第1話「凱旋」
王都の門が見えた。
高い城壁。
見慣れたはずなのに、少しだけ違って見える。
カイルが言う。
「帰ってきたな」
リュナは何も言わないが、少しだけ周囲を見ている。
エリシア王女は前を見たまま言った。
「……すぐに報告になります」
その声は、少しだけ緊張していた。
俺は特に何も感じなかった。
帰ってきただけだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
門が開く。
兵士たちが一斉に道を開けた。
ざわめきが広がる。
「王女様だ」
「帰還されたぞ」
「ダンジョンはどうなった」
視線が集まる。
王女に。
カイルに。
リュナに。
そして――少しだけ、俺にも。
城へ向かう途中、兵士の一人が小さく言った。
「魔族を倒したって話は本当か」
別の兵士が答える。
「快光が来たらしいぞ」
「なら納得だな」
俺は何も言わない。
その通りだと思ったからだ。
⸻
王城。
謁見の間。
王が玉座に座っている。
重い空気。
報告は王女から行われた。
「ダンジョンにて魔族将軍と遭遇」
「交戦の末、これを撃破」
「王都への被害は最小限に抑えました」
王は静かに頷く。
「……そうか」
そして言う。
「快光が来ていたな」
王女が一瞬だけ言葉に詰まる。
「……はい」
王は続ける。
「隣国最強のパーティだ」
「彼らの力が大きかったのだろう」
カイルが口を開く。
「陛下、それは」
王が手を上げて制する。
「分かっている」
だがその視線は俺を見ない。
「お前たちの働きもあった」
「ご苦労だった」
それで終わりだった。
⸻
謁見の間を出る。
王女が振り返る。
「……申し訳ありません」
俺は首を傾げる。
「何がですか」
王女は言う。
「レオンの功績が正しく評価されていません」
俺は少し考える。
そして答える。
「別に気にしてません」
本心だった。
元々、評価される立場じゃない。
王女が言う。
「ですが」
「あなたがいなければ」
俺は遮る。
「自分は奴隷ですので」
一瞬。
空気が止まる。
王女の表情が変わる。
「違います」
はっきりと言い切った。
「あなたはもう奴隷ではありません」
俺は少し困る。
どう返せばいいのか分からない。
王女は続ける。
「今回の功績」
「そしてこれまでの働き」
「それらを踏まえ」
少し間を置く。
「王宮の一室を用意します」
俺は思わず言う。
「いやそれは」
王女が被せる。
「決定事項です」
カイルが苦笑する。
「断れないやつだな」
リュナが小さく言う。
「良い環境」
⸻
その日の夕方。
案内された部屋は、広かった。
ベッド。
机。
棚。
窓からは王都が見える。
どう見ても奴隷の部屋ではない。
俺は立ったまま言う。
「……いいんですかね」
王女が答える。
「いいんです」
「むしろ当然です」
俺は少し考える。
やっぱり分からない。
王女は俺を見る。
「レオン」
「ここで生活してください」
「そして」
少しだけ優しく言う。
「自分のために力を使ってください」
俺は視線を外す。
自分のため。
そんな発想は今まで無かった。
王女が続ける。
「王宮には書庫があります」
「魔法に関する資料も豊富です」
その言葉で、少しだけ意識が変わる。
書庫。
魔法。
魔力。
俺は言う。
「……行ってもいいですか」
王女が微笑む。
「もちろんです」
⸻
夜。
部屋に一人。
静かだ。
あまりにも静かだ。
俺はベッドに座る。
そして手を見る。
思い出す。
魔族に効かなかったあの瞬間。
魔力差。
リュナの言葉。
魔力を上げれば。
俺は呟く。
「……どうやって」
分からない。
だが。
調べる場所はある。
立ち上がる。
視線を窓の外から、部屋の扉へ向ける。
「まずは」
「書庫か」
王都の夜は静かだった。
だがその中で。
確かに一つ。
動き始めていた。




