52.後輩との再会
魔法科は1クラスのみなので、リーンとヒルダが同じクラスになった。
ヒルダも少し魔法が使えるらしく、魔法科への入学を望んでいたらしい。
おかげで課外授業のグループ仲間にもなれたし、トイレにも一緒に行ける。いや。行かないけれどね。
「それで一緒に出掛ける約束までしたのか? 初日でそこまで仲良くなれたとは結構なことだ」
入学式と簡単なホームルームを終えた私は皇宮へと帰り、午後からはベルンとお茶会をしている。
「そうなの。もふもふ好きな友人ができて嬉しいわ」
「マリエの友人になる基準はもふもふ好きなことか」
「そんなこともないけれど、もふもふ好きに悪い人はいないって言うでしょう?」
「そのような言葉は聞いたこともないが……」
正確には『動物好きに悪い人はいない』だが、この世界にはそんな言葉はないかもしれない。
今日の出来事をベルンに語っている途中でふと思い出したことを尋ねてみる。
「ベルンは『聖ナールニカの泉』の伝説を知っている?」
「まあな。歴史の教師がそういった伝説が好きなのだ。事細かに語ってくれたぞ。その日の授業が伝説を語るだけで終わってしまうこともあるくらいだ」
面白そうではあるが、それはそれで問題だ。
「リーンも同じ教師についているの?」
「そうだが、リーンはよく授業を抜け出していた。あいつは興味がないことには、あまり関心を示さないからな」
「……そのようね」
それで泉の名前がうろ覚えだったのだろうか?
これからスピリチュアル的なことではリーンの言うことは信用しないことにしよう。
「マリエにこの後会わせたい者がいる」
お茶会がそろそろお開きになる頃にベルンにそう言われた。
「会わせたい人? 誰かしら?」
「少し前に話したと思うが、マリエの補佐官候補だ」
そういえば皇后陛下に「スローライフを送りたいとはどういうことか?」と問い詰められた時に、ベルンがそんなことを言っていた。
「えっ? でも、私は皇太子妃として執務をしっかりやるつもりよ」
「マリエが皇太子妃をしっかりやるとしても、補佐官は付けるつもりだったぞ」
だいたい偉い人には補佐が付くよね。
日本人だった頃、私は人に仕事を手伝ってもらう立場ではなく、逆に手伝う方だった。
仕事の補佐をしてもらうというのは経験がないけれど、これから考えていることを実行するには補佐がいた方がありがたいかもしれない。
「分かったわ。お会いします。どんな方かしら?」
「それは会ってからのお楽しみだな」
ベルンがニヤニヤしている。何か企んでいるのかしら?
◇◇◇
「エルシノア・マイヤートと申します。よろしくお願いたします。大公女殿下」
引き合わされた人物は女性で、しかもベルンと同じ年だった。
「エルシノア嬢は現宰相の娘で、史上最年少の十二歳でアーデン校を卒業した才媛だ。マリエと年も近いし、頼りになると思うぞ」
現宰相クラウス・マイヤートはマイヤート伯爵家の当主で、十代後半から国の重鎮を勤めている優秀な人物だ。
一度目の人生の時に当時外務大臣だったマイヤート伯爵に会ったことがある。
灰金髪をきっちりとまとめた髪型に眼光の鋭いイケオジだった。
エルシノアの髪の色は父親譲りのようだ。少し癖のある髪をサイドで編み込んである。
瞳の色は母親譲りだろうか? 深い緑色の瞳をしている父親とは違い、紫色の瞳だ。
「こちらこそよろしくね。エルシノア嬢」
「どうぞエルシーとお呼びください」
にこやかに微笑んではいるが、なぜかエルシノアの目に探るような視線を感じる。
私の人柄を見ているのだろうか?
「それではエルシーと呼ばせてもらいますね。私のことはマリエルと名で呼んでいただいて構いません」
「畏まりました。ですが、公の場では控えさせていただきます」
父親譲りの固い人物のようね。上手くやっていけるかしら?
ベルンはまだ仕事が残っているとのことでエルシーを残して退室した。
エルシーには皇太子妃になったら補佐してもらうことになるかもしれない。今のうちに親しく交流しておいた方がいいとのベルンの判断で、彼女には部屋に残ってもらったのだ。
「……あの、エルシー。まずはソファに座って。お話をしましょう」
とはいえ、何から話したらいいのか分からないが、まずは無難にお天気の話題でも出すか。
だが、エルシーは座らずにじっと私を見つめている。
「エルシー?」
「……マリエル様。貴女は何者なのですか?」
エルシーの眼光が鋭くなったので、私は一瞬ビクリと肩を震わせた。
「……何者とはどういうことです?」
「いえ。間違っていたら申し訳ございません。私の戯言だと聞き流してください」
そこでエルシーは一度深呼吸する。
「単刀直入に伺います。貴女は転生者ではありませんか?」
「えっ!?」
転生者という言葉に息を飲む。そんな言葉を使うということは、エルシーもおそらく転生者だ。
「……エルシー。貴女は転生者なの?」
「やっぱり転生者なのね! おかしいと思ったのよ。マリエル・ローゼンストーンがこの国にいるなんてあり得ないもの」
エルシーは確信を得たとばかりに、いきなり砕けた口調に変わる。
「だいたい『きみばら1』の悪役令嬢がベルンハルト様の婚約者になること自体おかしいのよ!」
だんだんエルシーの言葉が聞き慣れた言語に変わる。そう。日本語なのだ。
「ねえ。エルシー。貴女もしかして日本人?」
私も日本語でエルシーに問いかけてみる。
「そうよ。もしかして貴方も? 何ていう名前?」
「ええと……瀬戸内鞠絵だけれど」
すると、エルシーはものすごく驚いた顔になる。
「うそ! 瀬戸内先輩!?」
「待って! 私を先輩と呼ぶということは……エルシーはもしかして!?」
エルシーは破顔して私に抱き着いてきた。
「高橋えりかです! わあ! すごい偶然!」
やはり、後輩の高橋えりかだった。




