49.神獣には食いしん坊が多い?
ユエの怒りがヒートアップしてきた時、聞き慣れた声が響く。
「おい。何の騒ぎだ?」
何もない空間からラシードが顔を出している。生首みたいで不気味だからやめろ。
この部屋にはエンシェントエレメンタルドラゴンの里とのポイントが繋がれている。つまりラシードはいつでもこの部屋に来ることができるのだ。
「本当に騒がしいこと。せっかくマカロンを食べに来たと言うのに……」
ラシードの隣にはレイリさんの顔が現れる。エンシェントエレメンタルドラゴンの夫婦が雁首揃えてやってきた!
「ん? お前たちはラシードとレイリか?」
急に現れたラシードたちを見たユエは訝しげに眉を顰めている。
「あら? ユエではないですか。久しぶりですね。なぜ貴女がここに?」
ラシードを押し退けて先にレイリさんが全身を現す。
「それはこちらのセリフだ。お前たちはこの人間どもと知り合いなのか?」
ユエは握手を求めているレイリさんの手を振り払う。
だが、レイリさんはガシッとユエの手を掴み、無理やり握手させる。
「マリエルとベルンハルトは友人ですから」
再びレイリさんの手を振り払うと、ふんとユエは鼻を鳴らす。
「人間なんぞと友人になるとはな。エンシェントエレメンタルドラゴンも落ちたものだ」
「あのなあ。お前の人間嫌いは知っているが、こいつらは良いやつらだぞ」
やっと空間から出てきたラシードは頭をポリポリと掻く。
「それでユエはなぜここにいるのですか? 私の質問に答えてくださいね」
レイリさんはにっこりと笑っているが、あれは静かに怒っている時の笑い方だ。
「我が娘を連れ戻しに来たのだ」
ユエはルナをちらりと見るが、ルナはぷいとそっぽを向く。
「ああ。ルナは貴女の娘でしたか?」
「レイリ、貴様知っていたであろう? なぜ『世界神獣同盟』の会合の際に話してくれなかったのだ?」
「あら。聞かれなかったですもの」
「娘が行方不明になったことは話しただろう?」
「そうでした?」
ああだこうだとレイリさんとユエが言い合いをしている横で私は首を捻る。
「『世界神獣同盟』って何ですか?」
こっそりとラシードに聞いてみる。
「俺たちのような存在は滅多に顔を合わせる機会がないからな。千年くらい前に何年かに一度集まって情報交換でもしないか? とレイリが話を持ちかけたんだ。連中も暇だから話に乗っかってきてな。まあ会合と言っても、情報交換しがてらの酒飲み会みたいになっている」
なるほど。ラシードたちドラゴンやユエのような瑞獣の集まりを総称して、『世界神獣同盟』というのか。彼らを見ていると、神獣というより珍獣という言葉の方がしっくりくるが、口には出さない。
しかし、すごい顔触れが集まるんだろうな。一度見てみたいかもしれない。
「お前は昔からそうだ、レイリ。私はお前のそういう腹黒いところが大嫌いだ! 絶対に娘は連れて帰るからな!」
「可愛い子には旅をさせろというでしょう? ユエ。うちの子はそうしていますよ」
「ああ」とユエはルリアを一瞥する。そして腕を組んで何やら思案し始めた。
「完全に俺たちは蚊帳の外だな。マリエはルナと離れるのは嫌なのだろう? いざとなったら、不本意だがラシードたちの力を借りて、騶吾の女王にはご退場願うか?」
ベルンが物騒なことを囁いてくる。
「不本意だがは余計だ、アホベルン。それでマリエルはどうしたいんだ?」
聞き耳を立てていたラシードが口を挟む。
「ルナと離れるのは嫌。でも……」
母親が迎えに来たのに、引き止めるのもどうかと思う。
「ん~美味! マリエルの家のマカロンも美味しいですが、ここのマカロンも美味しいですね」
レイリさんはいつの間にかマカロンを頬張りながら、お茶を楽しんでいる。
「レイリ、それは何だ?」
何やら思案していたはずのユエの目がレイリさんの手元にあるマカロンに釘付けだ。
「貴方もいかが? 人間のお菓子は美味しいですよ」
レイリさんがマカロンをユエの口に放り込む。
「むぐっ! むむっ!」
ユエはかっと目を見開くと、マカロンをもう一つ口に頬張る。
「美味い! これは何だ!?」
先ほどまで険しかった目がきらきらしていて、何やら可愛い。
「えっ? マカロンというお菓子ですが……」
「もっと持ってこい! これは美味い!」
「あ、はい」
留学するにあたって伴ってきた侍女のソフィアを呼ぶと、マカロンの追加を頼んだ。
どうもソフィアは私がクリュタリオン帝国に嫁いで来る際も、ついてきてくれるらしい。
一人でもなじみの侍女が一緒であれば心強い。こういった事態にも慣れているし……。
ユエはマカロンが気に入ったのか、無言で食べている。
そして――。
「我が娘はどうもお前たちを気に入ったらしい。しばらく預ける故、大切に扱え!」
マカロンを食べた途端に態度が軟化した。
神獣というのは、食いしん坊が多いのだろうか?




