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スウィストフ王国

スウィストフ王国は四方を山に囲まれた小さな小さな国である。国と呼ぶにはあまりにも小さく脆弱な国であった。

 夏は熱の逃げ場が無く大地は高温に達し、冬は山から吹き下ろす風が大地を凍らせた。平地も少なく、殆どが山の斜面に家を建て、畑もまた斜面に耕した。

 何故そんな過酷な地に国があるのか、それはスウィストフ王国が難民によって建国されたからだ。

 その昔、周辺国のインタリー王国やフランジャ王国の重税に苦しみ逃げ出した平民達が着の身着のままに山に入り、険しい道なき道を超えようやく辿り着いた安住の地であったのだ。そうして難民を率いたウィルと言う男が初代国王となりこの地に国を作ったのだ。

 王国と名乗っているが王に大した権力は無く、国民との距離感が非常に近かった。暮らしも質素であるのも国王もまたルーツが平民であるからだ。

 スウィストフの民も王もこの過酷な地から逃げ出さず生きるのは先祖が手に入れた自由と誇りを守る為であったのだ。

 そんなスウィストフ王国に転機が訪れたのが九年前に遡る。ある日一人の男がこの地にやって来たのが始まりであった。

「フルード・マジョルカニスという魔法使いが謁見を求めております」

 執務室で仕事に励むスウィストフの国王、グリエル・スウィストフに部下の一人が報告に来た。

 グリエルは王とは思えない日焼けした肌に短い黒い髪の何処にでもいそうな顔立ちをしており服装こそ多少着飾っているがパッとしない普通の男であった。

 この国では割と簡単に謁見でき国民もよくグリエルに陳情に来ていた。謁見自体はいつもの事だがそれよりもグリエルは気になった事があった。

「マジョルカニスというとインタリー王国の貴族ではないか。本物か?」

 スウィストフ王国に貴族が来る事など滅多にない。それもインタリー王国の上位貴族となれば尚の事だ。それゆえグリエルはマジョルカニスと名乗る偽物ではないかと怪しんでいた。

「特徴的な紅い瞳をしており本物かと」

「……会ってみよう」

 部下の報告を聞いてもグリエルは偽物ではないかと疑っていた。しかし仮に本物で追い返したとなるとそれは外交上の極めて重大な失態である。

 グリエルは謁見の間に行き、マジョルカニスと名乗る人物が来るのを椅子に座りながら待った。

 一応警備の兵士を二人待機させて座って待っていると重い扉が開かれた。

 現れたのは肩まで掛かる銀髪の紅い瞳の痩せた男であった。

 男はグリエルの前で膝をついた。

 その立ち振る舞いから明らかに平民ではないとグリエルは直感した。名ばかりの国王であるグリエルよりもこの男の方が気品があった。

「突然の謁見をお許しいただき誠に感謝いたします。私はインタリー王国に仕えていたフルード・マジョルカニスと言います」

 落ち着いた声で話す男をグリエルは本物だと認めて話を聞く事にした。

「使者が来るとは聞いていないが」

「いえ、私は使者ではありません。この地に定住する許可を貰いに参りました」

「何故だ」

「魔法の知識を持った貴族が他国に行くのは重罪であります。グリエル陛下には私を匿ってほしいのです」

 自分はとんでもない事を言ってる自覚があるのかとグリエルはこの男の正気を疑った。側に立つ兵士も顔を見合わせて驚いている。

「外交問題になるような事をわざわざ私が許可するとでも?」

「勿論私が蓄えてきた魔法の知識を陛下に捧げます」

「我が国は侵略などされない。魔法は必要ない」

 スウィストフ王国は侵略されない。それはスウィストフを囲む山々が外部からの侵略を阻み寄せ付けないからだ。そしてもう一つ、他国が苦労してまで手に入れてる程の地はないからである。

 必死に山を越えて侵略しても得られるのは過酷の地。そんなものどの国も欲しがらなかった。

 それが脆弱なスウィストフ王国がこれまで存続できた大きな要因であった。

「戦う為の魔法ではありません。生活に根ざした民の為の魔法です」

 そう言うとフルードは持っていた鞄から謎の文字と模様が描かれた箱を取り出した。そしてその箱を両手で持ち一瞬光ると箱の上部から暖かな火が現れた。

 その光景を見たグリエルも警備の兵も驚き身構えた。

「失礼しました。こちらは魔力を流すと火が出る道具です。この国では冬に使う薪を確保する為に苦心されていると聞きます。これを使えばその問題を解決できます。危険な物ではないのでどうぞご確認を」

 フルードは兵士の一人に箱を向けてた。兵士は躊躇するがグリエルが確認するよう指示すると恐る恐るフルードに近付き火が出る箱を受け取った。

 箱を持つと火は確かに本物で兵士はその暖かさを感じ取れた。

「これは凄い!凄いです陛下!」

 兵士は興奮気味に叫ぶと火が出る箱を撫で回すように見ている。勿論兵士に魔法の知識は無く、見たところでどのような理屈で火が出ているか分からない。

 兵士がグリエルの隣に戻るとグリエルは改めてフルードの話を聞いてみた。

「だが何故我が国なのだ?その技術をインタリー王国で使えばよかろう」

「あの国は私を必要としませんでした。だから私は私を必要とする国で生きたいのです」

 フルードがもたらす魔法はこの国にとってあまりにも魅力的であった。外交問題が生じる可能性があるのは分かっていたが、この機会を逃したら二度と無いだろうとグリエルは確信していた。

 そしてフルードはこれ以外にも魔法の知識があるに違いないとグリエルは踏んでいた。

 グリエルは悩んだ。いや、悩んでいる振りなのかもしれない。心の中では結論はとっくに出ているのだから。

「分かった。貴殿の定住を認めよう。その知識を我が国の為に役立ててくれ」

「ありがとうございます。この身朽ち果てるまでこの国に生涯を捧げます」

 フルードは深く頭を下げて忠誠を誓った。この瞬間スウィストフ王国で初めて魔法使いの国民が誕生した。

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