第5話① 侵入者
下校時刻をとうに過ぎた校内は、冷たい空気に満ち、しんと静まり返っていた。
薄暗い廊下に、淡い光が漏れている。生徒会室のドアの隙間にちらちらと小さな灯りが揺れる。
音もなく、のそりと動く黒い塊。
ガチャリ。
無遠慮にドアノブを捻ると、中の影がびくりと震えた。
「……女性がこんな時間に一人で、感心しませんね」
「え……嘘…生徒会の……」
ランタンを高く掲げると、生徒会室に忍び込んでいた女子生徒の姿が浮かび上がる。
見咎められたことに驚き、怯えた顔をしている。紙の束を握りしめた両の手はかたかたと震えていて、その場に力無くへたりと座り込んだ。
「貴女は確か……リア嬢と仲の良い、子爵家の方ですね。こんな夜中に、生徒会室に何のご用ですか?」
「いえ……あの…私は……」
逃げ場を探すように、右往左往と視線が泳ぐ。
僕はつかつかと部屋に入り、彼女の手から無遠慮に紙の束をひったくった。
「身の程を知れ」「アルディス殿下に近づくな」「平民の癖に」「消えろ」と、リアへの中傷と思われる文面が書き殴られている。
差し詰め、これを生徒会室にばら撒くことが彼女の目的だったのだろう。
「違うんです……!私、リア様に頼まれて…」
「ああ、そういうことですか」
今日の放課後、リアが生徒会室の鍵をくすねているのを見かけたので来てみたら、案の定という訳だ。明日これをアルディスと一緒に発見して、悲劇のヒロインムーブを決める予定だったのだ。
忍び込んだ彼女も、機転を利かせて「エリシアにやらされた」とでも誤魔化せば良いのに、なぜ馬鹿正直にリアの名前を出してしまうのだろう。
「わ、私…まだ何もしてません……この紙もちゃんと持って帰りますから、どうか誰にも…言わないでください…!!」
がたがたと肩を振るわせる姿があまりに不憫だ。焦燥からなのか、うまく視点が合っていないし、ろれつも怪しい。
「失敗したってバレたら……私…リア様に嫌われちゃう……」
こちらが、何か特別責め立てた訳でも無いのに、目に涙が滲んでいく。
先ほど取り上げた誹謗中傷の紙の束を軽く整え、改めて彼女に渡す。
「褒められた行為ではないですが、僕は別に貴女を糾弾するつもりはありませんよ?部屋を荒らさず、大人しく帰っていただけるなら、それで」
「え……?」
「リア嬢には『教師が巡回していて入れなかった』とでも言い訳しておけば良いんです」
女子生徒は涙顔をくしゃくしゃにして何度も強く頷いた。
自分の失態がリアにバレるのを恐れる態度からして、僕との会話を彼女が外に漏らすことは無いはずだ。
今ここで女子生徒の罪を暴いたところで、リアはしらを切り通すだろうし、また別の人間に同じことをやらせるだろう。
「ぜひ今後も彼女と仲良くしてやってください。
……まあもし、心変わりすることがあれば、それはそれで歓迎しますけど」




