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第9話 2号原爆真正起動アプリ

「忍さん、相変わらず、腕がいいわねえ」

「ナイトメアのスタイリストだけあるよ」


 絵里のギザギザ頭を整えた忍さんを評した渡辺教授と中井教授。


  ナイトメア


 悪夢。


 どこかで聞いた。


  そうだ


 7月15日海の日。


  21:55


 千代田線国会議事堂前駅での衣編に谷の杉沢裕のアナウンス。


「今日はミユキーの誕生日です。

 皆さん、ミユキーを覚えていますか? 

 ナイトメアのセンターでした」


  悪夢の始まり


「いいかげんにしてください!」

 

 梨奈は警官隊に向かって叫び、同じ時刻、長野で絵里の親父の淫行が発覚。

 

  ナイトメアのミユキー


 誰だろう。


 高萩研究センターの宿泊棟は個室。

 21時からは自由時間。

 

 梨奈はスマホで検索してみた。


  ナイトメア


 今から30年前の女性アイドル・グループ。

 東京の新橋に専用の劇場を持っていた。


 CDはすべてミリオンセラー。

 代表曲ナイトメアは200万枚。

 写真集は重版。

 CM契約は10社を超えるトップ・アイドル・グループ。


 ミユキーはナイトメア2期生。


  本名 山口美雪

  東京都出身

  7月15日生


  ナイトメア不動のセンター


 イメージカラーは、赤、だった。


  反逆のアイドル ミユキー


 デビュー3年目の6月26日、大手出版社文鳥社の週刊誌「週刊文鳥」の表紙に、時計塔を背景に拳を突き上げるミユキーのヌード写真が載った。


 追いかけるように、文鳥社の写真週刊誌「ザ・キャメラ」は、ナイトメアのメンバーが車座で酒を飲んでいる写真を掲載。

 メンバーの卒業公演の後で行われた宴会の様子。暈しなし。

 ビールジョッキを呷り、タバコをふかすメンバー。


 メンバーの中には未成年もいた。

 ナイトメアは活動休止に追い込まれた。


 7月25日早朝、東京都新宿区の公園で倒れているミユキーを付近の住民が発見。

 病院に搬送されるも脳挫傷により死亡。


  21歳だった


 3か月後、ナイトメアは解散した。


 梨奈はナイトメアを知らない。

 テレビの懐かしアイドル番組ではナイトメアを取り上げない。


  なんでだろう


 ネットを検索すると、週刊文鳥の表紙の写真が見つかった。


  原爆

  つくってみやがれ


 拳を突き上げるミユキーはベリー・ショート。

 お椀型のおっぱい。脇の下もきれい。


 挑発的な視線。


  私が日本を変える

  おまえらついてこい

  天井を吹き飛ばせ!

  

 続くキャッチコピーも刺激的。


 テレビでナイトメアを取り上げないわけだ。


  原爆

  つくってみやがれ


 日本は世界で唯一の被爆国。

 

  絶対禁句


 ナイトメアはアイドルの黒歴史。

 今ならネットで大炎上。


 ミユキーは、なんで、ヌードになったのだろう。


 撮影された場所は特定されている。

 背景の時計塔。


  三権分立の時計塔


 衣編に谷の杉沢裕がアナウンスしていた。

 国会前庭にある。


  国会議事堂の真ん前でのヌード撮影


 警察は来なかったのかな。


 当時、インターネットは普及していない。

 スマホなんかない。

 携帯電話ですら一般的ではなかった。


 事故なのか事件に巻き込まれたのか。

 脳挫傷に至った経緯もわからない。



「友麻く~ん! 行くよ~!」


 絵里がビーチボールを打っている。


 梨奈は頭を振った。


  過去のアイドルなんかどうでもいい


 絵里が黒須君を狙っている。

 私も行かなきゃ。


 黒須君と会話をしていない。


  カマキリおかりな


 小学校の綽名が、どうにも、心に引っ掛かる。


 同じ小学校、中学。

 梨奈は黒須君を知っていた。

 黒須君は、梨奈の御転婆ぶりを、絶対、知ってる。


 大宮総合高校は男女共学。

 黒須君はイケメン。

 彼女がいる。

 いないわけがない。


 梨奈と黒須君は双曲線。

 跡夢ツアーで近づいても交わることはない。


  悲しい


「核理研のアプリが本物だったら、全部、吹き飛ばせるのになあ」


 梨奈は左手でスマホをタップした。

 新しいマークが加わっている。


  2号原爆真正起動アプリ


 朝食の後、跡夢ツアーの参加者3名は会議室に呼ばれた。

 会議室にはジョージさんと仁科さんがいた。


「扉を閉めろ」

 仁科さんが立ち上がった。

「恐れ多くも、旭のリーダー三鷹智様からアプリを賜る。

 一同、控えおろう!」


  へへ~


 なんですか?


