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叔父

「その……それはどういう事ですか?何故マジョルカニス家の人間がスウィストフに?」

 様々な疑問がベルギウスの頭の中に浮かんだがまず聞きたかったのはこれであった。貴族がわざわざ他国に移る、しかも魔法使いが、それはよっぽどの事情があるに違いなかった。

 ベルギウスの質問にシリウスは重々しく口を開いた。

「叔父は十年前に失踪したんだ。それから一度も会っていない。何処に行ったか、そもそも生きているかすら分からなかった。どうやらスウィストフにいたようだが」

「何故失踪したのですか?何か心当たりは」

 失礼を承知でベルギウスはシリウスに矢継ぎ早に質問を続けた。

「私の父との当主争いに負けたのだ」

「貴族の当主争いは苛烈だと聞きますが失踪する程の事なのですか?」

 ベルギウスは貴族の事情に疎い、しかしそれでも貴族の名を捨ててまで他国に行く理由が分からなかった。当主になれなくとも貴族であるならそれ相応の暮らしが出来るはずだ。そんな生活よりも重要な事があるのだろうかとベルギウスは感じた。

 シリウスは少し遠くを見るような目で語ってくれた。それは遠い過去を思い出すようにまたは懐かしむように。

「叔父は魔法の才能に溢れる人だった。常に研鑽を怠らず、研究に勤しみ、身内贔屓かもしれないが立派な人だと思った。反対に私の父は傲慢で魔法の才能も無く、かと言って努力するような事はしなかった。あの兄弟はあまりにも対照的だった」

 シリウスは子供の頃、傲慢で偉そうな父より叔父の方に懐いていた。フルードに魔法の質問をすれば熱心に聞き、的確に答えをくれた。

 フルードもまたそんなシリウスを気に入っていた。

「それなのに何故当主争いに敗れたのですか?現当主は魔法とは別の能力があったとか?交渉術といった」

「父にそんなものはなかった。ただ一つ父は魔力量が叔父より多かった、それだけだ」

 シリウスは何とも悔しそうな表情で吐き捨てるように言った。

「魔法を使う為には体に内包される魔力が必要になる。その魔力が多ければ多いほど同じ魔法を使ってもより強力になる」

 魔法について何も知らなかったベルギウスもこの話には納得できた。騎士の家系にも体格が大きい、それだけで家督を継ぐ者がいた。相手を威圧でき、馬鹿にされない為に。

「それで当主に選ばれなかったのですね」

「そうだ、貴族は戦争に勝つ為にいる。力無き者は貴族に相応しく無かったのだ。そうして叔父は父よりも努力し、魔法の知識を深め、長年の研鑽の結果、生まれ持った魔力の量によって当主争いに敗れたのだ。父も昔から知っていたのだろう、叔父の魔力が少ない事に。だから努力もせず叔父を馬鹿にしていた。どうせ自分が当主になると決まりきっていたからだ」

 力を込めて語っていたシリウスだが冷静さを取り戻したのか徐々に落ち着き始めた。

「その後すぐに叔父は屋敷から姿を消した。私は捜索しようと提案したが父はそれを拒否して放っておくことにしたのだ。どうせ何処かで野垂れ死ぬに違いないと笑いながらな」

 シリウスの紅い瞳に鋭さは無く、無力感に溢れる悲しいものであった。しかし一つ息を吐くといつもの凛々しい顔つきに戻っていた。

「ここまで長くなったな。それでこの杖の事に戻ろう」

 シリウスは叔父であるフルードの事を語ってくれたが重要なのはそこではない。

「そうでした、何故これが叔父の物だと?この杖はいったい何なのですか?」

「叔父の研究室はそのまま残されていた。父は私に片付けを命じた。そして研究室に残されていた研究資料を見て私は気付いた。叔父は魔力が少なくとも活躍できるような魔法を研究している事に」

 シリウスは杖をベルギウスに見せた。杖には見慣れない文字が刻まれており、先端には何かしらの図形が描かれている。

「この杖に刻まれてある呪文も研究室で見つけた走り書きと非常に似ている。おそらく叔父はスウィストフで完成させたのだろう……平民でも魔法が使える杖を」

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