第18話「断罪の間」
重い瞼を開いた瞬間、視界に広がったのは見慣れた天井だったが、その空気は明らかに異質で、肌にまとわりつくような圧と視線に、ここがどこなのかを嫌でも思い出させられた。
王の謁見の間。
体はまだまともに動かない。
だが、逃げ場もない。
横を見る。
エリシア王女がいた。
俯いている。
肩が震えている。
その姿だけで、何が起きているのかは理解できた。
視線を前へ向ける。
玉座。
そこに座る王が、こちらを見下ろしていた。
その目には、明確な軽蔑が浮かんでいる。
「悪しき罪人が目覚めた為、今一度罪状を読み上げる」
低く、よく通る声が響く。
逃げ場のない空間に、はっきりと。
「レオン、貴様は任務に同行していた慈悲深き我が兵士達を無惨に殺傷、挙句生埋めにしたな?」
言葉が、突き刺さる。
だが。
声が出ない。
何か言おうとしても、喉が動かない。
頭が重い。
体も動かない。
「言葉など要らぬ」
王はすぐに切り捨てる。
「我が国の英雄カイルが証人なのだから」
その一言で、場の空気が完全に固まる。
反論の余地はない。
最初から。
次の瞬間、王が何かを投げた。
金属音。
床を滑る音。
目の前で止まる。
それは。
俺の剣だった。
血がこびりついている。
あの時のまま。
王はゆっくりと視線を横へ向ける。
「エリシア」
名を呼ぶ。
王女の肩が大きく震える。
「その剣で、罪人を処せ」
静かな命令。
拒否を許さない声音。
「……できません」
小さな声だった。
だが、はっきりと拒絶だった。
王は表情を変えない。
「できぬ、ではない」
淡々と言う。
「やれ」
王女は動かない。
俯いたまま。
拳を握り締めている。
その時。
王が続けた。
「お前の奴隷がしでかした事だろう」
その一言で。
空気が変わる。
周囲から、ざわめきが広がる。
「そうだ」「責任を取れ」「甘やかした結果だ」
野次。
罵声。
容赦なく浴びせられる。
王女の手が震える。
呼吸が乱れる。
それでも。
耐えようとしている。
だが。
限界だった。
ゆっくりと。
王女は剣を拾う。
その手は震えている。
力が入っていない。
それでも。
持ち上げる。
目が合う。
一瞬だけ。
その目には。
涙が溜まっていた。
隠しきれていない。
ぽたり、と。
一粒。
床に落ちる。
剣が持ち上がる。
俺の頭上へ。
切っ先が、向く。
「……やめろ」
声が出る。
かすれている。
だが。
届かない。
王女の手が震える。
それでも。
止まらない。
止められない。
振り下ろされる。
その瞬間。
「――転写」
金属音。
鈍い破裂音。
剣が、弾ける。
刃が歪む。
脆くなった刀身は、衝撃に耐えられず弾かれ、そのまま横へと逸れて床に転がった。
場が凍る。
一瞬で。
俺はそのまま腕を上げ、剣を払い除ける。
体は重い。
だが、動く。
まだ。
終わっていない。
次の瞬間だった。
床の各所から、音もなく人影が現れる。
伏兵。
槍が、一斉にこちらへ向けられる。
囲まれる。
完全に。
「……なるほど」
王が静かに言う。
「やはり危険だな」
その目に迷いはない。
最初から。
こうするつもりだった。
王女が、息を呑む。
「お父様……!」
声を上げる。
だが王は見ない。
一切。
「殺せ」
短い命令。
槍が、一斉に動く。




