第9話「選別の依頼」
朝。
窓から差し込む光で目が覚めた。
昨日の疲れは多少残っているが、体は動く。
むしろ、頭の方が先に動いていた。
魔力。
増やせる。
あの感覚は間違いじゃない。
15。
たったそれだけでも、確かに変わった。
なら。
もっと上げれば。
どこまで届く。
どこまで通じる。
そこまで考えたところで、扉が叩かれる。
「レオン様」
聞き慣れない声だった。
「……はい」
扉を開けると、そこには近衛兵が立っていた。
姿勢は正しい。
無駄がない。
明らかに“伝令”だ。
「陛下がお呼びです」
短く、それだけ告げる。
俺は一瞬だけ考える。
嫌な予感しかしない。
だが。
断れる立場でもない。
「分かりました」
そう答えると、近衛は頷き、先導するように歩き出した。
⸻
王宮の廊下を進む。
静かだが、どこか張り詰めている。
昨日、王女から聞いた言葉を思い出す。
“お父様はまだあなたを認めていません”
その通りだろう。
むしろ。
嫌われている可能性の方が高い。
そんな相手に呼ばれる理由は、一つしか思いつかない。
試される。
もしくは。
切られる。
どちらにしても、ろくでもない。
⸻
謁見の間。
扉が開く。
中に入る。
王はすでに玉座に座っていた。
視線がこちらに向く。
冷たい。
昨日よりも、明確に。
「来たか」
それだけ言う。
俺は頭を下げる。
「レオンです」
王は軽く頷く。
形式だけのやり取り。
そして本題に入る。
「お前に任務を与える」
やはりか。
「城外に、小規模な魔物の巣が確認された」
簡潔な説明。
「本来であれば兵を出す程度のものだが」
そこで一度言葉を切る。
「お前に行かせる」
試験。
それ以外の意味はない。
俺は聞く。
「単独ですか」
王は即答する。
「好きにしろ」
責任は持たない、という意味だ。
続ける。
「結果だけを見せろ」
冷たい言葉だった。
だが分かりやすい。
成功すれば評価。
失敗すれば、それまで。
⸻
「……分かりました」
そう答えると、王はそれ以上何も言わなかった。
興味がないのか。
それとも。
最初から結果しか見ていないのか。
どちらでもいい。
俺はそのまま踵を返す。
⸻
謁見の間を出る。
扉が閉まる。
その瞬間、少しだけ空気が軽くなる。
「……露骨ですね」
小さく呟く。
試されている。
完全に。
だが。
悪くない。
分かりやすい。
⸻
廊下を歩いていると、角を曲がった先で見慣れた姿があった。
「レオン!」
エリシア王女だった。
こちらに駆け寄ってくる。
「お父様に呼ばれたと聞いて……大丈夫でしたか?」
心配そうな顔。
昨日の怒りはどこへやらだ。
俺は答える。
「任務を貰いました」
王女の表情が変わる。
「……どんな?」
「魔物の巣の討伐です」
その一言で、王女は理解したようだった。
少しだけ視線を落とす。
「やっぱり……」
予想していたのだろう。
俺は続ける。
「行ってきます」
王女はすぐに顔を上げる。
「待ってください」
強い声だった。
「一人で行くつもりですか?」
俺は少しだけ考える。
そして答える。
「……そのつもりでした」
王女は首を振る。
「駄目です」
即答だった。
「リュナを連れて行ってください」
その名前が出る。
確かに。
戦力としては最適だ。
俺は少しだけ苦笑する。
「断られそうですけど」
王女は言う。
「大丈夫です」
なぜか断言する。
「もう話は通しています」
……いつの間に。
⸻
自室へ戻る途中。
その意味を考える。
王は試している。
王女は守ろうとしている。
そして。
リュナは。
おそらく。
もう動く前提になっている。
⸻
扉を開ける。
中に入る。
そこには。
すでにリュナがいた。
「遅い」
一言。
いつも通りの無表情。
だが。
弓は準備されている。
完全に戦闘態勢だった。
俺は苦笑する。
「行く気満々ですね」
リュナは短く答える。
「当然」
そして続ける。
「試されてる」
やはり分かっている。
俺は頷く。
「ですね」
リュナは一歩前に出る。
「なら」
一言。
「結果出す」
シンプルだった。
だが。
それで十分だった。




