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大魔法

杖を手に入れたシリウス達は襲撃されていた村へと戻ってきていた。

 見張りの報告によるとスウィストフの民はあのまま村に残り、食料を漁り酒を飲んでいるらしい。家の中で震えていた村人も隙を見付けては逃げ出せる程であり警戒感が全く無かった。

 それはシリウス達にとっては好都合で直ぐに村の周囲を隠れながら包囲した。慎重に茂みの中に姿を隠しながら前進して敵に気付かれずに村を取り囲んだ。

 シリウスとベルギウスは丘の上で小隊の動きを見ていた。淀みなく動く小隊にシリウスは感心した。

 最後に配置に着いた兵士から合図を送られたベルギウスは改めて周囲を見回して全員が待機している事を確認した。

「総員配置に着きました。シリウス様いつでも構いません」

「では今すぐに」

 ベルギウスの報告にシリウスは即答して杖を構えた。これはマジョルカニス家から持ち出したシリウスの杖である。

 ベルギウスは邪魔をしない様周囲を警戒しつつ数歩だけシリウスから離れた。本来なら周囲を盾を構えて守るのが基本戦術であるが村を包囲するために人数を割いたのでシリウスを守る兵士は誰もいない。

 シリウスが目を閉じ大きく息を吸った。

「狂える炎よ我が命を聞け。天高く立ち上り、渦巻き、轟き喰らえ。天をも焼き尽くすその業火を輪転し新たな太陽として大地を照らせ」

 シリウスが呪文を演唱すると杖の先端から炎が渦巻きながら空へと昇っていく。そして天高くに立ち上がると炎は渦巻く様に巨大な火の玉を作り出した。

「これが魔法……綺麗だ……」

 頬を焦がす様な熱さを忘れ思わずベルギウスは息を呑んだ。それは心の底から湧き上がってきた純粋な感情であった。天空で神々しく煌めく火の玉はベルギウスの心も照らしていた。

 しかし見惚れていたのはベルギウスだけでスウィストフの民は突然起こった異常事態に動揺していた。それは当然である突如上空に巨大な火の玉が現れたのだ。この場合見惚れていたベルギウスの方がおかしかったのかもしれない。

「何だ!」「火の玉?どういう事だ!」「何が起きている!」

 スウィストフの民は酒を飲んで宴会をしていたがそれぞれ杖を構え臨戦態勢に入った。火の玉が出現した丘の方へ走っていく。

「その姿を竜に変え天を駆けろ。空を其方の支配下である」

 最後の演唱をシリウスが終えると火の玉の中から一匹の火のドラゴンが飛び出した。するとまた一匹、また一匹と次々に火の玉からドラゴンが産み落とされていく。

 産み落とされたドラゴンは村に向かって飛んでいく。そして村の上空を旋回してスウィストフの民を威嚇した。

「撃ち落とせ!」「殺すんだ!」「撃てー!」

 スウィストフの民は杖から石を放ち上空のドラゴンを撃ち落とそうと躍起になっている。しかし自由に飛び回るドラゴンに石は中々当たらず無闇に石を放っているだけである。

「しっかり狙え!」「やってる!」「うるさい!」

 スウィストフの民が混乱している様子をベルギウスは魔法に集中しているシリウスに伝えた。

「こちらの思い通りに動いてくれています」

「分かった。警戒しつつ次の合図を待て」

 シリウスの命令にベルギウスの返事はなかった。何かあったのかとシリウスがベルギウスの方を見るとベルギウスは申し訳なさそうな表情をしていた。

「どうした?」

「本当によろしかったのですか?シリウス様の魔法を囮に使うなんて。これではあんまりなのでは……」

「気にするな、安全に作戦が成功すれば過程など些事だ」

 シリウスが立てた作戦は単純なものであった。炎のドラゴンを上空に出し、杖の射程範囲内ギリギリを旋回させる。それを撃ち落とす為にスウィストフの民は魔法を放ち魔力切れにされる。そんな単純な作戦であった。

 勿論村ごと焼き払う事は可能であったがシリウスはそれを良しとしなかった。村は荒らされているとは言えまだ多くの村人が家の中に軟禁されており、スウィストフの民諸共焼き尽くしてしまうからだ。

 そうしてドラゴンは時折り低空飛行して脅かして見せたり、地上に降り立ったりと挑発行動を繰り返していくうちに徐々に放たれる魔法の数が減っていった。

 そして遂に誰一人魔法を放たなくなった。スウィストフの民は杖を構えて必死に叫んでいるが杖は全く反応しない。

「敵の魔法が見えなくなりました」

「予想通り魔力量は大した事ないようだ。これで奴らは魔法は使えない」

「突撃しますか?」

「ああ、この機を逃すな」

 シリウスの命令にベルギウスは頷くと持っていた笛を思い切り吹いた。

 村中に響き渡る甲高い笛の音を合図に丘の後ろに隠れていた兵士が一斉に飛び出して丘を駆け降りて村へと向かって行った。村を取り囲んで隠れていた兵士も茂みから飛び出して一気に村の包囲網を築いた。

「うわ!騎士団だ!」「逃げろ!」

 スウィストフの民は魔法を使えず村の中を右往左往と逃げ回っている。それでも必死で杖を構えて出せない魔法に頼る者もいる。村から出ようにも周囲を囲まれており、観念してその場にへたり込む者もいた。完全にシリウス達の勝利である。

 その光景を丘の上から見たシリウスは大きく息を吐いて杖を下ろした。すると火のドラゴンも燃え尽き消え去った。まるで最初からそこに存在してなかった様であった。

 シリウスは集中して疲れたのか再び大きく息を吐いた。

「ふー、これで今回の任務は無事に達成出来たな」

「シリウス様がいなければ生きて帰ることが出来なかった事でしょう。小隊長として感謝を申し上げます」

「そもそもマジョルカニス家が原因だ。気にする事はない」

 二人はお互いを称え合った。

 気の緩みは確かにあった。それがベルギウスの反応を僅かに遅らせた。

「シリウス様!伏せて下さい!」

 ベルギウスはシリウスの前に覆い被さる様に立った。シリウスは何が起きたのか分からなかったがベルギウスの肩越しに石の塊が迫ってきたのを辛うじて認識できた。

「ぐうはっあ!」

 飛んできた石はベルギウスの横っ腹を抉り貫通し後ろのシリウスにも怪我負わせた。ベルギウスはその場で力無く倒れてしまった。

「ベルギウス!無事か!」

 大地に血を流し倒れ込んだベルギウスにシリウスが声を掛けるがベルギウスは痛みに苦しみまともに返事をすることが出来ない。

 素人でも見れば分かる。明らかにベルギウスが受けた傷は致命傷であった。このままではベルギウスは確実に死ぬであろう。

「あの魔法てっきりアルドラかと思いきやお前だったか……シリウス」

 シリウスにとって聞き覚えのある声が聞こえた。シリウスが顔を上げるとそこには懐かしくしかし少し老けた見覚えのある男が立っていた。

「……叔父上」


 

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