第10話 衆参同日選挙
「全日本テレビです。
インタビュー、お願いできるかな?」
6月21日土曜日午後2時。
梨奈は高田馬場駅前でマイクを突き付けられた。
跡夢ツアーから一年経った。
警察は現れない。
梨奈は18歳になった。
「高校生かしら?
もうすぐ選挙があるのは知っていますか?」
若い女性レポーター。
脇の男性カメラマンが梨奈を狙っている。
「知っています」
梨奈は答えた。
キャッチ・セールスやスカウトとは違う。
テレビカメラには大手町新聞系列の全日本テレビのマークがある。
「なんの選挙か知っている?
よかったら、誰を支持するのか、教えてくれないかな?」
「参議院通常選挙です。
枝川首相が衆議院を解散したため参議院と衆議院の同日選挙となりました」
自独党の奈良たか子は、今年の一月、枝川伸太郎に首相を譲った。
「枝川首相は、ある程度、評価します。
自独党は支持しません」
梨奈がすらすらと答えると女性レポーターは戸惑った表情を浮かべた。
赤い帽子
赤いTシャツ
赤いリュック
赤いリストバンド
全身マミクトイのリーダー飯縄優子仕様。
ショート・パンツとソックスは白
スニーカーは赤
「どこかのアイドル・キャラバン、でしたっけえ?」
マミクトイが好きな女子高生が巻き舌で答えると思ったんか。
反逆の処女を舐めるんじゃあねえぞ。
「どういった理由、なのかな?」
カメラマンの脇に立つ男性と目配せをした女性レポーターは梨奈に再びマイクを向けた。
「何で、そう思うの?」
「皇室典範の改正です」
梨奈はカメラに目を向けた。
「奈良さんの反対を押し切って、枝川さんが改正案を国会に提出したのは評価します。
だけど、衆議院を解散したのでは、意味がありません。
結局、廃案になりました」
枝川、見掛け倒しだよ。
天皇家には男子のお子様がいない。
緑子内親王、お一人。
皇嗣家には男子が一人いる。
女子二人は結婚して皇室を離れた。
枝川内閣が5月に国会に提出した皇室典範改正案。
女子にも皇位継承権を認める
但し男系男子優先
皇位継承順位
①皇嗣
②皇嗣家長男
③天皇家長女緑子内親王
緑子さまが天皇になれる道を開いたのは評価するけどさ。
緑子さまを第一位にするか、皇嗣さまの次にするべきだよ。
「自独党はダメです。男子優先。
私たち女性は虐げられたままです」
女性レポーターの顔つきが変わった。
梨奈の意見に賛同している。
「あなたは、どの政党を支持するのですか?」
「皆さん! お待たせしました!」
アナウンスが高田馬場駅東口に響いた。
「協和党代表の蓮沼涼子が到着しました!
代表、お願いします!」
真っ赤なブレザー
ベリーショート・ヘア
蓮沼涼子が手を振りながら現れた。
拍手 拍手 拍手
「蓮沼さ~ん」
歓声が沸き上がる
「皆さん! 参議院の選挙は19日から始まっています。
衆議院選挙の告示は24日、投票日は7月6日です。
私たちの将来を、お子さん、お孫さんの未来を決める、大事な、大事な選挙です!」
テレビカメラは、向きをさっさと蓮沼に変えている。
何だ、梨奈は場繋。
「ごめんなさいね」
女性レポーターは梨奈に頭を下げた。
どういたしまして
かえってよかった。
梨奈は誰に投票するか決めきれていない。
「皆さん、自独党を勝たせてはいけません!」
蓮沼は最初からヒート・アップ。
「前回の選挙で勝った自独党は、憲法を変えました。
今度の選挙で自独党が勝ったら、次は徴兵制です!」
自独党 徴兵制導入を検討
5月10日、築地新聞は一面で大きく報じた。
発端は、5月8日に発売された大手出版社文鳥社の総合月刊誌『文鳥』6月号。
逢坂亮と奈良たか子の対談。
女系天皇に物申す
逢坂は46歳。
いくつかの大きな会社の顧問弁護士。
バラエティー番組に多数出演。
歯に衣着せぬ言動が人気の敏腕タレント弁護士。
築地新聞の報道はおかしい。
梨奈は埼玉一女の図書館で文鳥6月号を読んだ。
女系天皇反対で逢坂と意気投合した奈良は対談の最後で述べた。
「韓国は徴兵制で若者を鍛えてます。
アイドルも例外ではありません。
日本にも、そのような機会があってもいい。
自独党では有志が、いろいろ検討しています」
針小棒大だよ
築地新聞と奈良は犬猿の仲。
奈良を叩く千載一遇のチャンス!
