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鉄血女帝アナスタシア 第六十二話

 1914年8月17日


 ロシア・ドイツ国境付近 ロシア陸軍第一軍


「レンネンカンプ大将、偵察機からの報告です。シュタルペーネン付近のドイツ第八軍第一軍団の一部4万に動きがあるようです」


 ロシア軍は国境より約10キロほど後退した場所に塹壕陣地を形成していた。アナスタシアが用意した作戦は、国境線を越えてきたドイツ軍をこの10キロの地帯で防御するというものだ。しかし、当初この作戦にジリンスキー北西方面軍司令官が積極性が無いと大反対した。


 ◇


「皇帝陛下!兵は神速を尊ぶと言います。宣戦布告してきたのはドイツなのですよ。皇帝陛下のおかげで新兵器もある程度配備されつつあります。それなのに我が帝国の領土内で防衛線を構築するのは積極性に欠けると言わざるを得ません!私の北西方面軍にベルリンを落とせとご命令頂ければ一週間で落として見せます!」


 ジリンスキーの提案した作戦は、レンネンカンプ将軍率いる第一軍とサムソノフ将軍率いる第二軍とでドイツ第八軍を包囲殲滅し、その勢いのままノテチ川沿いにベルリンを目指すというものだったんだけどね、戦争の素人の私にも解るわよ、この作戦は絶対に失敗するって。


「ジリンスキー司令。偵察機によって敵の位置はほぼ特定できているとは言え数はロシア軍に匹敵しています。幾つかの新兵器は配備できていますが戦闘車両や航空機が量産できていない以上、まともにぶつかれば我が軍にもかなりの損害が出るのではなくて?しかも第一軍と第二軍の距離は120kmも離れてるのよ。それに敵軍も同じ場所にじっとしているわけないし。地図の上じゃ消しゴム一つくらいの戦域に見えるけど、まともな道路も無い農地や湿地を神速で駆けることなんて不可能だわ」


 このおじいちゃん、露日戦争でも参謀を務めたんだけど結局敗北してる。インテリ風なのになぜか精神論強めなのよね。ちょっと能力的に怪しいんだけど。


「何をおっしゃいますか皇帝陛下。敵が動くのは当たり前です。我が軍は高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に敵を包囲するのです。そして敵第八軍を挟撃し鎧袖一触粉砕した後にベルリンを目指します。万が一ベルリンに到達出来なくとも敵地奥深くまで侵攻することでヴィルヘルム二世の心胆を寒からしめることが出来ましょう」


 うーん、ちょっと頭が痛くなってきたわ。臨機応変ってつまりは行き当たりばったりって事よね。


「じゃあジリンスキー司令、この作戦の戦略的達成目標はヴィルヘルム二世を驚かせると言うこと?その為に方面軍30万の兵を投入するの?第一軍と第二軍が100km以上離れてたら各個撃破される可能性は無いの?舗装もされてない泥濘湿地で補給は間に合うの?」


 “バカなの?死ぬの?”って続けて言いそうになっちゃったわ。


「皇帝陛下!敵の攻勢を恐れていては何も出来ません!戦争で犠牲が出るのは当然ではないですか!ドイツ領内に入れば補給は現地でどうとでもなるでしょう。最後に一兵でも残っていればロシアの勝利です。戦いには“機”というものがあります。敵を殲滅するチャンスなのですよ!それを逃しては結局運命そのものに逆らうことになります!」


 何が“機”だよ!ふざけんな!そんな思い込みに大事な若い兵士の命をベットするなんて出来るか!それに現地で略奪する気満々じゃねーか!しかも最後の一兵って何だ?略奪の限りを尽くした挙げ句に全滅前提かよ!一人で興奮して私の顔にツバを飛ばしてくるな!このクソじじい!


