終章
温かな日差しが、優しく辺りを照らし出している。
人里離れたこの場所は、悠久の時を過ごすためには少し退屈なのかもしれない。
だけど、隣にいるこの人と一緒にいられるのなら、それでも構わなかった。
「センパイ、あれ取ってーっ!」
ぴょんぴょんと飛跳ねながら、俺は意地悪な笑みを浮かべた先輩におねだりをする。
16歳の身体のまま時間が止まってしまった俺は、これ以上背が伸びることがない。
もうちょっと欲しかったな~って思わなくもないけれど、こうしてお願いすることが出来るなら、それも悪くないかな~なんて思ったりもする。
「はい、どうぞ。僕のお姫様」
「んなっ……! 違うし! 俺男だし!!」
「ふふっ、相変わらず面白いね、凛。可愛い。食べちゃいたいな」
「可愛……っ、だぁーもうっ、それダメっ! センパイモード禁止っ! シューランっ!!」
「えぇー、ツレナイこと言わないで、僕の凛。こっちにおいで」
茹蛸のように真っ赤な顔をしている俺を無視して、先輩(の姿をしたシューラン)は、花びらのついた枝木を取ると、俺の手を引いて歩きだした。
「さて、ここでいいかな?」
大きな桜の木のすぐ横に、二人で穴を掘って、添え木をして枝を植えた。
いつか長い時間が経てば、隣の木のように大きく育つのだろう。
互いの血によって紅く染める、美しい樹に。
「これで良しっと」
ぽんぽんっと軽く叩いて土を被せると、頼りない枝木が少しだけ根を生やしたように思えた。
まだ淡い光を放っているのは、今朝方までシューランと一緒にいたせいかもしれない。
いつかは自分の力に左右されて、薄紅色の花を咲かせるのかと思うと、少しだけ楽しみになった。
「本当に良かったのか?」
センパイモードを解いて、未だにじっと不安げな瞳を向けてくる人に、俺はしっかりと頷いてあげる。
もう、俺の執念深さは分かっているはずなのに。
「他の誰よりも、何よりも、シューラン以外に欲しいものなんかないんだ。シューランとずっと一緒にいられるなら、人間じゃなくなったって良い」
シューランを助けられる唯一の方法。
それはこの身を全て捧げて、自身がヴァンパイアになることだった。
その儀式は本当に大変で、全身の血をシューランと取替えなければならなかったけれど、痛みと快感に埋め尽くされた時間すらもこの人といられるのなら甘美なものに感じられた。
「なぁ、シューランこそ、大丈夫? 俺、邪魔になってない?」
力を取り戻したシューランを狙って、種のものが襲撃に来ることもある。
本人はこの地を守れれば他に興味はないらしいけれど、自分がいるせいで仲間の元へ戻れないのなら、それはとても悲しいことだった。
「何を寝ぼけたことを。リン以外に欲しいものなどない。この力も、リンを守るためだけにあるようなものだ。約束通り、『永遠』に共にいるために」
「シューラン……」
永遠なんて、不確かな言葉。
だけど、この人となら叶えられるかもしれないと思う。
この木の下で、誰よりも温かいこの人と。
「うんっ、ずっと一緒にいよっ。『約束』だからなっ!!」
――――強く願えば奇跡は起こると、信じている。
ありがとうございました!
途中、とんでもないスランプに陥り、長いこと更新していませんでしたが、見放さずに最後までお付き合いくださった読者様のおかげで、ココまでくることが出来ました。
もっと二人の時間を書きたかったのですが、ひとまずはここで終わりにします。
ご愛読、本当にありがとうございました!!