やっぱりちゃんと鍛えてたおっさんの方が強かったってことかな?


「そんなある日のことだ。珍しく離れに帰った。すると、だ。デカくなった俺に2番目の兄貴が文句を言いに来たんだ」


『なんて言われたの?』


「端的に言えば、3男の癖に生意気だ、って具合だな」


『今まで邪魔者扱いしてきたのにおっさんが強くなったら絡みに来るんだ……。しょーもな……』


「跡継ぎ問題だろう。アイゼンベルグ家は力こそ正義だと聞いている」


「そうだな。まぁ、俺は興味ねぇし勝手にやってろって言い返したんだけどな」


 力こそ全ての代名詞みたいな家庭って言ってるもんね。

 おっさんの方が実力が上ならおっさんが辺境伯を継ぐこともあり得るんだろうな。


「だが、そん時はそれで終わらなかった。どんどん状況がひどくなってきてよ。俺は殴られてボコボコだ」


『そこまでするの!?』


「あぁ……。様子がおかしかったんだ。家政婦すら助けてくれねぇ。傍観してたぞ。でも、やり返しても問題になる。関わるのがめんどくせぇから我慢してたんだが……。俺もそろそろ堪忍袋の緒が切れそうな時だ。兄貴はぼそっと……”血筋が良いだけのただの予備の癖に”って呟いたんだ……」


『予備……?』


「どうやらそれは俺には言っちゃいけねぇ話だったらしくてよ?家政婦は真っ青になって兄貴を止めて、兄貴は屋敷に帰って行ったんだよ……。で、そん時は俺も頭わりぃから、これで兄貴に今までの仕返しが出来ると思ったんだ」


『なるほど……。告げ口してやろうって感じ?』


「そうだな。俺を止める家政婦を振り切って屋敷の辺境伯の部屋に乗り込んだ。”兄貴が秘密を話したぞ!予備ってどういうことだっ!”ってな」


『結果はどうだったの?』


「話の内容は……」


 貴族には後を継ぐ子息が必要。

 でも、アイゼンベルグ夫人は歳で子供をこれ以上産める体じゃなかったそう。


 だから体裁を整える為だけに家政婦に子供を作らせた。

 家政婦は嫌がったがそれも家政婦の仕事だって辺境伯は言い放ったらしい……。


「要するに、俺は妾の子だったって訳だ。こんな世界じゃ兄貴2人に何かあるかもしれねぇ。その予備だって話だった。もちろん息子だとも思っていない、ってよ。だから何だって感じだったぞ」


『そんな酷い事を我が子に!?父親としてありえない……』


「いや、俺は辺境伯夫妻をそもそも他人だと思ってた。むしろしっくりきたさ。でも俺の実の母親は何処に居るんだってことが気になったんだよ……。だから”じゃあ、俺の実の母親は誰なんだ”って聞いたんだ。……するとあいつはあっさり、”もう秘密にする意味もない。お前の面倒を見ていた最初の家政婦”だって言ったんだ……」


『話に出てきた最初の家政婦さんが……』


「あぁ。そいつが実の俺の母親だったらしい。俺の母親は純潔の虎人だったんだってよ。兄貴2人が後を継げなくてもせめて血筋だけはって話だ……」


 だからおっさんの方が体も大きくて力も強くなったって話だったのか……。

 そして、おっさんはそれを知りもしなかった……。


「通りで俺に優しくしてくれるはずだな。あの時に気付いてりゃもっと息子として甘えたりしてたんだけどよ。俺にはその時に知るすべもなかったらしい。どうやら家のやつ全員に口留めしてたらしいんだ。もちろん俺の実の母親もしかり、だな……」


『……なんで教えてもらえなかったの?』


「兄貴2人が跡を継げない場合に実の息子の方が色々と都合いいんだよ。万が一そうなれば本腰入れて俺の面倒を見るつもりだったんだろ」


『…………じゃ、なんでこのタイミングで?』


「もう必要ねぇからだよ。長兄はもう後継ぎの準備を終えた。次兄は隣街の領主になる。お前の面倒を見るのは今日限りだ、勝手にしろってな」


『…………』


 ・

 ・

 ・


 自分は妾の子。

 実の母親は処分された。

 それを聞いてすぐにおっさんは伯爵家を飛び出した。


 家を出る時に、辺境伯からは二度と敷居をまたぐな、と言われた。

 夫人には笑いながらせいせいするって言われたらしい……。


『ふざけろよ……。自分勝手にも程があるだろ……』


「まぁ、俺としてはもう関わりたくなかったからそれで良かったんだ。それに街を出る時にギルドに寄ったら”金勘定も碌に出来ねぇ癖に生活出来ねぇだろ、それくらいならやってやるから報酬は半分寄越せ”って憎まれ口叩きながら冒険者仲間のマルスが付いてきてくれたんだ。あいつは俺の幼馴染なんだよ。知ってたか?」


