第14話「踏み落とす」
血の匂いがこもる洞窟の中で、俺は荒く息を吐きながらも必死に思考を回し続けていたが、さっきまでの戦いで一つだけ確信できたことがあった。
兵士には、効く。
魔力差で通らないのは“強い相手”だけで、目の前の近衛兵たちはそこまでの魔力を持っていない以上、俺のステータス転写は問題なく通る。
つまり。
「……全員、落とせる」
小さく呟いた瞬間、兵士が踏み込んできた。
速い。
だが、さっきまでほどの脅威ではない。
理由は単純で、“仕組みを理解した”からだ。
一人目の斬撃を紙一重で躱しながら、俺はそのまま距離を詰め、真正面から相手を捉える。
「――転写」
次の瞬間、兵士の動きが目に見えて鈍った。
筋力、敏捷、すべてが“俺と同じ水準”に落ちる。
さっきまでの鋭さが消え、踏み込みが甘くなる。
遅い。
そのまま腕を掴み、引き寄せ、膝を叩き込むと、骨に響く鈍い感触と共に相手の体が崩れ、そのまま地面に叩きつけられて動かなくなった。
「は……?」
周囲の兵士が戸惑う。
当然だ。
仲間が、急に弱くなったのだから。
だが、その理由を理解する時間はない。
二人目が来る。
三人目も同時に踏み込む。
俺は後ろに下がらず、逆に前へ出ることで距離を潰し、同時に二人の視線を引きつけると、わざと攻撃を誘って軌道を重ねさせる。
剣同士がぶつかり、動きが止まる。
その一瞬で十分だった。
「――転写」
二人まとめて視界に収め、片方へ意識を向ける。
成立。
次の瞬間、その兵士の動きが一気に鈍る。
バランスが崩れる。
巻き込まれるようにもう一人も体勢を崩す。
そこに踏み込む。
一人の顔面へ肘を叩き込み、もう一人の足を払って転ばせ、そのまま踏みつけるように押さえ込むと、二人とも動きを止めた。
「……ふざけるな!」
誰かが叫ぶ。
だが遅い。
もう分かっている。
この能力は“強くなる力”じゃない。
「……同じ土俵に落とすだけだ」
低く呟く。
強い相手には通らない。
だが、通る相手には絶対的に通る。
そして。
俺は弱い。
だからこそ。
「お前らも弱くなる」
兵士たちが一斉に踏み込んでくるが、その動きにはもう最初のような統率はなく、焦りと警戒が混じっていてわずかに連携が崩れているのが分かる。
なら。
終わりだ。
⸻
一人ずつ。
確実に。
視界に捉える。
近づく。
転写。
鈍る。
叩く。
落とす。
刃が体を掠め、血が流れ、痛みが積み重なっていくが、それでも動きは止めず、ただ淡々と目の前の相手を“自分と同じ場所”まで引きずり下ろし、その上で力任せに叩き潰していく。
やがて。
最後の一人が、後ずさった。
明確な恐怖が顔に出ている。
さっきまでの近衛兵の顔ではない。
ただの人間だ。
俺はゆっくりと歩く。
血が滴る。
足元に落ちる。
「来い」
短く言う。
兵士は震えながら踏み込むが、その動きはもう遅く、浅く、何の脅威にもならない。
一歩で詰める。
「――転写」
完全に落ちる。
そのまま体をぶつけ、地面に叩きつけると、動かなくなった。
静寂。
呼吸音だけが響く。
倒れている兵士たち。
全員、生きている。
だが、もう戦えない。
「……はぁ」
息を吐く。
全身が痛む。
血が流れる。
だが。
立っている。
視線を上げる。
残っているのは一人。
メルセデス。




