誇り
「まさかこれほどとは……」
報告書を見たガルバル将軍は思わず声を漏らした。
そこには魔法部隊が総勢百を超えるオークが住む集落を壊滅させたと書いてあったからだ。
オークの集落を壊滅する為には集落全体を取り囲むように四つの部隊が派遣され、集落の外から貴族達による大規模な魔法をいくつも放つ。魔法により撃ち漏らしたオークを外で待機していた兵士で追い討ちをかける。それでも取り逃すオークもいた。
本来なら大規模な部隊編成と貴族に頼み込んで行われる作戦であるが二十人あまりの魔法部隊だけでそれを成し遂げてしまった。
最初この作戦を魔法部隊単独でこなすとベルギウスから提案された時は半信半疑であった将軍もこの結果にはご満悦である。もはや魔法部隊の実力を疑う余地はない。
——この戦果だけで十分だ。魔法部隊を正式に軍に編入しよう。即刻、魔法部隊の機密を解消して公表していこう
ガルバル将軍の判断により魔法部隊の存在は一気に国内外に広がっていった。
ベルギウスは長い訓練と実戦を終えて久し振りに実家に帰ってきた。
ベルギウスの家系は騎士の家系であり、貴族程では無いがそこそこの大きさの屋敷に暮らしていた。
屋敷にある小さな訓練場ではベルギウスの父、リギルが剣を振っていた。リギルは騎士を引退した身であるが毎日の日課として素振りを続けている。リギルはベルギウスそっくりであり、まさに老けたベルギウスといった見た目であった。
「父上、ただいま戻りました」
入り口近くでベルギウスがリギルに声を掛けると、リギルは素振りを止めてベルギウスを見た。
「久しぶりだな、訓練で家に帰れないと言っていたがもういいのか?」
「はい、万事無事にやり遂げました」
「そうか、よかった」
「それで少し話が」
リギルは手拭いで汗を拭きながらベルギウスに歩み寄った。神妙な表情をしているベルギウスに気付いたリギルだがいつもと同じような態度に努めた。
「何だ?改まって」
「この三ヶ月、ガルバル将軍の命により最重要機密の訓練をしていました」
「待てそれは話していいのか?」
突然の告白に慌ててリギルは話を遮った。最重要機密は軍の中でもそして当然家族にも話してはいけない。漏らした時点でその者は軍法裁判にかけられてしまう。
「今日その機密保持の命が解けました」
「ならいい」
「その最重要機密の訓練の成果がこれです」
そう言うとベルギウスは懐から小さな杖を取り出した。杖には小さく呪文が刻まれている。
ベルギウスは杖に魔力を流すと杖の先に小さな火が灯った。この杖はシリウスが作ったごく小さな火を出すだけの魔道具である。
「これは……魔法か?」
リギルも騎士として任務に出動した際、貴族の魔法を目の当たりにしている。その規模とは比べるのがおこがましい程の小さな火であるが確かに魔法であった。
「はい、私が隊長を任されている第八小隊は私を含めて全ての兵士が魔法を使えるようになりました。そして今日より第八小隊は魔法部隊として正式に発足する事になりました」
「なるほど、それは驚きだ」
極めて冷静に話しているリギルだが内心は驚きの連続でいつ取り乱してもおかしくなかった。リギルが落ち着いた対応をしている理由は息子であるベルギウスがその報告を暗い面持ちでしているからだ。
何かあると悟ったリギルは「ここで父である自分が取り乱していけない」とギリギリの所で踏み止まっていた。
「騎士なるべく父上には子供の頃から剣の訓練を受けてきました。しかしその期待に応えられず、道を違う事を謝りたくて……」
ベルギウスは目を伏せてリギルの顔を見ることが出来なかった。
父への裏切り、これがベルギウスを悩ませていた事であった。剣を捨て杖を取ると言う事は父への裏切りに他ならない。
幼少の頃から厳しかったが騎士を夢として語るベルギウスを見るリギルの表情は嬉しそうであり、ベルギウスが隊長に就任した時は誇りだと言ってくれた。
そんな父にベルギウスは顔向けが出来なかった。
訓練所にしばらく沈黙が訪れた後、ベルギウスは静かに口を開いた。
「お前にとって騎士とは何なのだ?」
それはベルギウスが幼少の頃から何度もリギルに問われた言葉であった。勿論ベルギウスは即答した。
「剣をもって悪を切り、盾をもって民を守る、王国の守護者です」
この言葉は何度もリギルに言い聞かされた騎士としての心構えである。それを一度だってベルギウスは忘れた事はない。
続けてリギルはベルギウスに質問した。
「その魔法は悪を討てるのか?民を守れるのか?」
ベルギウスは顔を上げるとリギルは真っ直ぐにベルギウスを見つめていた。
「はい!」
ベルギウスは力強く肯定した。ベルギウスが使う魔法は間違いなく大きな力である。そしてその答えを聞きリギルは満足そうに笑った。
「なら迷うことは何もない。剣を置き魔法を使ったとしてもお前は立派な騎士だ。誇りを胸に戦え」
「はい!」
リギルの明るい顔を見てベルギウスにも明るい表情が戻っていた。
その日二人は遅くまで語り合った。昔の思い出、父の現役時代の武勇伝、魔法を使った戦闘の事を。
そしてリギルに頼まれてベルギウスはほんの少しだけ魔法の訓練をしてあげた。