『へぇ。随分今とキャラ違うんだなぁ。知らなかった。それでクソ親父とか言ってたんだねぇ』


「あんにゃろ……。いや、まぁ俺が苦労掛けてるからしゃあねぇか……ははっ」


 僕等がどんよりしてるからちょっと明るめに話してくれてるんだね。

 しっかり話を聞く為に切り替えないとね。


 それからおっさんは旅に出た。

 おっさんが荒れてる時に王様に喧嘩を売ったんだって。

 王様とはいい勝負をしたんだけど側にいたキャシーにボコボコにされたそうだ。


 それからおっさんはキャシーに弟子入りして例のパーティーで旅をしていた。

 おっさんも少しずつ落ち着きを取り戻したそうだ。

 みんな若気の至りって言えるような時代があったんだなぁ。


 そこからは前に聞いた話。

 ドラゴン退治したり、ダンジョン籠りしたり地方の大会を色々まわったりしていた。

 その後に王様が王様になるって流れだね。


「兄者とリト姐が王座についただろ?で、キャシー姐もそろそろ現役は引退したいって話になって兄者がギルド職員に誘った。それに合わせてパーティーは解散したんだ」


『で、おっさんも引退してギルド勤めになったの?』


「そん時俺はまだ20代後半だぞ?もうちょいマルスと2人で活動するつもりだったんだ……。だったんだが……」


『だったんだが……?』


「冒険者協会に手紙が届いたんだよ……。どうやら俺は辺境伯に監視されてたらしいんだ。パーティーを解散して直ぐに戻って来いってよ。お前が居れば家の名が上がる。爵位はお前に継がせてやるからってな……」


『は……?ここでまたしゃしゃり出てくんの……』


 自分の家の名を上げる為だけに勘当した息子を呼び戻そうってか?

 しかも実の母親を殺したことを気にもせずに……。


「それから辺境伯は俺と関わったやつを金で買収して辺境伯領で雇いだした。俺と少しでも関わりが出来るようにって魂胆だろうよ」


『頭おかしいだろ……。どんな神経してんだよ……』


「王と深い関わりが出来る、とも言われたらしいな……」


「むしろその目的の方がデカいだろうな。だが、今度はそれが気に入らなかった元母親が裏の組織に声かけて俺に刺客を寄越したりしてきてよ……」


『義理の母親から殺されかけてたって事!?』


「私の配下が調べたので確実です。兄2人も恐らく関係しているでしょう」


「あぁ……。俺はそのうち殺されてたかもしんねぇな」


 元父親からは勧誘されて元母親からは命を狙われてるって事かよ……。

 どんな環境で過ごしてきてんだよ……。

 おっさんの状況ひどすぎるだろ……。


「だから兄者に相談して俺は男爵を襲名することになったんだ。んでマルスにも声がかかってたから俺が引っ張った。マルスもいい迷惑してたぞ……」


『ん?なんでそうなるの?』


「例え辺境伯といえど、他家の当主に対して勝手に命令したり出来ねぇ。独断で家に戻すなんてことが出来なくなる。俺に許可が必要だからな」


「出来ればなりたくなかったが、それよりもう関わりたくなかったんだよ。くそ……」


 僕のイメージだけの貴族嫌いじゃない。

 おっさんはきっと貴族との関わりなんて持ちたくもないはずだ。

 そんな状況でも独立して貴族になる方がマシってことか……。


「そこで、私がオグルちゃんをギルド職員に引っ張ってあげたの。冒険者協会に入れば貴族との関わりはもっと少なくなるわよってね?」


「貴族の領地経営と冒険者協会のギルマスは似たところがあんだろ?オグルからは貴族のあれこれをちょっと免除してんだ。これは獣人国特有の決まりだな」


 それでおっさんは辺境伯の息子なのにギルマス。

 貴族嫌いなのに男爵になったって変な状況になるんだな……。

 全部繋がってたって事か。


「ギルマスは楽しいぞ?書類作業は面倒だけどお前みたいなやつも1番に見つけられたしな!それに貴族の嫌なこと忘れられんだ。これで俺の昔話は終わりだ。時間取らせてすまねぇな」


『色々辛い話してもらってごめん……』


「まぁ、必要だったしな!元気出せよ……っと、それはそうとクロム。お前と出会った時に多少なりと地位と信用はあった方が良いって言ったろ?」


 僕等が冒険者になった時の話だな。

 おっさんは権力を跳ねのけられる地位と人の信用はもっておくほうがいい。

 だから隠れて活動することはおススメしないって言ってくれたんだよね。


『……言ってたね』


「全部俺の経験談だ。暴れてた俺を拾ってくれた兄者達、それに信頼してくれるお前らや冒険者達が大切だ。今となっちゃ領民も大切だがな。他の事は知らねぇ。貴族なんて大嫌いだ。だから初めて会った時にお前と似てんなぁって思ったんだ」


