第3話「訓練場」
翌日。
王宮の中庭にある訓練場。
朝から騒がしかった。
「例の奴隷らしいぞ」
「王女様のお気に入りだとか」
「本当に強いのか?」
視線が集まる。
俺に。
……居心地は良くない。
カイルが隣で腕を組む。
「気にするな」
「こういう連中は結果しか見ない」
俺は答える。
「結果も出してないので」
カイルが苦笑する。
「お前な」
その時。
鎧を着た男が前に出てきた。
いかにも貴族という雰囲気。
無駄に整った装備。
「貴様がレオンか」
俺は軽く頭を下げる。
「そうです」
男は鼻で笑う。
「噂は聞いている」
「魔族を倒したらしいな」
少し間を置く。
「だが」
「快光がいたのだろう?」
予想通りの言葉だった。
俺は答える。
「そうです」
男は満足そうに頷く。
「やはりな」
そして剣を抜いた。
「ならば試させてもらおう」
「実力をな」
周囲がざわつく。
カイルが一歩前に出る。
「待て」
男が睨む。
「部外者は引っ込んでいろ」
「これは王宮騎士としての確認だ」
面倒だと思った。
だが。
断る理由もない。
俺は言う。
「分かりました」
カイルが小さく言う。
「無理するな」
俺は軽く頷く。
⸻
訓練場の中央。
距離を取る。
相手は構える。
無駄のない動き。
少なくとも弱くはない。
周囲の視線。
試されている。
俺は考える。
魔力はまだ少ない。
無駄撃ちは出来ない。
男が踏み込む。
速い。
剣が振られる。
俺は一歩下がる。
風圧。
ギリギリで避ける。
「ほう」
男が笑う。
「避けるだけか?」
次の瞬間。
さらに速くなる。
連撃。
俺は下がる。
避ける。
避け続ける。
……このままじゃ終わらない。
タイミングを見る。
一瞬。
踏み込みが大きくなった。
その瞬間。
手を上げる。
「ステータス転写」
対象。
目の前の男。
一瞬。
何も起きない。
次の瞬間。
男の動きが鈍る。
「……何?」
剣の軌道がぶれる。
遅い。
明らかに。
さっきより。
俺は一歩踏み込む。
軽く押す。
それだけで。
男は体勢を崩して転んだ。
静寂。
誰も動かない。
男は地面に手をついたまま固まっている。
「……力が」
自分の腕を見る。
震えている。
俺は距離を取る。
これ以上は必要ない。
カイルが言う。
「そこまでだ」
周囲がざわつく。
「今の何だ」
「急に弱くなったぞ」
「魔法か?」
男が立ち上がる。
悔しそうに歯を食いしばる。
だが何も言えない。
そのまま去っていった。
⸻
視線が変わる。
さっきまでの疑いが
少しだけ
興味に変わっていた。
カイルが言う。
「見せたな」
俺は答える。
「少しだけです」
リュナがいつの間にかいた。
「無駄が多い」
俺は苦笑する。
「分かってます」
リュナが言う。
「魔力の流れ」
「乱れてた」
確かにそうだった。
さっきの一撃。
かなり消耗している。
「……効率か」
リュナは頷く。
⸻
その時。
上から声がした。
「面白いものを見せてもらった」
全員が振り向く。
二階のバルコニー。
王が立っていた。
空気が変わる。
全員が膝をつく。
俺も倣う。
王がこちらを見る。
初めて。
しっかりと。
「今の魔法」
「何だ」
俺は答える。
「ステータス転写です」
王は少しだけ目を細める。
「……聞いたことがないな」
当然だと思う。
俺も知らない。
王は続ける。
「確かに妙な力だ」
少し間を置く。
「だが」
その一言で空気が冷える。
「それだけで魔族を倒したとは思えんな」
カイルが顔を上げる。
だが何も言わない。
王は言う。
「いずれ分かるだろう」
「真価も」
「限界も」
それだけ言うと去っていった。
⸻
静寂。
重い空気。
俺は立ち上がる。
カイルが言う。
「気にするな」
俺は答える。
「気にしてません」
本当だった。
だが。
少しだけ。
思うことはあった。
リュナが言う。
「証明すればいい」
俺は見る。
リュナは続ける。
「強くなれば」
シンプルな答え。
だが正しい。
俺は呟く。
「……魔力か」
まだ足りない。
全然足りない。
俺は訓練場を後にする。
向かう先は決まっている。
書庫。
やることは一つ。
強くなる。
それだけだ。