「智くんが提案したんだ」


 ジョージさんが、にこやかに話し始めた。


「皆さんへのお土産、核理研の特製アプリがいいんじゃないですかって」

 ジョージさんは今日もサングラス。


 仁科さんが後を継いだ。

 

「アプリを作ったのは東郷裕美。

 ヒロミは数学の天才なんだ。

 私のリクエストに応えてくれた」


  2号原爆真正起動アプリ


 梨奈たちは仁科さんにインストールをしてもらった。

 アプリのデザインは特徴的。


  水戸黄門の印籠


 仁科さんは、水戸出身。公私混同だ。

 

 梨奈の母方の祖父は水戸黄門が大好き。

 DVDも持っている。

 梨奈も観せられていた。


 おかげでアプリのデザインが水戸黄門の印籠だとすぐにわかった。


「印籠、押してみな」


  2


 仁科さんに促されて印籠に描かれている数字を長押しする。


 赤い表示。


  2号原爆を起動しますか?


 びっくりモード。

 凝っているねえ。


「他の人に、アプリを、絶対に見せるな。

 親兄弟、友人、彼氏彼女もだめだ」


 仁科さんは真顔になった。


「原爆の起動アプリを作りました。

 なんてマスコミに漏れたら、核理研がつぶれちまう」


  確かに


 核兵器を、持たず、作らず、持ち込ませず。

 非核三原則は日本の国是。


 冗談が通じない人が多い。

 原子力が大嫌いな築地新聞が知ったら一面トップで大騒ぎ。


  原爆

  つくってみやがれ


 週刊文鳥のキャッチコピーでナイトメアは日本の芸能史から消された。


「ホントに使えるようになったら印籠の蓋が外れてボタンが現れるんだ」

 仁科さんはいつもの能天気な表情に戻った。


「勝手に押すなよ。

 誰が押したかわかるように、アプリにはシリアルナンバーが付いている」


  004


 梨奈のアプリに表示有り。


「1番はジョージさん。ナンバーはツアー参加申込順だ。

 2番は黒須、3番は須藤、岡林が4番だ」


「やっぱり」

 絵里が立ち上がった。

「核理研に原爆があるんですか!」


 スマホを掲げる。


「長野に原爆を持って行ってください!

 私、ボタン、押します!」


「アホたれ、遊びだ」

 仁科さんはジョージさんに顔を向けた。

 

「ジョージさん、シャレが通じません。

 アプリ、やっぱ、削除したほうがいいんじゃないですか?」


「いや、それがさあ」

 ジョージさんは頭を掻いた。 


「ヒロミくんに、削除の方法、訊くの忘れちゃった」


 アバウトだなあ。


「削除は当分できませんね」

 仁科さんが梨奈たちに苦笑いを向けた。


「ヒロミはローラー・スケートの達人なんだ。今、武者修行で海外に行っている」


 核理研は遊び人だらけ。

 戸山も高萩も、のんびりモード。

 原爆なんかない。

 

「核理研に来たら、構内のWi-Fiに接続してね」

 ジョージさんが笑顔を向けた。

「自動アップデートされてポイントも付くよ」


 ポイント特典はなんだろう。

 

「お~い、肉が焼けだぞ~」


 梨奈はスマホから顔を上げた。


 海生研所長の牧方准一さんの野太い声。

 

 牧方さんは47歳。彫が深い顔立ち。

 上半身裸で肉を焼いている。


 隣でジョージさんが野菜やトキオ丸Ⅱが捕った魚を焼いている。


 麦藁帽子にサングラス。


 首から赤いお守り袋を下げている。

 屋台のおじさんだね。


「肉~! やった~! 腹ぁ減ったー!」


 仁科さんが大きなおっぱいを揺らして駆けてきた。


「仁科さん、一等賞。エベレスト~」


 額が広い男性が肉山盛りの皿を差し出した。


 高速増殖炉研究開発事業団の前橋翔さん。

 Jrの主任研究員。高萩に常駐している。


「高校生にキャーキャー言われたいんでしょ」

「翔くんとは違うわよ」

 仁科さんが返している。

 

 梨奈はスマホを閉じた。


「ショー・マスト・ゴー・オン」


 さあ、食べるぞ。


 警察は現れない。

 母からの連絡もない。


 黒須君、ゲット。


  SHOW MUST GO ON


 幕が上がった舞台は続けなければならない。


 跡夢ツアーは楽しかった。

 物理の説明は珍紛漢紛。

 熱心に質問をする黒須君の姿を見ているだけで胸が熱くなった。


 核理研は季節ごとに戸山の住民を招いて催しを行っている。

 黒須君は、必ず、来る。


  SHOW MUST GO ON


 スマホの待ち受け画面に設定だ。


 ファースト目標。

 黒須君を名前で呼ぼう。

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