『そっか……。そうだね』


「俺は兄者達に沢山助けられた。お前にもすげぇ助けてもらってる。な?人の信用は重要だろ?」


『重々理解したよ……』


「まぁ偉そうには言えねぇがな!兄者達やお前達が居てくれたからこそだ。感謝してるぞ」


『……うん』


 ・

 ・

 ・


 やっぱり僕は貴族関連のことは極力耳に入れたくない。

 頭がぐちゃぐちゃになるよ……。

 僕の家族が皆疲れてたからおっさんの話が終わって少し整理の時間をおいてもらった。


 話の流れは分かったし、辺境伯が人の親として屑だってことも理解した。

 でもこの話が僕等の交易とどう関わってくるんだ?


『はぁ……。そろそろ話し戻すけど、この話と僕等との交易との直接的な関係って何なの?』


「要するに、だ。クロムんとこと取引が始まれば辺境伯が利益を奪いに来るって話だな」


『何が要するの!?意味わかんない!利益なんて渡さないよ!?』


「魔の森との取引が有益な程、自分のほうがふさわしいって出しゃばってくるんだよ」


『ふさわしいって何が!?具体的にどうやって!?』


「具体的に、か?ポートルは辺境伯領で面倒を見る、が無難どころじゃねぇの?じゃリンゲンも取られるか……。平気で言ってきそうなもんだ。なぁ、兄者」


「そうだな。実際立場や経歴だけ言えばそうなっちまう。今のままならな」


 土地ごと……?

 だって土地は今おっさんの……。

 いや、貴族って国から領を拝借してるのか。

 自分の方が有益に使えるから寄越せって話か!?