系列のテレビ築地を巻き込んで大騒ぎ。
ワイドショーで、毎日、特集を流す。
首相の枝川が火に油を注いだ。
富士山テレビのトーク番組に出演した枝川に政治評論家の生野健三がコーンパイプを向けた。
「枝川さん、あんた、奈良さんの若いツバメやろ」
女性の愛人
20世紀のセクハラ質問。
「奈良さんに媚び売って、徴兵制、導入するんとちゃうか?」
枝川はむっとして答えた。
「奈良さんは今の政府とは関係ありません。
過去の人です。無視してください」
アホだね
生野の挑発に乗っちゃった。
「誰のおかげで首相になれたと思っているんだ!」
枝川の発言に逢坂亮が大激怒。
「日本の政治を、苦労知らず、恩知らずの世襲政治家から民衆に取り戻します!」
逢坂は協和党に入党。
政権獲得を宣言。
協和党には候補者がいない空白区が、たくさんあった。
さっすが、売れっ子タレント弁護士。
逢坂は空白区にタレントや芸能人を多数擁立。
蓮沼も参議院から核理研のある衆議院東京第一区に移った。
ピープルファースト
協和党はSNSを刷新。
候補者になったタレントや芸能人を盛んに起用。再生回数は一億超え。
自独党が圧勝する見込みだった同日選挙は大接戦になっている。
「なんか変なんだよなあ」
蓮沼を見上げながら梨奈は呟いた。
とんとん拍子足拍子
自独党圧勝の動きが一ヶ月で変わった。
誰かが仕組んだみたい。
「オカリナ、お待たせ」
須藤絵里が現れた。
「駅のトイレ、混んでいてさ。凄い人だねえ。やっぱ、東京は長野と違うわ」
遅いぞ
今日は核理研の夏至祭。
盆踊り
秋祭り
クリスマス
餅搗
お花見
核理研では戸山団地や周辺の住民を招いて、季節ごとに催し物をやっている。
絵里は夏至祭に合わせ新幹線で長野から上京。大宮駅で梨奈と合流した。
「梨奈が赤い服を着てくれてよかった。すぐわかった」
絵里は選挙カーを見上げた。
「あれ? あの人、蓮沼さん?」
「子供たちを戦場に送ってはいけません!」
蓮沼が拳を振り上げている。
「生で見ると、綺麗だねえ。
赤いブレザーか。
オカリナ、蓮沼さんが好きなのか?」
「あほか!」
梨奈は絵里の頭を叩いた。
「私の服は、マミクトイのリーダー飯縄優子だ!
節操のないおばさんと一緒にするな!」
「痛~!
なにするんだよ~」
絵里は頭を抱えて蹲った。
頭を抱えたいのは梨奈。
4月に18歳になった梨奈にとって初めての選挙。
自独党。協和党。
どちらに投票しよう。
どっちに転ぶかわからない大化の改新党や民衆党に投票したくない。
天井を吹き飛ばそう!
蓮沼のスローガンには共感する。
だけどなあ
逢坂は女系天皇に反対。
協和党が勝ったら、緑子さまは天皇になれない。
蓮沼はなんで逢坂と組んだのだ。
協和党の政策も気になる。
逢坂が入党した後、協和党はマニフェストを追加した。
民活ジャーナルの実施
「国の事業を勘定科目に整理します。
将来につながる資産と資本、減らさなければならない負債に分け、負債を徹底的に削除します。
自独党の負債を引き継ぐつもりは、さらさらございません」
「協和党に合わない事業は削除するのですか?」
記者の質問に蓮沼は上から目線で答えた。
「削除、致します。
負債に仕訳けられた事業は予算に盛り込みません」
削除のマニフェスト
「協和党はピープルを第一に考え、コスト・パフォーマンスを重視します。
民間活力を引き出すため、成果や見込みがない無駄な事業や機関は削除し、資金と人材をピープル事業に廻します」
協和党はなにを削除するつもりなのか。
「第一に原子力です。
福島の皆さんはひどい目に遭いました。
広島、長崎。
原爆の惨禍を繰り返してはいけません。
削除、致します」
核理研は大丈夫かな。
今年、跡夢ツアーはない。
「そういや、マミクトイが、来月、篠ノ井のオリンピックスタジアムでライブをやるんだって?」
頭をさすりながら絵里が立ち上がった。
やりますよ
7月25日金曜日。長野オリンピックスタジアム。
マミクトイの結成20周年記念ライブが行われる。
「特別に認められたんだってな。
オリンピックスタジアムは遠いぞ。
私の家に泊るか?」
「外れた!」
梨奈はもう一発、絵里の頭を叩いて歩き出した。
くそ~
傷口に塩を塗りやがって。
長野オリンピックスタジアムは屋根がない。
ライブの音が周辺に響く。
長野市は、子供の声がうるさいと大学教授がクレームをつけ、公園を閉鎖する土地柄。オリンピックスタジアムでライブが開催されたのは、過去、一回だけ。
今回はマミクトイの結成20周年記念ライブ。
長野の皆さんと一緒に北信五岳を仰ぎ、信濃の国を唄おう!
席の半数を長野市を中心とした北信地域の住民に無償で提供する条件で開催が決まった。
長野オリンピックスタジアムの収容人員は3万人。
北信地域以外の枠は1万5千人。
梨奈はファンクラブ枠も一般枠も落選。
悔しい~
蓮沼の変節、ライブの落選。
腹の立つことばかり起きる。
「先に行くぞ!」
梨奈は核理研に向かって歩き始めた。
「お~い、待ってくれ~。
一人で行くなよ~」
「みなさん! 私についてきて下さい!」
絵里の声の向こうで蓮沼が叫んだ。
「天井を、吹き飛ばそう!」




