第25話 最後の影
影の鎧が砕けた。
黒い破片が霧のように消えていく。
ヴァルグ=ゼノスの胸には深い斬撃。
だが――
まだ立っている。
ゼイルが剣を構える。
「しぶといな」
カイルも剣を握り直す。
「将軍クラスだ」
俺はその場に膝をついていた。
魔力は完全に空。
体が重い。
立つのもやっとだ。
リュナが隣にしゃがむ。
「大丈夫」
俺は苦笑する。
「まあ、なんとか」
ヴァルグ=ゼノスがゆっくりと顔を上げた。
赤い目がこちらを見る。
「人間」
低い声。
だがどこか楽しそうだった。
「ここまで追い詰めたのは久しぶりだ」
ゼイルが笑う。
「光栄だな」
魔族は静かに言う。
「だが終わりだ」
その瞬間。
影が動いた。
だが魔物にはならない。
影は地面へ広がる。
ダンジョンの床すべてに。
黒い海のように。
リュナが呟く。
「影が広がる」
魔法使いが顔色を変えた。
「まずい」
次の瞬間。
影の中から
無数の刃が突き出した。
床全体が武器になる。
ゼイルが舌打ちする。
「範囲攻撃か」
大剣の男が叫ぶ。
「避けろ!」
刃が次々と突き出す。
床。
壁。
天井。
逃げ場がない。
カイルが剣で弾く。
リュナが後ろへ跳ぶ。
ゼイルが影の刃を斬り飛ばす。
だが数が多すぎる。
ヴァルグ=ゼノスが手を握る。
影がさらに動く。
巨大な刃が形成される。
天井ほどの大きさ。
ゼイルが眉をひそめる。
「デカいな」
魔族が言う。
「終わりだ」
巨大な影の刃が振り下ろされる。
ゼイルが踏み込む。
剣を振り上げる。
ガン!!
衝撃。
だが止めきれない。
床が割れる。
カイルが横から斬り込む。
影が少し裂ける。
だが巨大すぎる。
ゼイルが叫ぶ。
「押し負ける!」
その時。
大剣の男が前へ出た。
「どけ」
大剣を両手で握る。
そして振り上げた。
「砕けろ」
ドォォォン!!
大剣が影の刃に叩きつけられる。
影が砕ける。
だが完全には壊れない。
ヴァルグ=ゼノスが笑う。
「無駄だ」
影が再生する。
そして再び巨大な刃が振り下ろされる。
ゼイルが歯を食いしばる。
「くそ」
俺はその光景を見ていた。
魔力はない。
ステータス転写も使えない。
でも。
影。
全部影だ。
つまり。
作られている。
俺は呟く。
「……待てよ」
リュナが振り向く。
「何」
俺は言う。
「影って」
「光があれば消えるよな」
リュナの目が少し見開く。
俺は叫ぶ。
「光魔法!」
快光の魔法使いが振り向く。
「何?」
俺は言う。
「影を作れないくらい光を出せばいい!」
一瞬。
沈黙。
そして魔法使いが笑った。
「なるほど」
杖を掲げる。
巨大な魔法陣が広がる。
「やってみましょう」
光が集まる。
ダンジョンが昼のように明るくなる。
ヴァルグ=ゼノスが目を細めた。
「……!」
次の瞬間。
閃光
ダンジョンが光で満たされた。
床の影が消える。
影の刃が崩れる。
ヴァルグ=ゼノスの影も薄くなる。
ゼイルが笑う。
「チャンスだな」
カイルが頷く。
「行くぞ」
二人の剣士が同時に走った。
ヴァルグ=ゼノスが迎え撃つ。
だが影が使えない。
動きが鈍る。
ゼイルの剣。
カイルの剣。
二つの斬撃が同時に走る。
ザン!!!!
ヴァルグ=ゼノスの体に
深い十字の傷が刻まれた。
魔族の体が大きく揺れる。
ダンジョンに静寂が落ちた。
ヴァルグ=ゼノスはゆっくりと膝をついた。




