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第8話 原爆 つくってみやがれ

 7月27日土曜日。

 ジョージさんが運転する核理研のワゴン車で亜十夢ちゃんが高萩に現れた。


 仁科さんと亜十夢ちゃんは同い年。

 高萩研究センターは全国の大学の共同利用施設。

 亜十夢ちゃんは東北科学技術大学の学生時代、高萩に来て実験をしていた。


「アトムちゃん、久しぶり~」

 研究所の人たちとは顔なじみ。


 今日、28日は研究所の砂浜でバーベキュー大会。


「♪う~み~ 青い海 大きな太陽 白い月~ 私に原爆ちょうだいな~♪」


 午前11時、ビーチ・パラソルの下で須藤絵里が歌い出した。


  何だ、この歌


 調子外れて。

 絵里は音痴か?


「海は、いいなあ。

 長野は、どっち向いても、山、山、山、ばっかしでさ。気が滅入っちまう。

 来てよかったよ」


「ホントだな」

 埼玉にも海はない。跡夢ツアーは4日目。北茨城の海が広がっている。


 胸がない梨奈は水着が嫌い。プールは水泳の授業だけ。海に来たのは小学校以来。


  やっぱり、海はいいなあ


 久しぶりに海を見て気分がすっきりした。


「絵里、何だ、さっきの歌は? 誰の歌だ?」

「私の歌。今、作ったんだ。

♪海にはおっぱいいっぱい お尻ぷりぷり~ Tバック~♪」


  アホか


 梨奈と絵里に共通項なし。


 善光寺高校は男女共学。


  制服なし

  理系

  水泳部


 長野市在住なのにマミクトイに興味なし。

 

 打ち解けたきっかけは、長野県歌信濃の国。


 梨奈が、信濃の国を空(そら)で歌うと、絵里は目を丸くした。

「岡林さん、すごいな。長野県民でもないのに、2番まで歌えるなんて」


 どういたしまして。

 マミクトイのライブは、信濃の国の大合唱で締めくくる。


「名前で呼び合おうよ」


 オカリナと呼んでくれ、と告げている。


「しっかし、あの人たち、元気だなあ」

 絵里が砂浜を指さした。

「あれで、みんなアラサーだってさ」

 

 砂浜では研究所の人たちがビーチ・ボールで遊んでいる。

 黒須友麻君もいる。


「仁科さんは帝大のシステム創成学科を首席で卒業したんだって。

 よく食い、よく学び、よく遊ぶ。

 三鷹教授、命。

 処女。

 核理研はイケメン揃いなのにもったいないなあ」


 まったくだ。仁科さんはナイス・バディー。


  青 赤 黄色 緑 紫


 五色に染められた派手なビキニの水着がよく似合っている。グラビアアイドルだって夢じゃない。


 仁科さんは水戸の出身。跡夢寮に住んでいる。


 自称、小さい頃から男勝り。

 高校は女子高。

 男子と付き合った経験なし。


 想い人はリングサイクロトロン主任教授。

 旭のリーダー三鷹智。

 

 仁科さんのビキニ。


  左の胸は赤と黄色

  右の胸は緑と紫

  VIOラインは青


 旭の五つの電磁石の色に合わせている。

 残念ながら、三鷹教授は勿来に来ない。


「三鷹教授は、今、大事な仕事をしているんだ」

 仁科さんは残念そう。


「ホントかな?」

 絵里は懐疑的。

「釣りだよ。

 戸山のプールに珍しい魚がいるんだ」

 当たっているかも。


 三鷹教授は40歳。独身。

 旭のリーダーになる前は、ウランの採掘支援のため、中央アジアの国に派遣されていた。


 爽やかな感じのイケメンだけど、猫背。

 趣味は釣り。爺むさい。

 