「現時刻を以てジリンスキー司令をロシア帝国陸軍最高顧問に任命しますわ。そしてロシア軍の代表としてパリの駐仏ロシア大使館に赴いて下さい。フランスとの合同作戦が発生する場合は一番重要な仕事になりますわよ。参謀総長も務められたあなたの手腕を信じています。最終決戦の時にあなたの活躍がロシアの命運を分けますわ」


「え?皇帝陛下・・・いや、それは・・・」


 さすがに左遷だって事くらいはわかったみたいね。でもね、略奪前提でしかも兵の命を軽んじるような司令官に用は無いのよ。


「出世ですよ。これで退役した後の年金も多くなりますわね。もう下がって良くてよ」


 ◇


「レンネンカンプ大将、レーダー中隊から連絡!敵の偵察機の可能性!距離70000m、方位北北西」


「よし、レイシキを上がらせろ。連中に情報を持って帰らせるなよ」


 ロシア軍の前線には実用化されたばかりのJGE製の移動式レーダーが配備されていた。真空管とマグネトロンで構成された初歩的な物だが、索敵範囲は高度4000m付近なら150km、高度1000m付近で70km程度ある。電力を大量に消費するためアンテナ車両、制御装置車両、発電車両の合計3台で一小隊、さらにバックアップ部隊を入れて中隊を形成していた。


「皇帝陛下は、これからは航空機の時代だとおっしゃられていた。そして、それに対抗するためにこんなレーダーを開発するとは。さすがロシアの叡智、聖女レーニナ様だ。神の加護があるとしか思えんな」


「はい、レンネンカンプ大将。しかも8000m以上に上昇できて最高速が650km/hの航空機など誰が想像できるでしょう。まだ前線への配備はほとんどありませんが、半年後には3000機が揃うなどちょっと信じられませんな」


 ◇


 ドイツ第八軍第一軍団


「フランソワ大将、ロシア軍と思われる航空機が度々目撃されています。おそらく偵察機ではないかと思われます」


「ロシア軍の偵察機はあんな高度が飛べるのか・・・。これでは我が軍の布陣が筒抜けだな。副官はどう思う?」


「ロシアは技術後進国だと思っていましたが、その認識を改めないとまずいですな。この一年間で高性能な無線機やラジオ技術、新合金に抗生物質などの医薬品を次々に発表してドイツやフランス・イギリスを驚かせています。実際、我が軍でもロシア製の無線機が大量に配備されていますし。しかし技術は急激に進歩できても、軍の展開はそういうわけにもいかなかったようです。動員が間に合っていないのは防御線を10キロ後退させていることからも明らかでしょう」


「技術後進国のロシアにあんな飛行機が作れるとは驚きだが、それでもシュリーフェン・プランの予測の通りロシア軍は動員が間に合っていないのだろうな。積極的な攻勢に出てこないのは、出る準備が出来ていないということか。我が軍の偵察機はどうなっている?後方の方面軍司令部からは何も言ってこないのか?」


 我がドイツ軍にも最新鋭の飛行機がある程度配備されている。この東部戦線にも何機か配備されていて偵察任務に当たっているはずだが、その成果報告が一向に来ないのはどういうことだ?確かにこちらの偵察機はあんな高空は飛べないが、全て撃墜されていると言うのも信じがたい。


「はい大将、今のところは何の連絡もありません。国境を越えず防御に徹するようにとのことです」


 足の速い騎馬の強行偵察と現地協力者からの情報で、敵ロシアの第一軍と第二軍の距離は100km以上も離れていることが確認できた。これでは機動的な連携は取れないだろう。この状況なら十分に各個撃破できる。防御に徹するという司令部の判断は正しいように思えるが、ロシアは偵察機を飛ばして我々の布陣を知っているはずだ。それなのに第一軍と第二軍の距離がこれほど離れているのには何か策が有るのでは無いか?それとも策を準備している途上か?


「我が第一軍団の正面にいるのはロシア第一軍の一部2万ほどか。本部の命令は防御だが、積極的防御策という考え方もある。副官、明日早朝に仕掛けて様子を見る。可能なら正面の敵を撃破して橋頭堡を確保するぞ。兵を十分に休ませておけ」



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― 新着の感想 ―
北西方面軍司令とのやりとり、ほかのスタッフがどのように聞いて、どのように外部に広がるか興味がある
確定申告お疲れ様でした。 集計作業大変でしたね。 ジリンスキー司令から、牟田口廉也を連想してしまいました。 史実サムソノフはタンネンベルク敗戦後に自決した由。 ジリンスキー更迭は妥当ですね。 そし…
レイシキ、レイシーキ?、レイシキー?、もうロシア語にしか聞こえません(笑)。
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