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行進

シリウスが屋敷に戻るとずっと待っていたのかミルザがエントランスでウロウロと歩いていた。

 ミルザはシリウスが帰ってきた事に気付くと不安そうに駆け寄った。

「兄様!どうでした!ベルギウス様は無事ですか!」

「正直……厳しいと言わざるを得ない」

「そんな……」

 言葉を失うミルザだが事態はそれだけでない。心苦しいがシリウスは話を続けた。

「ベルギウスは勿論、我々の身の安全も危ない。魔法部隊を捕らえたら次は私達が捕まるだろう」

「そうですか……」

 二人の間に重い沈黙が訪れると屋敷の奥から執事がやってきた。

「旦那様、広間に魔法部隊の皆様が集まっております」

「直ぐに行く」

 広間に入ると魔法部隊の全ての兵が集まっていた。シリウスとミルザが部屋に入ると兵はシリウスに懇願するかの様に詰め寄った。

「シリウス様!ベルギウス隊長はどうなってしまうのですか!」

「このままいけば貴族に反逆したとして処刑されるだろう」

 シリウスは淡々と起こりうる可能性を告げた。

「そんな!ベルギウス隊長は国の為に戦ってきたのに!」

「そんなのあんまりです!」

「ふざけやがって!隊長が何をしたんだ!」

 怒り、悲しみ、絶望、様々な感情を剥き出しにする兵達にシリウスは更に追い討ちをかける様な事を言わなければならなかった。

「ベルギウスは見せしめだが、君達の身の安全も保証できない。ガルバル将軍はこの件に関して徹底的に立ち向かうつもりらしいが、貴族の出方によっては内戦の可能性もある」

 自身の身の安全が脅かされ、更に内戦という最悪のシナリオに兵達は言葉が出てこない。

 これまでオークやドラゴンと戦ってきた魔法部隊だが内戦となれば同じ国民同士で血を流す事になる。戦場は平野ではなく街になるだろう。そうなれば家族や友人も必然的に戦いに巻き込まれる。それが彼らを尻込みさせていた。

 しかし、それでもこのままではいけないと一人の兵が前に出た。

「ベルギウス隊長も処刑され内戦になるなら、今立ち上がりましょう!」

 一人の決意を聞き堰を切ったよう様に次々と兵達は声を上げ始めた。

「そうだ!このまま黙っていても変わらない!」

「隊長は何も悪くないんだ!」

「助けに行こう!」

 魔法部隊の全ての兵が戦う道を選んだ。このまま何もしなければ彼らは貴族の陰謀によって簡単に消されてしまう。それならば抵抗するべきだと覚悟を決めた。

「シリウス様!我々はベルギウス隊長を助けに行きます!」

「私は貴族である為、共に行動すればいらぬ誤解を招くだろうからここで待っている……頼む、我が友を助けてやってくれ」

「「はっ!」」

 シリウスの命令ではなく頼みを魔法部隊は敬礼によって応えた。そして全員勢いよく部屋を飛び出した。

 魔法部隊は魔法杖を持ってベルギウスが捕えられているであろう王城の留置所に向かって行進していく。

 その異様な光景に市民は集まり、どうしたのだと騒ぎ始めた。

「なんだ!魔法部隊だ!」「ベルギウス様が処刑されるだって!」「ふざけるな!貴族の横暴を許すな!」「俺達も杖を持て!」

  市民はそれぞれ家にあった変哲もない杖を片手に持ち魔法部隊の後ろに加わっていった。杖がない者は箒や物干し竿など細長い物ならなんでもお構いなく手に取った。最初は魔法部隊だけの行進が次々に市民が加わり大通りを埋め尽くす程に成長していった。先頭に立つ魔法部隊すらもその全容を把握する事が困難であった。


 王城の地下には一時的に罪人を監禁する留置所があり、ベルギウスはそこに弁明の機会も与えられず放り込まれてしまった。

 ベルギウスは牢屋の壁にもたれながら座り込んでこれから自身の身に起こるであろう悲惨な結末を想像していた。

「私は処刑されるのだろうか……」

 ベルギウスもいきなり処刑される事はない。こんな扱いを受けているがインタリー王国は一応法治国家であり処刑の前に必ず裁判が行われる。

 しかし裁判官は全て貴族であり、ベルギウスがどんなに弁明をしたところで勝てる見込みは全く無かった。

 その為、ベルギウスが助かるのにはガルバル将軍と貴族であるシリウスの助けが必要不可欠であった。

 ——シリウス様とミルザ様は動いて下さるだろう。しかし部隊のみんなは無事なのか……それとも何処かで捕まっているのだろうか……

 この留置所にはベルギウス一人しかおらず部隊の様子は何一つ分からなかった。もしかすると既に捕まって別の場所に捕えられているかもしれない。最悪殺されている可能性もある。そんな不安がベルギウスに過った。