 仁科さんは、高校一年の秋、帝大のオープン・キャンパスで核理研のブースにいた三鷹教授に一目惚れ。

 東京地検特捜部に憧れ、法学部を目指していたが、原子力に方向転換。


 研究が面白くて外出はほとんどしない。

 食事は、三食、核理研の食堂。

 水着を買おうと久しぶりに高田馬場に出かけたら迷った。

 ご飯は、超大盛の『仁科盛り』。


 大食いになったきっかけは帝大のオープン・キャンパス。


「たくさん食べて大きくなってね」

 仁科さんは三鷹教授から戸山のプールで釣った巨大魚の丸焼きを差し出された。


 恋は盲目。気を付けよう。


 仁科さんはなんで三鷹命(いのち)なのだ。

 核理研はイケメン揃い。


 高萩センター長の八王子秀明教授は、とりわけ美しい。

 高い鼻に大きな目。

 男性アイドルの宝庫、ビターバレー芸能事務所に入所したらトップ・アイドル間違いなし。


 八王子教授も独身。

 裏方に徹して滅多に高萩を離れない。

 新型高速増殖炉の研究炉Jr(ジュニア)の育成に力を注いでいる。


 表に出れば、跡夢ツアーなんかやらなくても、核理研を志望する女子高生が殺到するだろう。

 もったいない。


「お~い、お前ら! そんなところにいないで、こっちに来いよ~!」


 仁科さんが手を振っている。

 脇の下も綺麗。


「あとで、行きま~す。今、取り込んでいるんで~」


  浜辺に出られない


「失敗したなあ」


 仁科さんに返事をした絵里は呟いた。


「ちゃんとした水着、持ってくるんだった。

 これじゃあ、恥ずかしくてパラソルから出られないよ」


 絵里は家出同然で飛び出してきた。

 パーカーの下に着ているのは競泳用の水着。

 遊び用の水着を詰める余裕なし。


 梨奈は頷いた。

 

「私たちに出番はない」


 梨奈は埼玉一女のスクール水着。


「アマテラスにツキヨミ、弁天さま、だもんな」

  

 アマテラスは仁科さん。

 ツキヨミは亜十夢ちゃん。

 弁天さまは海生研のエリカさん。


 小麦色に焼けたエリカさんは28歳。胸は仁科さんより大きい。


 ハイビスカスをあしらったパレオ風の水着が眩しい。


  大きなおっぱい


 パイナップルみたい。


「オカリナの担任、Tバックの人、スタイル抜群だね。やっぱ都会の高校は違うわ」

 絵里の視線の先には亜十夢ちゃんがいる。


 大宮、浦和。

 長野県民にとって、さいたま市は大都会。


 浜辺に出てきた亜十夢ちゃんを見て梨奈は仰天した。


  白衣のTバック!

  双丘のTバック! 


 くびれたウエスト。

 綺麗なお臍。

 小さめだけど形のいいおっぱい。


 きゅっと締まった綺麗なお尻に食い込む黒いTバック。

 黒いビキニに黒いサングラスが良く似合っている。


 埼玉一女での姿は、まやかしだ。


「2年3組のみんなには内緒よ。写真も撮らないでね」

 望遠レンズが欲しい。


 仁科さん、亜十夢ちゃん、エリカさん。

 高萩の海に降臨した三人の女神を前に、貧乳スク水、チビで競泳水着の女子高生二人に出る幕はない。


 梨奈と絵里はビーチ・パラソルの下で荷物番。


「お~い、くろす~! いったぞ~!」

 仁科さんが叫んだ。


 風に流されたビーチ・ボールを黒須君が取りに走っている。


「友麻君、かっこいいなあ。

 お茶の水の駿台に通っているんだってさ」


 いつのまに聞いたんだ。

 絵里は積極的。

 黒須君を名前で呼んでいる。


「オカリナ、志望、どうする?」

 黒須君を目で追っていた絵里が梨奈に顔を向けた。

「理系に変えるのか?」


「無理だよ、今さら」


 大学入学共通テストまであと一年半。

 文系から理系への進路変更は狂気の沙汰。


「そっか、じゃあ、私、友麻君、取っちゃおうかな~」


  え? 


 絵里が立ち上がった。


「ショー・マスト・ゴー・オン! 

 目指せ! 帝大理科一類!」


 絵里がパーカーを着たまま走り出した。 


「お~い、友麻く~ん! 私が取るよ~」


 絵里はビーチ・ボールに駆け寄ると、黒須君に渡した。

 何か話している。明るい顔。


 切り替えの早い奴だ。


 親父の淫行。


  プルトニウムをください


 ジョージさんへの訴えはどうなった。


 梨奈はポシェットからスマホを取り出した。写真をタップする。


  挑発的な視線

  綺麗なおっぱい


 女性が拳を突き上げている。


  原爆

  つくってみやがれ


 ナイトメアのセンター、ミユキーのヌード写真。 


  別名


 反逆のアイドル。

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