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講義2

「こうしてシリウス・マジョルカニスはミラン領に向けて出発しました」

 近代魔法史の講義はまだ続いており、若い眼鏡の教師は淡々と進めていく。

「劇ではミラン領に行く途中ドラゴン退治をしたり、盗賊団を壊滅させたりと様々な展開がありますが事実はそうでありません。あれは劇を盛り上げる為に作られた作り話です」

「えぇ」「そんな……」

 講義中にも関わらず生徒達から落胆の声が漏れ出てしまった。ドラゴン退治は劇の見せ場の一つである。賢者と騎士でドラゴンを退治して仲を深めて行く重要なシーンであるがそんなものは丸っきり存在しなかった。

 生徒達は落胆しているが毎年のことなのか教師はお構いなく講義を進めていく。

「はい、静かに。その後、数日かけてミラン領に着いたシリウス・マジョルカニスはスウィストフ兵と衝突します。これはインタリー王国とスウィストフ王国、両国で起きた唯一の戦争です。戦争の規模は定かではありませんが多くの死傷者を出した大規模な戦争だと言われております」

 戦争と言うのは勝った方が好き勝手に宣伝する為に本当のところどれだけの規模だったのかは正確には確認できていない。

 それでもこの地で両者が衝突したのは紛れもない事実である。

「そして何故この戦争が近代魔法史で重要視されているのか、それはこの戦争は貴族以外が魔法を使用した初めての戦争だからです」

 教師がそう言い切ったタイミングで丁度よく講義の終わりを告げる鐘が鳴った。

 初めての講義、近代魔法史の講義に最初は乗り気でなかった生徒もいつの間にか聞き入っており、あっという間に時間は過ぎていた。

「これで今日の講義は終わりです。次回はこの続きからです」

 教師はそう言うと特に終わりの挨拶もなく黙々と教材を片付け始めた。生徒達もこれ以上何もないと判断しゾロゾロと教室から出て行った。

 先程まで静かだった廊下は一気に賑やかになり初々しい生徒の明るい声に満たされていた。

 そんな中、二人の少女だけが机の前に座ったままお喋りに明け暮れていた。眼鏡の真面目そうな少女と長髪の活発そうな少女、二人はこの学園に入る前からの知り合いでこうして学園でも一緒に行動を共にしていた。

 長髪の子が嬉しそうに眼鏡の子に話しかけている。

「ねえ最後の大賢者ってもしかして学園長の事かな?」

「なんで?」

「学園長の姓がマジョルカニスだったし」

「でも名前はシリウスじゃなかったよ」

 言われてみればそうだと長髪の子は思い出した。もしシリウス・マジョルカニスだと名乗っていれば直ぐに反応して気付いていた筈だった。

「じゃあ親戚とか?」

「そうかも、貴族様って親戚いっぱいいるって言うからね」

「もしかしたらこの学園にいたらいつか会えるかな?どうしようもし会えたら本にサインして貰おうかな」

「でも相手は貴族様だよ。いくら学園の中でもまずいんじゃない?」

「あーそうか、小さい頃知ってるからそんな気がしなかった。そうか貴族かー」

 最後の大賢者は市民の中では貴族というより英雄として扱われていた。学園は出自によって差別はしないがそれは貴族に無礼を働いていい免罪符ではない。

 二人で楽しそうにお喋りをしていると教壇の前から教師が呼びかけた。

「そこの二人、次の講義は実習棟で行われます。早く移動した方がいいですよ」

 時計を見ると二人は思っていたよりお喋りに夢中で次の講義が間近に迫っていることにようやく気が付いた。

「あ!分かりました」

「失礼します!」

 二人は急いで支度をして駆け足で教室から出て行った。そんな二人を教師はやれやれと呆れている。

 勢いよく飛び出したのはいいものの長髪の子は実習棟が何処か分からない。とりあえず眼鏡の子の後に着いて行っている。

「実習棟ってどこ!?」

「ここから反対側、中庭を通った方が早いよ」

「じゃあそうしよう!」

 二人は階段を駆け下り、廊下を曲がり、中庭に勢いよく飛び出した。

 中庭を走って通り抜けて行くのは二人だけではない。あっちこっちの扉から生徒達が息を切らせて飛び出してくる。中庭は次の講義に間に合わす為に走り抜けて行く生徒達でいつも賑やかである。

 そんな様子を中庭に設置されたベンチに座って休憩している教師は気を付けるように注意し、剪定をしている老いた庭師は微笑みながら見送っていた。

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