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逃亡

「太平洋戦争ってなんですか!」

食器を洗っている今川に木下は何度も問う。それに対して今川は,

「君が知る必要はないから大丈夫だ」

とだけで答える。大正時代としか情報がないがまさか第二次世界大戦がそのうち起こりそこで日本が大敗するなんてことを知れば木下は必ずパニックを起こすし何かの拍子で元の時代に戻っても不安や恐怖を抱えたまま生活をしなければならなくなってしまう。そうならないためにも話してはいけないと今川は思った。

「なんで答えてくれないんですか!」

「君が知る必要はない。ただそれだけだ」

「このまま知らないままだともやもやします!教えてください!」

「大丈夫だ,君はまだ知らなくていい」

「教えてください!」

「知らなくていいと言っているだろ!何度も言わせるな!」

ついに今川は怒鳴ってしまった。木下は目を丸くして黙りそのまま時間が止まる。蛇口から勢いよくアルミのキッチンに流れる水音だけが時間を進める。

木下はだんだんと目を細めると顔を歪めて泣き出し玄関に走っていった。急いで今川は手の泡を水で軽く流し玄関に向かう。玄関にはすでに木下の姿はなく戸がゆっくりと閉じているところだった。


木下は住宅街を走り街に出た。そしてふらふらとしながらビルの陰にうずくまった。

見ず知らずの相手にもかかわらず優しくしてくれた今川を怒らせてしまったショックとこれから来る戦争への不安がぐちゃぐちゃに入り混じっていた。

そこにTシャツにジーパン姿の若い三人の男が声をかける。

「お嬢ちゃん,どうしたの?話聞こうか?」

だが,返事はない。

「その和服かわいいね。なんか祝い事でもあったの」

別の男が話しかけると木下は小さな声で何かをいう。男たちは聞こえず「え」と聞き返す。

「お嬢ちゃん,もう一回いってもらっていいかな」

「・・・てなんですか」

「え,なにが?」

「太平洋戦争ってなんなんじゃ!」

木下は目の周りが真っ赤に腫れた顔を男たちに向ける。目にはこぼれそうなほど涙がたまっていた。

「太平洋戦争って何なんじゃ!これから何が起こる!教えてくれ!」

木下のあまりの剣幕に押され男たちは後ずさりする。

そして,大粒の涙を流しながら続ける。

「私はどうしたらいいんじゃ・・・」

泣き崩れる木下の姿を男たちは茫然と見る。しばらくして一人が「おもしれー」と小声でつぶやいきにやりと笑う。

「お嬢ちゃん,もう俺たちがきたから大丈夫だよ。太平洋戦争のことならよく知っているから落ち着ける場所に連れて行ってやるからついてきて」

そういうと男は強引に木下の腕をつかむ。木下は困惑した様子で男に連れていかれる。

「ちょっと待ってくれ!」

前の人込みから大声がし,男たちは足を止める。人ごみを縫うようにスーツ姿の男が男たちの前に立ちふさがった。

「すまない,君たち。私は今川というものだ。その子は私の娘でね。見つけてくれてありがとう」

今川は息を整え,「さあ,帰ろう」と木下の肩をつかむ。だが,男は腕をつかんだまま今川の進行を阻止する。

「この子の腕を離してくれないか」

「それはできねーな。ちょっとばかりこの子俺らに貸してくれね?」

「断る。手を放しなさい」

「こっちは三人ですよ」

今川の前にTシャツ姿の男が二人出る。

「構わん,全員ハチの巣にしてやる」

そういうと男たちにだけ見えるようにスーツの内ポケットから銃のようなものをちらりと見せる。それを見た男たちはすぐさまどこかに逃げて行った。木下も銃におびえて固まる。

「安心しなさい,ただの模型だよ。おもちゃだ」

穏やかな口調で今川は木下にいった。木下はそれを知って胸を撫でおろす。

「怪我はないかい」

木下はこくりと大きくうなずいた。

「それじゃ,帰ろうか」

いつの間にか空は赤くなっていた。

こんにちは!春桜結分です!

恋愛が書きたいと思いこっちを書きました。(とはいえ恋愛ものかは怪しい)

書きながら気が付いたんですけどまだ一日経ってないんですね・・・。いろいろなことがある一日ですね。

それでは,最後まで読んでいただきありがとうございました!

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