56.ハッピービーストをコンプしていたらしい
まだ仕事があるということでベルンの執務室から退室した私とエルシーは、部屋までの道のりをとぼとぼと歩いていた。
「先輩、ベルンハルト様に大切にされているんですね」
「そうなのかしら? 俺様系男子だから意地悪なのよ」
「いいじゃないですか。俺様系男子」
ふふふとえりかが意地悪そうに笑う。
「私は癒し系の方が好みなんだけど……」
「またまた照れちゃって! 先輩、可愛い」
「年上をからかうものじゃないわ!」
「今は私の方が年上ですよ」
そういえばそうだった。えりかといるとつい前世のような気になってしまう。
「えりかは俺様系男子が好みじゃなかった? やっぱり『きみばら2』では隠しルートを攻略したの?」
そう。隠しルートの攻略キャラはベルンなのだ。
どうも全てのキャラを攻略しないと中々会えないレアキャラらしい。
「う~ん。俺様系男子は好きですけど、理想と現実は違うというか……」
そこで私はピンときた。
「えりか、もしかして好きな人がいるの? 誰?」
「……先輩って自分の恋愛には疎いくせに人のことには敏いですよね」
えりかがものすごく嫌そうな顔をするので、私はにまにましてしまう。
「ほらほら。教えなさい」
「マリエル様。淑女がはしたないですわ」
「……都合が悪くなると、急に令嬢ぶるのね」
今ははぐらかされてしまったが、必ず問い詰めてやる。
◇◇◇
自室に戻ると、ラシードたちがまたもや私の部屋でお茶会をしていた。
「……ラシード様。レイリさん、ユエさん、なぜ毎度私の部屋でお茶会をするのですか?」
三人の神獣をため息まじりで見やる。
「ここには俺たちの子供がいるからな」
だが、その子供のルリアはラシードの頭をかじっている。歓迎されていないのが分からないのだろうか?
「うむ! 娘の顔を見ながら旧友との仲を深めるのに良い場所だ」
その娘のルナはユエの足元で毛を逆立てている。
「この皇宮のお菓子は美味しいですし……」
満足そうにお菓子を頬張っているレイリさんはあんなに甘い物をたくさん食べているのに、なぜ太らないのだろう?
「……先輩。なぜここにハッピービーストたちが揃っているんですか?」
隣でえりかが呆然とラシードたちを見ている。
「ハッピービースト? 何それ?」
「ああ、まだそのことは先輩に説明していませんでしたね」
『きみばら』でプレイする時に一匹だけハッピービーストという神獣を選べるそうだ。
ハッピービーストたちはイベントが発生する度にヒロインを助けてくれるらしい。
「何? そのポ〇モンみたいな展開……」
「ハッピービーストはエンシェントエレメンタルドラゴン、騶吾、フェンリル、フクロウの精霊なんですけど……」
ルリア、ルナ、シルヴァー、ブランの四匹をじっとえりかは見つめていたが、次第に顔が崩れてきた。
「可愛い~」
もふもふたちを愛でる顔になった。
「そうでしょう! うちの子たちは可愛いのよ」
「何で先輩が誇らしげなんですか? じゃなくて! 何でハッピービーストをコンプリートしているんですか!? ゲームにこんな展開ありませんよ!」
「そうなの?」
何にしてもルリアたちが私の下に来てくれたことには感謝している。
「おい。お前たちの話が全く見えないんだが、どういうことだ?」
ラシードが訝し気に聞いてきた。
ラシードは私が転生者だということを知っている。事情を話しても問題ないだろう。
えりかが私と同じ転生者ということ、この世界が『きみばら』というゲームと世界観が同じだということ、今日あった出来事などをかいつまんでラシードたちに話す。
「ゲームというのは分からないが、この世界がそうだというのか?」
「断言はできないのよ。一度目の私はまさにゲームのとおりだったけれど、二度目は明らかに違うから」
自分で運命を変えようとして動いた結果が今の私だ。
「それでそちらの娘もマリエルと同じ転生者なんだろう? マリエルと同じように二度目の人生をやり直しているのか?」
「いいえ。私は違います」
ラシードに問われたえりかは戸惑いながらも答える。
「その『君とばらばら』とかいうゲームのことはよく分かりませんが、『渡り人』が元の世界に帰れる方法はありますよ」
もぐもぐとクッキーを頬張っていたレイリさんからとんでもない言葉が飛び出す。そして、ゲームの名称が間違っている。
「えっ!? 本当ですか?」
「ええ。ですが、こちらの世界に生を受けたマリエルとエルシーは帰ることができません」
私は元々こちらの世界の住人だ。だが、えりかはどうなんだろうか?
ちらりとえりかを見ると、私の意図に気づいたのかにっこりと微笑む。
「今さら日本に帰りたいとは思わないです。未練もありませんし」
「そうよね。この姿で日本に帰ったとしても、お祖父ちゃんもお祖母ちゃんも私だって分からないだろうな」
怪しい外国人だと思われるだけだろう。それはちょっと悲しい。
「二人の覚悟は伝わりました。それでは帰る方法を教えましょう」
レイリさんが教えてくれた方法は意外と簡単だった。
「問題はここぴぃが帰りたいというかどうかね」
ホームシックにでもかかってくれればいいのだが……。
「大丈夫ですよ、先輩。いざとなったら強引に帰らせましょう」
えりかがにっこりといい笑顔を向ける。嫌な予感しかしないのは気のせいだろうか?