 暗い想像ばかりしているベルギウスであったが上の階で人がバタバタと走る音が地下に響き渡った。それも一人や二人ではない。何を慌てているのか足音だけで多くの人が混乱しているのが分かった。

 そして鉄柵がはめられている小さな窓の向こうから何やら騒いでいる音が聞こえてきた。遠くから聞こえるその音は不明瞭ながら多くの人が何かを叫んでいる様に思えた。

「外が騒がしいな。何が起きているんだ」

 王城の城門前では魔法部隊に加わり行進してきた市民達が杖を掲げ大声を上げて抗議をしていた。

「ベルギウスを解放しろ!」「魔法を独占するな!」「貴族の横暴を許すな!」

 門兵は何とか市民を宥めようと必死になっているがどんどん市民が集まり、何人もの応援を呼んでいるが収拾がつかなくなっていた。

 当然だがこの混乱は直ぐに国王の耳に入った。

「陛下!城門の前に民衆が集まって止められません!このままでは死者が出てしまいます!」

 城の兵士が国王に報告にすると国王は少し考えた後決断を下した。

「ベルギウスを即刻解放せよ」

 国王は事態の収拾にはベルギウスの解放しかないと判断した。しかし混乱が治っても国王の判断は貴族にとっては喜ばしいものではない。

「陛下!何をおっしゃいます!奴は貴族の特権である魔法を無断に使った重罪人ですぞ!」

 近くにいた貴族は国王に即座に反論した。魔法を勝手に使われたのも問題だが、捕まえたはいいが国民が反発したから解放したなんて貴族の面子が丸潰れである。

 貴族達はどうにか国王に考え直すように説得するが取り付く島がない。

 国王は自身に群がる貴族を見渡し一言だけ答えた。

「ならお前達の誰かがあの混乱を治めてみよ」

 その一言で貴族達は黙ってしまった。城を取り囲む勢いで増えていく市民をどうやって納得させて帰らせるか。ここにいる誰一人その妙案も奇策も持ち合わせていない。説得する為に一人で外に出てみれば市民達に何をされるか分からない。

 誰も手をあげないことを確認した国王は貴族に言い聞かせるように話し始めた。

「もはや貴族が魔法を独占する事はできない、この大きな流れはもう誰にも止められん。ここで決めろ。流れに抗い溺れるか、その流れに乗って生きていくか」

 

 城の前では今にも市民が門兵を殴り掛かる寸前であり、怒号が飛び交い混乱を極めていた。

「もう無理だ、これ以上は……」

 門兵がもう限界だと悟ったその時、城の門が開き始めた。

 ギギギィと軋む音を立てながら大きな門が開くとそこには捕えらていたベルギウスが立っていた。

 その姿を見た瞬間、市民から割れんばかりの歓声が上がり城の窓ガラスを震わせた。

「ベルギウスだ!」「我々の勝利だー!」「ベルギウスが解放されたぞー!」

 歓喜する市民と対照的に門兵は大きく息を吐き、何とかこの場を乗り切った事に安堵した。そして城の窓からは貴族が苦々しい顔をしてベルギウスを睨みつけていた。

 ベルギウスが進もうとすると市民が避けて道を作っていく。そしてその先には魔法部隊の面々がベルギウスを待ち構えていた。

「隊長!ご無事で!」「よかった……よかった……」

 魔法部隊は口々に喜びを伝えて、泣き出す者もいた。そんな面々をベルギウスは「泣くなと」笑いながら肩を叩いている。

「ベルギウス様!」

 魔法部隊の間からミルザが飛びしてきた。ミルザは貴族のなので待機するようにシリウスに言われいたが心配のあまり屋敷を出て行進に加わっていたのだ。

 ベルギウスに抱きつき涙を流すミルザの背をベルギウスは優しく撫でた。

「ご心配をおかけしました」

「いいのです。ご無事で……」

 抱き合う男女を見た群衆は更なる歓声を上げて二人を祝福した。

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