第26話 将軍の最期
ダンジョンに静寂が落ちる。
ヴァルグ=ゼノスは膝をついていた。
胸の十字の傷から黒い血が流れる。
ゼイルがゆっくり近づく。
剣を構えたまま言う。
「終わりか?」
ヴァルグ=ゼノスは小さく笑った。
「見事だ」
カイルも剣を構えたまま立つ。
警戒は解かない。
魔族は顔を上げる。
赤い目がこちらを見る。
「人間」
その視線は俺へ向いた。
俺はまだ床に座り込んでいる。
魔力は完全に空。
ヴァルグ=ゼノスが言う。
「貴様の魔法」
俺は肩をすくめる。
「弱体化魔法ですよ」
魔族は首を振った。
「違う」
静かな声。
「基準を書き換える魔法だ」
俺は少し笑う。
「前にも言ってましたね」
ヴァルグ=ゼノスは続ける。
「その魔法は」
「世界を壊せる」
ゼイルが言う。
「大げさだな」
魔族は答える。
「大げさではない」
そしてゆっくりと言う。
「だから」
「我らは探していた」
カイルが眉をひそめる。
「探していた?」
ヴァルグ=ゼノスは俺を見る。
「その魔法の使い手を」
ダンジョンの空気が少し変わる。
俺は思わず言う。
「いや偶然ですよ?」
魔族は笑う。
「偶然ではない」
リュナが小さく言う。
「どういう意味」
ヴァルグ=ゼノスは答える。
「世界には」
「基準を歪める力が存在する」
「それを持つ者は極めて少ない」
ゼイルが剣を少し下げる。
「で?」
魔族は続ける。
「その力は」
「いずれ魔王の敵になる」
沈黙。
俺は思わず言う。
「いや重い話ですね」
ゼイルが笑う。
「確かに」
ヴァルグ=ゼノスは小さく息を吐いた。
体が少し崩れる。
もう長くない。
魔族は言う。
「人間」
その声は少し静かだった。
「強くなれ」
カイルが目を細める。
「敵に助言か」
魔族は答える。
「違う」
そして俺を見る。
「貴様はまだ弱い」
「だが」
「その魔法は本物だ」
少し間を置く。
ヴァルグ=ゼノスの体が崩れ始める。
影が霧のように消えていく。
最後に魔族は言った。
「いずれ」
「魔王と会うだろう」
赤い目がゆっくり閉じる。
その瞬間。
ヴァルグ=ゼノスの体は
黒い粒子となって消えた。
ダンジョンに完全な静寂が戻る。
ゼイルが剣を収める。
「終わったな」
カイルも剣を下ろした。
リュナが小さく息を吐く。
快光の大剣の男が笑う。
「将軍一体撃破か」
魔法使いが空を見上げる。
「大事件ですね」
俺はその場に座り込んだまま言う。
「いや本当に疲れました」
ゼイルがこちらを見る。
そして笑った。
「兄ちゃん」
俺は顔を上げる。
「はい」
ゼイルが言う。
「いい魔法持ってるな」
俺は苦笑する。
「まだ全然使いこなせてないです」
ゼイルは頷く。
「だから面白い」
そしてダンジョンの奥を見る。
「この先」
「もっとヤバいことになりそうだ」
俺はその言葉を聞きながら思う。
ヴァルグ=ゼノスの言葉。
魔王。
俺の魔法。
そして――
この世界の戦い。
まだ
始まったばかりだった。




