学園見学
ベルギウスはまだ開校前の魔法学園に来ていた。昼間なのに誰一人いない学園は静かでその荘厳さと相まって身を引き締ませる様な雰囲気があった。
「これが魔法学園ですか、随分と立派な建物ですね」
「はい、陛下肝入りの事業ですので、インタリー王国として恥ずかしくない建築を目指しました」
「なるほど。だからですか」
ベルギウスは使者と雑談をしながら汚れ一つ無い魔法学園を見学していく。
「それにしても学園長の就任を決めて下さり誠にありがとうございます」
「シリウス様の説得もあり、私も腹を決めました」
「そうでしたか。後でシリウス様にもお礼を申し上げねば」
使者はベルギウスが打診を受けた事により上機嫌でニコニコしならが案内してくれている。
二人が校内を歩いていると遠くから賑やかな声が聞こえてきた。
見るとこれから入学するであろう子供達が校内を引率の先生と共に見学していた。
子供達はキョロキョロと辺りを見回して落ち着きがなく、何か見つける度に感嘆の声を上げて騒いでいた。
「彼等はこれから入学してくる子供達ですね」
「希望に溢れる子供達の姿はいつ見ても微笑ましいですね」
ベルギウスは目をキラキラさせながら校内を見学する子供達を見た。これから学ぶ魔法に心躍らせる無邪気な姿を。
「……やはりシリウス様は講師として雇うことも出来ないのですか?」
「はい、やはり人前に出ることは極力避ける様にと」
「そうですか……」
やはりいい返事が貰えなかったベルギウスだがふと窓の外を見ると中庭が目に入った。何の気なしに見た中庭だがベルギウスはある事を思い付いた。
「あの、一つ提案があるのですが」
「私が庭師に?何故そんな事に?」
突然シリウスの屋敷に押しかけて来たベルギウスの言葉にシリウスは顔をしかめた。
ベルギウスが使者に提案したのはシリウスを学園の中庭を管理する庭師にしてもいいかという驚愕の内容であった。
「庭師なら魔法学園に入ってもいいと許可が降りました。これでシリウス様も魔法学園に行けますね」
満足そうに語るベルギウスだが対照的にシリウスは怪訝な顔をしている。
「私が庭の管理が出来ると思うか?」
「出来るでしょう?シリウス様は草花がお好きですし。屋敷の隅にある木を大事に手入れしているではないですか」
「まあ、そうだが」
シリウスは屋敷の片隅に移された母との思い出の植木を今も大切に管理していた。その甲斐あって今年も綺麗な花を咲かせていた。
「だから是非シリウス様に学園の庭師をやってもらいたいのです」
「何故そんなにこだわる?学園長の次は庭師になれなんて、まるで私を学園に何としても放り込みたいようではないか」
「シリウス様は魔法がお嫌いですよね」
「……」
図星であったシリウスは黙ってしまった。
シリウスは魔法が好きではない。そもそも貴族として生まれて王家を守る為に習得する魔法を好きとか嫌いとか言える立場ではなかった。
魔道具の開発も自身の保身の為であり、好き好んで作っている訳ではなかった。
幼い頃は貴族でなければどんな風に暮らしていただろうかと想像していたが、今は何も感じず魔法は使命と仕事として割り切りっていた。
「魔法によって争いに巻き込まれ、魔法によって隠れる様に暮らしている。ですがシリウス様の魔法によって多くの人が希望を持てたのです。それをシリウス様にも見て欲しい。屋敷の中では分からないシリウスさまが作った魔法に溢れた外の世界を」
ベルギウスの熱弁に心が揺らぐシリウスだがどうしてもハイと言えなかった。
今まで貴族として生きてきた自分が突然庭師になれるのか疑問であり、そしてそんな自分の姿が全く想像つかなかった。
そして貴族の事は嫌いだが貴族としての振る舞いをしなければならないと理解しているシリウスは、身分を隠していると言え庭仕事をして本当に良いのかと悩みもした。
「もし断ったら?」
「学園長直々の頼みですよ?」
それはシリウスがベルギウスを無理矢理学園長にした言葉と全く同じであった。
そんな事を言われるとシリウスも何も言えない。シリウスは諦めたように微笑み呟いた。
「ふふっ、敵わないな」




