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ポンコツ転生公女は実は最強の魔術師です~元悪役令嬢だった公女は二度目の人生でもふもふたちとスローライフを謳歌したい~  作者: 雪野みゆ
第二部

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53.乙女ゲームのノウハウ

 部屋には私と前世で元後輩だったエルシーのみだったが、念のため日本語で語り合うことにする。


「でも、えりかじゃなかった! エルシーはどうして私より年上なの? たぶん私の方が早く死んだはずだけれど……」


「日本語の時はえりかでもいいですよ。私も先輩って呼びます。それは転生に死んだ順とか関係ないんじゃないですか。私も先輩が亡くなった一ヶ月後に死んだんですけどね」


 アハハハとえりかは笑う。


「えっ!? そんなに早く死んだの? 何で?」


「先輩が亡くなった後、仕事のしわ寄せがきたんです。それで過労死しました」


 何でもないことのようにえりかは言うが……。


「それは……何か……ごめん」


 私の仕事もえりかが全て一人でやっていたのだろう。きっと寝る暇もないくらい激務だったに違いない。


「仕方ないですよ。ほら! 先輩と私の仕事って特殊だったじゃないですか。なかなか新人が育たなかったんです」


 項垂れる私の肩をえりかはバンバンと叩く。


「前世のことはここまでということで。ところで先輩。どうやってベルンハルト様を射止めたんですか? ゲームではなかなか落とすのが難しいんですよ」


「そうなの?」


 ベルンも『きみばら』の登場人物だったんだ。


 私はかいつまんでえりかにこれまで起こったことを話す。


「なるほど! 先輩は日本人だった前はマリエル・ローゼンストーンその人だったんですね。ループしていれば、二度目の人生はやり直しができますよね」


「まあ、本当はもふもふたちとスローライフを送りたいと思っていたんだけどね」


「うんうん。ループ後はもふもふと暮らしてお料理したりするのが王道ですよね」


 えりかは腕を組んでうんうんと頷いている。


「え? そういうものなの?」


「ループもののテンプレはそうですよ。ところで先輩いいですね。マリエル・ローゼンストーンって悪役令嬢だけど容姿は整っているんですよね。金髪碧眼美少女いいなあ。その点私なんてモブ令嬢だし……」


 心底うらやましそうにえりかは私を見つめる。


「ねえ。えりか。ここってやっぱり『きみばら』の世界なの?」


「そうだと思いますよ。正確には『きみばら2』の世界ですけど……」


「どういうこと?」


「だって『きみばら2』の舞台はクリュタリオン帝国ですから」


 何と!? 私は現実だと思っていたのだが、ここはゲームの世界なのか。


「えりか。『きみばら』のストーリーを教えてくれない?」


「……先輩。やっぱり私の話を聞いていなかったんですね。あんなに熱く語ってあげたというのに……」


 ジト目でえりかに睨まれたので、私は「ごめん!」と手を合わせる。


「まあ、いいです。では、もう一度じっくりと聞かせてあげます。 今日は寝かさないぜ!」


「ええっ! 泊まっていく気なの!? だいたい、いきなり宿泊はまずいんじゃない? ここは日本じゃないのよ」


「全部詳しく語ろうと思ったら、まる一日はかかりますよ。大丈夫です。両親には将来仕えることになる主と交流を深めるとでも言っておけば、宿泊許可が出ますから」


 そういう問題ではない!


 昨夜というか日をまたいで明け方まで延々とえりかの話を聞かされた私は寝不足だ。


 睡眠不足はまだ十一歳の体にはキツい。


 隣で熟睡しているえりかを蹴飛ばしたい気持ちを抑えて登校の準備をした。


 馬車の中ではうっかりあくびをしてしまった。淑女にあるまじき失態だ。


「マリー、昨日は眠れなかったの?」


 リーンにあくびをしているのをしっかり見られていたようだ。


「え、ええ。エルシーと話をしていたら止まらなくなってしまったの」


 正確にはエルシーことえりかが一方的に話していたのだが……。


「エルシノア嬢は博識だからね。楽しかった?」


 ただのゲームオタクのようだが、えりかは確かに頭の回転が速い。


「とても楽しかったわ」


 日本人だった頃にえりかの話を聞き流していたおかげで、『きみばら』のストーリーをすっかり忘れていたので、今度は聞き逃すまいと必死だった。


 眠気を我慢して聞いた甲斐があり、有益な情報を得ることができたのだ。


『きみばら2』のルートは四ルートでさらに隠しルートがある。


 攻略キャラは四人で全てのルートを攻略すると、隠しルートに突入するらしい。


 その攻略キャラの一人がリーンなのだ。そして、『きみばら2』の悪役令嬢がヒルダということに驚いた。


 ヒルダは気立ての良い子でとても悪役令嬢には見えない。


 そもそももふもふ好きに悪い人間はいない!


 ちなみに私は典型的な悪役令嬢だった自覚がある。


 一度目の私はもふもふ好きだったが、ペットは飼っていなかった。


 仮に飼っていたとしても、世話は人任せだっただろう。だが、飼っていたら、少しはささくれだった心が癒されていたかもしれない。


 肝心のヒロインはというと、今から四年後に『聖ナールニカの泉』から現れるらしい。


 珍しい『聖魔法』が使えるヒロインは聖女として崇められ、アッシェンバッハ侯爵家に養女として迎えられるのだ。


 でも、残念ながらアッシェンバッハ侯爵家は五年前に没落してしまったのよね。


 アッシェンバッハ侯爵が、カルクシュタイン王国と戦争を起こす算段をしていた首謀者だったからだ。


 話が逸れたが、異世界からやってきたヒロインに攻略キャラたちは心を奪われてしまう。


 リーンのルートでは卒業式の日にヒルダは婚約破棄され、ヒロインはリーンと結ばれ皇子妃となる。


 なぜ婚約破棄されるのかというと、異世界からやってきたヒロインは型破りで、こちらの世界ではあり得ない行動をするのだ。


 ヒルダはそんなヒロインを非常識だと罵って様々な嫌がらせをする。最後にはヒロインを暗殺しようと企み、それが明るみに出て糾弾されるらしいのだ。


『きみばら1』の悪役令嬢と全く同じことをしている。


 脚本を書いた人間はひねりがない。


 えりかによると、そういうのが乙女ゲームではテンプレだそうだ。


 一度目の私ではあるまいし、ヒルダはそういうことをする人間には見えない。


 もし、本当にヒロインがこの世界に現れてヒルダが悪役令嬢になりそうになったら、全力で止めると決めている。


 個人的にはリーンの嫁には非常識なヒロインよりヒルダになってほしいが……。


「マリー。寝不足なら無理しない方がいいよ。今日は早退する?」


 考え事に没頭して沈黙していた私を体調不良だと思ったらしいリーンがそう語りかけてくる。


「……リーン。そうやって人を思いやる心を忘れてはダメよ」


 幼少期から仲が良かったのにヒロインが現れた途端、リーンはヒルダに冷たく接するようになる。


「何の事? 母上から『特に女性には優しくしなさい』と言われているから、心掛けているよ」


 リーンは首を傾げている。


「身近な女性には特に優しくね。ぽっと出の女性に惑わされてはダメよ」


「……よく分からないけれど……分かったよ」


 どっちだ?


 少し変わっているけれど、リーンは素直だ。


 そのまま変わらずに成長してくれるといいけれど……。

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