魔法学園
魔法解放運動から数十年、ベルギウスは魔法部隊を引退をして隠居生活を送っていた。
すっかり老けて皺と白髪だらけのベルギウスは戦場を駆け抜けた時と違い、何も変わらぬ穏やかな毎日を過ごしていた。
そんな日々の中、城から使者がやってきた。
「私が魔法学園の校長ですか?」
「はい、是非ベルギウス・マジョルカニス様に」
使者が言うにはこれから開校する魔法学園の初代学園長に就任して欲しいというお願いであった。
「ですが私は元々は平民で魔法は魔道具でしか使えませんし。魔法の知識も何も無いですよ?」
「だからです。新しく作られる魔法学園は貴族も平民も誰でも学べる場にしたいと陛下は考えているのです。その象徴とも言えるのがベルギウス様なのです。なにより魔法解放運動の中心となったベルギウス様なら誰もが納得します」
熱弁を振るう使者だがベルギウスの反応はイマイチである。何とも言えない表情をして口篭っていた。
「そう言ってもらえるのはありがたいのですが……」
「何か気にならない事でも?」
国王直々の要請にまさか難色を示すと思わなかった使者は戸惑いの表情を浮かべた。
「私よりシリウス様の方が適任だと思うのです」
それはベルギウスの本心であった。今のインタリー王国の魔法の礎を築いたのは間違いなくシリウスであり、初代学園長という役職はシリウスこそ相応しいと思った。
しかし使者の答えは違った。
「それは出来かねます」
「何故ですか?シリウス様こそ相応しいと思うのですが」
あまりに呆気なく否定された事に多少の苛立ちを覚えながらもベルギウスは冷静に質問した。
「実は多くの貴族からシリウス・マジョルカニス様を推す声があったのです。特権である魔法を失いましたが未だに貴族は大きな力を持っています。もしここでシリウス様が表舞台に出れば若き陛下は貴族達を抑える事が出来なくなるのです」
「シリウス様は貴族の力を削ぐ為に魔道具を作ったのですよ!そんな貴族の味方などしない筈です」
ベルギウスは声を荒げたが使者は臆せず淡々と事実を告げた。
「シリウス様はそうですが他の者の目はどう映るか分かりません。最後の大賢者として平民からの人気もあり、貴族から支持される。陛下としてはこれ以上ない脅威なのです」
貴族達も代替わりが進み、マジョルカニス家を恨む者はいなくなった。そうなると貴族達はシリウスの人気と影響力にあやかりたく露骨にシリウスを推しているのだ。
最後の大賢者の伝説も影響力が落ちてきた貴族達が大々的に宣伝した事により平民の間で人気となった。今まさにシリウスは貴族達に勝手に担がれているのだ。
使者の言葉に何も言い返せないベルギウスはグッと唇に力を入れた。怒鳴れるものなら怒鳴りたいが何一つ言葉が思い浮かばない。
そうしてようやく絞り出した答えが「そちらの考えては分かりました。少し時間を下さい」ただそれだけであった。
「快いお返事をお待ちしています」
使者はにこやかにそう告げると帰っていった。
ベルギウスは一人険しい表情でジッと椅子に座っている。
「こんなのあんまりだ……」
そう悔しそうに呟いた。




