59.建国祭に向けて
神獣たちが勝手にお茶会を始めたので、私は別室を用意してもらうことにする。
部屋を用意してもらう間、ベルンの執務室でお茶を飲みながら、仕事をする彼を見ていた。
「そうだ、マリエ。一ヶ月後に建国祭が開催されるのは知っているな?」
「ええ。もちろんよ」
一ヶ月後はクリュタリオン帝国が建国された記念日なのだ。
一週間、国をあげてお祭りが開催される。毎年大賑わいだそうだ。
初日には諸外国から賓客が招かれ舞踏会が開催されるのだが、ベルンの婚約者として私も舞踏会に出席するようにと、皇后陛下から通達が来た。
「急だったので準備が間に合わないだろう? 俺からドレスと装飾品を贈る」
通達が来た日、ドレスを仕立てようと思ったのだが、こういう大きなイベントがある場合、どこの仕立て屋も注文が殺到するものだ。
とても間に合わないと判断した私はベルンが設置してくれた転移陣を使って、実家にドレスを選びに行った。
ところが背が伸びたらしくドレスが合わなくなっていたのだ。
ソフィアに頼んでお直しをしてもらってはいるのだが……。
「ありがとう。助かるわ。実は実家から持ってきたドレスが合わなくて困っていたの」
「そうか。成長したということだな」
今度の休みに仕立て屋を呼ぶので、普段着もついでに作るといいと提案された。ベルンの心遣いをありがたく受けることにする。
「建国祭で忙しいのは最初の三日間だ。後はゆっくり過ごせると思う」
「そうなの? じゃあお祭りを見て回ることができるかしら?」
皇都では出店がたくさん出るだろうから、買い食いとかしてみたいな。
「うん。それで、二人でデートをしないか?」
「お忍びで?」
さすがに皇族専用の馬車で街に出るわけにはいかない。
「そうなるな。どうだ?」
「ええ。行きたいわ!」
「決まりだな。忍び用の服も用意せねばならぬな」
一人で買い食いも楽しいが、ベルンと二人であればもっと楽しそうだ。
建国祭が今から楽しみで仕方がない。
◇◇◇
何のかんのであっという間に一ヶ月が経過した。
学校では相変わらず心愛が騒いでいたが、相手にするものはいなかった。
何かにつけてヒルダと私を悪役令嬢にしたい心愛はさんざん絡んできたが、その度にリーンが庇ってくれたのだ。
建国祭の間、学校は休校となるので、彼女に会う機会はないだろう。ほっと一安心だ。
初日は夜舞踏会が開催されるので、朝から支度を始めなければならない。
ベルンが贈ってくれたドレスはすでに届いている。
明るい水色のエンパイアラインのドレスだ。
カルクシュタイン王国はプリンセスラインのドレスが主流なのだが、クリュタリオン帝国ではエンパイアラインのドレスが主流らしい。
私的にはこちらのドレスの方が軽くて動きやすいので好きだ。
装飾品はベルンの瞳の色に合わせてグレーパールのネックレスとイヤリングが用意された。
コンコンと扉がノックされる。
「どうぞ」
朝からバラの花びらが浮いたお風呂に入った後、私はソファで寛いでいた。
誰が訪ねてきたかは分かるので、そのままの姿勢で迎える。
「失礼いたします。おはようございます、マリエル様」
「おはよう、エルシー」
実は建国祭ではあるイベントが発生するらしいのだ。
もちろん、それはゲーム内でのイベントなので、必ずしも起こるとは限らない。
だが、用心に越したことはないので、今日はエルシーに一緒に行動してほしいとお願いしたのだ。
着替えるまでにはまだ間があるので、一旦ソフィアには退室してもらった。
「先輩の話を聞く限り、今のところはクルトルートのようですね」
「まあ、他の攻略キャラは相手にしていないからね」
リーンとクルトの他には騎士団長の息子と魔法薬学の先生が攻略対象なのだが、騎士団長の息子は学年と学科が違うため、接触ができていないようだ。魔法薬学の先生に至っては、度々騒ぐ心愛に手を焼いている。リーンは全く相手にしていない。
「クルトルートは建国祭でヒロインが『聖魔法』を発動して『聖女』の称号を得るというイベントが発生するんですが、どうなりますかね?」
「この世界は『きみばら2』の世界観に類似しているだけでイベントは発生しないかもしれない。でも、心愛はそうは思っていないでしょう。何せ自分をヒロインと信じて疑わないのだから……」
心愛が実際『聖魔法』を使うのは見たことがない。
でも、使えるのだとしたら、心愛は何かしら騒ぎを起こすだろうと私は考えている。
「ところで先輩は魔法が使えるんですか? マリエル・ローゼンストーンはポンコツな魔法しか使えない設定でしたけれど……」
「……使えることには使えるわよ。でも詠唱が問題なのよ」
「どういうことですか?」
初めはポンコツな魔法しか使えなかったが、私の魔法は日本語と相性が良くて、日本語で詠唱すると、上手く発動することができるのだ。
えりかにそのことを話すと大爆笑された。
「中二病丸出しじゃないですか。良かったですね、先輩。日本語を知っている人がいなくて」
「笑わないでよ。私だって恥ずかしいんだから。ところでえりかは魔法が使えるの?」
今まで聞いたことがなかったが、えりかも転生者だ。何かしら魔法が使えるのではないだろうか?
「魔法は使えませんが、スキルがあります。本当は魔法が使えると良かったんですが、スキルのおかげで先輩の補佐官候補になれたので感謝ですね」
「そうなの? どんなスキル?」
「一度見たこと聞いたことは全て暗唱することができます。『瞬間記憶』というスキルだそうです」
「えっ! それってすごいじゃない!」
えりかは日本人である時も記憶力が良かった。
「補佐官の仕事には役に立ちますね」
「ねえ、えりか。皇太子妃になったら真っ先にやってみたいことがあるんだけれど……」
「何ですか?」
私は考えていたことをえりかに話す。
「アハハ。スローライフを送るためにそんなことを考えていたんですか? 先輩らしいですね。でも、少し時間はかかると思いますけれど、可能だと思いますよ」
「本当に?」
「ええ。でも今のうちから対策しておいた方がいいですね」
「対策? 何かできることがあるの?」
えりかはニヤリと笑う。
「ありますよ。これでも宰相の娘ですから」
まさか、宰相を洗脳する気だろうか?




