相談
使者から学園長の打診をされて数日、ベルギウスは未だに悩んでいた。
頭の中で思考が何度もぐるぐると巡り、「やはり受けるべきか、でもシリウス様に悪い」の繰り返しで結論は出なかった。
一人重い悩むベルギウスにミルザは紅茶を淹れてティーカップを二つテーブルに置いた。ベルギウスの妻となったミルザは夫がいつまでも暗く険しい表情をしているのが心配で堪らなかった。
「まだ悩んでいるのですか?」
「ああ」
「ベルギウス様がお兄様の事を思って下さるのは嬉しいのですが。何をそこまで思い悩んでいるのですか?」
ミルザはベルギウスの背中にそっと手を置き、慰める様に摩った。
「私は悔しいのです。国の為に貴族から攻撃されながらも魔道具を開発したのに、今度は国の脅威となるから大人しくしていろと屋敷に押し込まれて……」
「お兄様自体が国家機密みたいなものですから。自由に外に出れないのです」
「分かっています。ですがこれが国に貢献してきた者への仕打ちなのですか……」
ベルギウスは怒りや悔しさを滲ませていると突如扉が開かれた。
「気にするな、受ければいいではないか」
開かれた扉から現れたのはシリウスであった。この屋敷は結婚したベルギウスとミルザが暮らしており、シリウスは普段寄り付かない。そんなシリウスがわざわざ足を運んで来たのだ。
「シリウス様!」
「私が呼びました。後はお二人で」
そう言うとミルザはさっさと部屋を出て行き二人だけにした。淹れた紅茶の一つはシリウスのために用意されていたのだ。
シリウスはベルギウスの前に座りジッとベルギウスの顔を見た。
「私の事など気にするな、何を迷っている」
「ですがシリウス様の実績を考えれば今の状況はあまりにも不遇で」
「別に私は静かに暮らせればそれでいい。権力も人気も要らない。だから君が気にする事なんて何もないんだ」
ベルギウスは顔を上げてシリウスの顔を見た。シリウスの表情は穏やかであり、恨みや怒りと言った感情は全く読み取れない。
「こう見えても私は幸せなのだ。貴族として処刑されるかもしれなかったが、君の活躍のおかげで今もこうして生きている。ミルザだって君と結婚して幸せそうだ。これ以上私は望むことなんて無いんだ」
そう語るシリウスだがやはりベルギウスの中では納得できていなかった。
「本当にいいのでしょうか……私は魔法を使えません。魔道具も作れません。解放運動も別に私は何もしていません。それなのにそんな大役を任されるなんて……」
ここ数日、考えれば考えるほど相応しくない理由が思い付きベルギウスを苦しめていた。
「なら魔法を教えようか?」
「え?」
思わぬ提案にベルギウスは間抜けな声を漏らしてしまった。
「魔法を使えればいいのだろう?魔法を教えるから学園長になれ」
「そんな!無茶苦茶な」
「それとも当主の言うことが聞けないのか?」
マジョルカニス家の当主であるシリウスの言葉は絶対であり、婿としてマジョルカニス家に入ったベルギウスは何も文句を言えない立場であった。
そしてシリウスは冗談ではなく本気でそう言っている様に見えた。
こうなるとベルギウスはどうする事も出来ない。諦めてどんな魔法がいいか考えると真っ先に思い付いたのがスウィストフの民に向けて放った魔法であった。
「……えっとではあの戦場で見た炎の竜を生み出す魔法を」
「あれか?あれでいいのか?戦争にはもう行かないのだろ?」
「あの魔法を見た時私は心の底から美しいと思ったのです。なんて綺麗な魔法がこの世に存在するんだろうと」
「嬉しい事を言ってくる……あとそうだな髭を伸ばすといい」
「髭ですか?」
ベルギウスは顎を摩るが何のことかさっぱり分からない。
そんなベルギウスを見てシリウスはニヤリと笑い答えた。
「そっちの方が魔法使いらしく威厳が出るだろう」




