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再会

「お久しぶりですね……叔父上」

 シリウスが久しぶりに会うフルードは屋敷に篭っていた時と比べて日に焼け肌は浅黒く、服装も貴族とはかけ離れた庶民的な物であった。手には杖を持ち何より目を引いたのがびっしりと呪文が書かれたマントを羽織っていた事だ。

 緊張した面持ちで話すシリウスとは対照的にフルードは世間話をする様な余裕な態度を見せていた。

「そうだな、九年振りだ。随分と凛々しくなった。それよりなんでお前が戦場にいる?お前が当主になったのか?」

「いいえ、父上は病に倒れています。長くはありません」

 それを聞いたフルードの表情は一気に変化した。

「ふっふふ!そうか!そうか!そうか!」

 口角を異常なまでに吊り上げて笑うその表情は昔の優しかったフルードの面影を完全に消してしまった。シリウスは警戒しているがフルードは特に何をするわけでもなく喜び叫んでいる。

「実にいい知らせだ。わざわざインタリーに戻ってきた甲斐があった。はっは!まさかアルドラがそんな事になっているとは!」

 その場でウロウロしながら勝手に一人で盛り上がっているフルードにシリウスは単刀直入に質問した。

「あの杖は叔父上が作った物ですね」

 フルードはシリウスの質問に急に動きを止めて向き直った。

「そうだ。しかしお前は優秀だな。あの杖の対抗策を直ぐに思い付くとは。それに魔法を囮に使うのもアルドラには出来なかっただろう。あいつはプライドが高いからな」

 対抗策を打たれたというのにフルードは相変わらず嬉しそうにしている。丘の下では兵士にスウィストフの民が拘束されているが見ている筈なのに。

「叔父上はインタリー王国に復讐するつもりですか?」

「復讐?私の目的はそんな矮小な事ではない。この杖を使えば騎士も魔法使いもいとも簡単に倒せる。それは実戦で証明された。つまりどういう事か。そう、戦争に魔法使いは必要なくなるのだ」

「まさか叔父上は貴族達を……」

「そうだ。この杖をもって貴族の時代は終わりを迎える。奴らの言う誇り高き大いなる魔法は私の矮小な魔法によって駆逐されていくのだ。実にいい気味だ」

 フルードの目的は才能ある自分自身を追いやった貴族への復讐であった。その復讐は貴族の権威や影響おも崩壊させる絶大な物である。シリウスは実際に杖の力を見ている為それが現実的に可能かどうか簡単に判断できた。

 この杖の登場により魔法使いは駆逐されるだろう。仮にインタリー王国の貴族がそれを拒んだとしても、他国がこの杖を使って侵攻してくれば否が応でも現実に直面しなければならなくなる。

「どうやら長く話しすぎたようだな」

 フルードが丘の下を見て呟いた。シリウスも丘を下を見ると兵士が必死の形相で走ってくるのが見えた。丘の上での異常を察知して救援に向かっているのだ。

 この状況を打破出来そうだと考えたシリウスは少しだけ強気に出た。

「貴族の失墜には興味ありませんが私は貴方を捕まえなければならない。そうなれば計画は破綻して貴族はそのままですよ」

 シリウスの挑発とも取れる発言にもフルードは余裕の態度を見せていた。実際余裕なのだ。

「はぁ、私が九年間一人で魔道具を作ってきたとでも?スウィストフには何人も弟子はいる。研究資料は残してある。少しすれば魔道具を大陸中に広める事になっている。私がいなくなってもこの流れは止められない。もはや私は重要ではないのだ」

 フルードの準備は何一つ抜かりはなかった。この場に現れたのも油断ではなく、決して揺るがない自信の表れである。

 これからの世界がどうなるか理解しているフルードはこの場で討たれても何一つ後悔は無いのだ。

「本気で魔法使いを潰すつもりなのですね」

「全ての人間が魔法使いになるのだ。潰されるのは貴族だけだ。ただお前には罪はない」

 そう言うとフルードは懐から小さな板の様な物をシリウスに投げ渡した。板には細く呪文が刻まれている。

「これは?」

「傷を治す魔道具だ。早くそいつに使ってやれ。必死に庇っているとなると大事な人なのだろう。お前なら呪文を見れば使い方くらい分かるだろう」

 シリウスも傷付き血を流しているが、それ以上にベルギウスの容態が危険であった。血を流しすぎたのか顔は青くなり呼吸も浅くなっている。

「そんな事をしていいのですか?」

「言ったろ?お前に罪はない。それにこれから必要になるはずだ。お前にとって、そして私にとっても」

 そう言い残しフルードは羽織っていた外套を頭に被るとシリウスの目の前から姿を消した。まるでそこに最初からいなかった様に。

 シリウスもベルギウスもこの見渡しの良い丘の上でフルードの接近に気付かず攻撃を許したのはこの外套によって姿を隠していたからだ。

「消えた……それも魔道具とやらですか?」

「そうだ、もう会う事もないだろう。お前もこれからの身の振り方を考えるがいい。一族から裏切り者が出たのだからな」

「言われなくとも」

「ふっ……そうか。余計なお世話だったな。それと……」

 フルードは言葉を詰まらせた。姿は見えないが何か言いたそうなのはシリウスにも伝わった。

「お前の魔法……素晴らしかったぞ。眩しく、羨ましい程にな」

 その言葉の真意はシリウスには分からなかった。しかし何処か悲しみを帯びたそんな声色であった。

 これがシリウスがフルードと交わした最後の言葉であった。これから二度とシリウスはフルードに会うことは無かった。

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