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療養

シリウスはスウィストフの民を全員捕まえた後、ミラン家の屋敷に赴き捕虜の引き渡しと戦闘報告を執事に済ませ宿に向かった。

 シリウスからの報告を伝えた執事はその驚愕の内容を主人にに伝えるべきか苦悩した。そしてありのままを主人であるローディー・ミランに伝えると案の定烈火の如く怒り執事を怒鳴り散らした。

「平民だと!ふざけているのか!」

 シリウスの報告ではミラン騎士団を壊滅させたのは兵士でもなくただの平民であり、それもただの山賊行為によるものだと。

「確かに捕虜となった者は平民の様で……」

 執事も引き渡された捕虜を確認したところ見窄らしい格好の平民であった。どう考えてもあれを国の兵士と言うのには無理がある。

 しかしそんな事をローディーは納得できる訳がない。

「そんな訳があるか!それではミラン騎士団はただの平民に壊滅させられ!我々は平民に怯えて屋敷に篭っていたと言いたいのか!」

「結果的にはそう言うことかと……」

「黙れ!そんな事許される筈がないだろ!しかも捕まえたのがマジョルカニス家の者だ!ミラン家始まって以来の屈辱だ!未来永劫これから先もこんな屈辱はあり得ないだろ!」

 周りの物に当たり散らして暴れているローディーに執事もどうすれば落ち着いてくれるか分からずオロオロするばかりである。

 しばらくして投げる物も無くなりようやくローディーが息を切らせて止まったところで執事は切り出した。

「中央にはなんと報告すればよいのでしょう」

 その言葉にローディーは再び声を荒げて喚き出した。

「我々は領都でスウィストフの大軍と交戦していたと伝えろ!でなければミラン家はこれから恥を晒して生きていく事になるのだぞ!」

 ローディーの主張は明らかに嘘である。領都にスウィストフの大軍など来てはいないし交戦もしていない。ここ数日領民も何一つ変わらぬ日常を送っていた。

「虚偽の報告をするのは流石にまずいのでは?」

「ではどうする!真実をそのまま伝えるのか!どうせ中央の奴等はこの辺境に来ない!真偽を確かめる事なんてわざわざしないだろう!」

 滅茶苦茶な言い分を捲し立てるローディーに執事はもう何も言えなくなり、ただそれを頷く人形と化していた。

 心の中ではどうせ嘘がバレて糾弾されるのはローディーであり自分ではないと他人事であったからだ。

「とにかく!マジョルカニスの奴が報告する前にこちらが先に王都に赴いて戦果を伝えなければならん!」

「畏まりました。捕虜の処遇は?」

「勿論処刑だ!父を殺したのだ、全員処刑しろ!余計な事を話す前に即刻だ!」

 その日のうちにスウィストフの民は弁明の機会も無く処刑された。それと同時に王都に向けて使いを出して今回の戦争の報告を届けさせた。


「ここは……」

 ベルギウスは知らないベッドの上で目が覚めた。頭だけを動かして周囲を見てみると診療所ではなく、それなりにいい部屋である事は理解できた。しかし何故こんな部屋に自分が寝ているのかベルギウスは分からなかった。

 一人椅子に座って待機している小隊の兵士がベルギウスが動いているのに気が付いた。

「お目覚めですかベルギウス隊長」

「……ああ」

「シリウス様も心配しておりました」

 まだ目覚めたてでぼんやりしているベルギウスだが、シリウスという名を聞きある大事な事を思い出した瞬間ベルギウスは慌てて上半身を起こした。

「そうだ!シリウス様は!どうなった!敵は!」

 慌てて状況を聞き出すベルギウスに部下は落ち着いた声でシリウスを宥める様に報告した。

「大丈夫です。シリウス様は無事ですし、怪我人は隊長以外いません。村の被害もありません」

「そうか……」

 部下の報告に落ち着いたベルギウスは大きく息を吐いて安心した。

「隊長が目覚めたと皆に伝えてきます」

「そうしてくれ」

 部下が部屋から出ていき一人きりになったベルギウスは意識を失う直前のことを必死に思い出そうとしていた。

 ――いったいあの後どうなったのだ……シリウス様が敵を倒したのか?それに私は致命傷だった筈……

 ベルギウスは貫かれた筈の脇腹を撫でてみたが傷はなかった。ただ少し服を上げて見てみると確かに大きな傷跡は残されており、あれが本当の事だったと確信した。

 ベルギウスが訳も分からず何度も傷跡を撫で回していると扉が開きシリウスが入ってきた。

「ようやく目を覚ましたか」

「シリウス様!」

 ベルギウスは立ちあがろうとしたが目眩が起きてそのままベッドに座り込んでしまった。

「そのままでいい。血を流し過ぎたようでふらつくだろう」

「お言葉に甘えさせてもらいます」

 シリウスはベッドの近くの椅子に座りこれまであったことを話し始めた。

「端的に言えば作戦は無事成功した。そして君は私を庇って大怪我を負い三日間寝ていた」

「そうでしたか……」

「君は約束通り私を守ってくれた。誠に感謝する」

 シリウスは敬礼をしてベルギウスに感謝の意を示した。それに返すようにベルギウスも敬礼をした。

「シリウス様を御守り出来たことを誇りに思います」

 そうしてベルギウスは気を失った後の事を一通り聞いた。フルードが攻撃してきた事を、そして何故か傷を治す魔道具を渡してくれた事を。

 全てを聞きベルギウスはずっと疑問に思ってた事を口にした。

「ところでここは何処ですか?」

 ベルギウスは目覚めた時から疑問に思っていた。診療所でもなければ兵士の寄宿舎でもない。やたらと高級感のあるこの部屋を。

「ここは私が借りている宿だ」

「そんな!私には勿体無い」

「まあ、これには色々事情があるのだ」

「事情ですか?」

「どうやら派手に魔法を使ったもので我々は有名人になってしまった。それで外に出歩けなくてな。君もここに匿うように寝かせていたのだ」

 シリウスの魔法は遠くでも見る事ができ多くの目撃者がいた。更に助けた村人がシリウスの活躍を興奮気味に語り瞬く間にミラン領でシリウスは有名人となった。

 こうして民達の噂とミラン家の虚偽報告により最後の大賢者の伝説は謎を深める事になったのはそれからしばらくしてからの話である。

「そんな事になっていたのですね。確かに素晴らしい魔法でした」

 意識を失う前に見たシリウスの魔法はベルギウスの心に深い感動を与えていた。それははっきりと覚えていた。

「意識が戻ったとは言え長旅は身体に負担になるだろう。もう少しだけここに滞在して傷を癒せ。将軍への報告は既に使いを出しているから安心しろ」

「私など置いてシリウス様は先に戻られては?」

「命の恩人を置いていくほど冷たい人間ではない。それに君は私の護衛だろう?帰りもいてもらわないと困るのだが」

 シリウスの言葉にベルギウスはほんの少し涙ぐんだ。

「はい!直ぐに任務に復帰致します!それまでの間どうかお待ち下さい!」

 ベルギウスは敬礼をしシリウスと共に任務に就けた事を心から喜んだ。

「ではゆっくりな」

 そう言い残すとシリウスは部屋から出て行った。

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