『めちゃくちゃだろッ!こんな話聞いた後に辺境伯家が交易相手なんて絶対ナシだよ!?』


「うむ……。関わりとおないのじゃ……」


「えぇ……。腸が煮えくりかえりそうでしたよ……」


「僕も反対だなぁ……。僕が却下すれば飲んでくれるんでしょ?」


「クロム殿に従うが、今の心境のままでは聖国の前に辺境伯家を焼却しそうだ。出来れば辞めてくれ」


 満場一致だ……よかった……。

 だがしかしベル、焼却はしないでくれ……。

 でも気持ちはわかるから複雑だ……。


「わかってるって。だから兄者は俺に伯爵になれってんだろ?」


「そうだ。辺境伯が伯爵に偉そうな物言いは出来ねぇ。立場は対等だからな」


 辺境伯と伯爵は対等なんだね。

 おっさんを伯爵にって話は他国への牽制だけの問題じゃないんだな。

 伯爵になる事によって辺境伯も口出しして来れなくなるってことね。

 全部つながったな。


『そもそも辺境伯から爵位の剥奪とか出来ないの!?』


「そう思うだろうな。でも国にとっては優良な貴族なんだ。オグルが話したのは身内の問題なんだよ……」


「貴族の御家事情なんて大なり小なりそんなもんなのよ。侯爵家にも汚い所は多々あるわ?オグルちゃんには悪いですけどね……」


『じゃ、辺境伯はこのままって事なの!?』


「家政婦だぞ?自分の所の家政婦を処分しようがそれなりの理由があれば問題にもならねぇよ……」


『そんな……。それに処分に理由なんて……』


「あるんだよ。えっとな……」


 おっさんが屋敷を出る前に他の家政婦が口を滑らせた話だ。

 おっさんの実の母親はおっさんの待遇を改善するよう直談判していた。

 それを辺境伯夫人が拒否したんだって。


 だから家政婦は厨房から食料を盗んで食事を作っていたそうだ。

 それもおっさんと一緒にいた5年程の間ずっとって話。

 だからおっさんはその家政婦といた間だけ美味しい食事が出来たんだね……。


「俺の母親は辺境伯家に軟禁されてたらしい。外に出稼ぎにも行けなかった。だから俺の為に致し方なく盗んでたんだろうってよ……」


『そんなの辺境伯のせいじゃん……』


「だが、辺境伯家で長期に渡って盗難だぞ?小遣いをもらったことすらある。理由としては立つさ。なんも言えねぇんだ」


 辺境伯としてはおっさんが一時的に必要だっただけだろ。

 きっと家政婦は邪魔だったんだ。

 だから理由をこじつけて邪魔者を処分しただけだ。


 ……でもそんなこときっとみんな分かってるんだ。

 おっさんだってずっと苦虫を嚙み潰したような顔で話してる。

 僕がいちいち言う必要はない……くっそ……。


「だから俺は間接的に関われねぇように協力したり不自然じゃない形でオグルを守ろうとしてんだよ」


『じゃ、裏組織雇っておっさんの事狙ってたのはどうなんの?さすがに仕方なくないでしょ……』


「えぇ。ですが形に残る証拠はなかったのですよ。すべて私の配下が耳に挟んだ話でした。それに未然に防いでしまっていますのでなんとも……」


『……わかった。せめて裏組織は僕が潰すよ』


「威圧すんなってクロム……。怖えよ……」


『あ、すまんッ!』


 ちょっと魔力漏れちゃったか。

 イライラしすぎた……抑えないとな……。


「いや、私に任せろ。屑など私が消してやる」


『良いってベル!僕が行く!』


「私に任せろと言っているだろう!」


「落ち着け!珍しく息合ってんなっ!ってか潰れてねぇならさすがに動く!これ以上やることがないんだ!」


「えぇ。既にベルさんが3年前に消しています」


「私が……?どれかわからんが……」


『なんだよ……。もうないんじゃん……』


 ベルって灰燼の断罪人とか言う物騒な2つ名持ってるんだっけ……。

 荒れてたベルに消されたんだな。

 ざまぁみろだ。


「出来ることが無いと言うのももどかしいな」


『同じく……。はぁ……』


 王様が言うなら間違いないか。

 でも辺境伯夫人当人は裁けないってことだよね……。


 とりあえずおっさんが男爵を襲名したことで夫人からの手は止んだ。

 夫人は自分の実の息子を辺境伯にしたかっただけ。

 跡継ぎ問題にならないならおっさんの事はどうでもいいって事だった。


『一応聞くけど、王様個人としても辺境伯のやり方には納得してるの?』


「そんなわけあるかよ。だからこそ俺は獣人国を民主主義に変えようとしてるんだ。それに俺が王なんて()()を使って問題に介入なんてしてみろ。クロムが嫌いな貴族と一緒じゃねぇか」


『そっか……。うん。わかった』


 仲良しの王様がそんな馬鹿げた話を支持してる人じゃなくて良かった。

 王様だからこそ、独裁政権みたいなことは絶対にダメだ。

 過去の王や他の貴族と同じことになっちゃうな。


『色々余計なこと言ったね。答えてくれてありがとう。僕よりみんなの方が腹ただしいのに堪えてるんだよね。ごめん』


「いや、怒ってくれてあんがとよクロム。この件に関しては既に出来る限りのことはやってくれたんだ。それにもう過去の事だ。割り切ってるさ」


 はぁ……。

 だから貴族関連の事聞きたくないんだ。

 絶対気が収まらないと思ったんだもん……。

 みんながどうにもできないっていうなら僕が、ってなっちゃうんだ。


「ねぇ、ちょっと割り込んでいいかな?」


「お、もちろんだ。どうしたエルンの兄ちゃん?」


「そもそも交易をオグルくんに頼んでいいのかな?僕等はオグルくんがクロムくんの友達だって言うからポートルを選んだだけなんだよ?」


『同意。そもそもポートル以外に港があるなら教えてくれればそっちに行くよ?面倒な奴と関わる必要は無いと思うんだけど……』


「魔大陸側の海岸線上は殆ど辺境伯領なんだ。他の港はアイゼンベルグんとこにしかねぇ。ポートルだけドラゴンが上陸したから特別なんだよ……いや、違うな。俺にやらせてくれ。伯爵になるのも問題ねぇさ。友達だろ?」


『……わかった。でも、何かあったら絶対相談してよ?』


 港町は殆ど辺境伯領ね……。

 もう氷魔石の流通を辺境伯領には止めて貰おうかなって大人げない事考えちゃうよ……。

 ……いや、一般市民には関係ないな。

 思うだけにしよう。


「わかった!さて、湿っぽい話は終わりだ!エデンで寛がせてくれりゃそれでいいさ!うっし明日からまた仕事だな!俺の領の発展と豊かな生活の為だ!楽しくやるさ!」


 空元気だしちゃってまぁ……。

 でも、これ以上くどくど話を掘り返すのは辞めよう。

 おっさんにとっても辛い事だろうし僕の悪い所だな。


「ほらクロム!俺が飲んだことのねぇエデンの美味い酒を入れてくれ!俺だけ集合が遅れちまったから祝ってくれよ!」


『はいはい。じゃ、エデンで作られた蜂蜜酒でも出すよ。おいしいよ?』


 アイゼンベルグ辺境伯一家、ね。

 この話はちゃんと記憶に留めておくことにしよう。

 僕、根に持つタイプだからね。

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