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第4話 調神社

 7月16日火曜日。


「梨奈、これで遅くなったの?」

 母がテレビに指を向けた。


  千代田線で電車ジャック 

  国会議事堂前駅 一時騒然


 ネットやテレビは大騒ぎ。

 駅の構内カメラの映像が公開された。


  赤い帽子

  赤いマスク

  赤いパーカー


 小柄な人物が車両に近寄る。


  ピカ!


 閃光が走り煙が立ち上る。


  別のアングル


 煙の中、赤いリュックを背負った髪の長い人物が走り去る。


  梨奈だ


  やっちまった


 どうしよう。


 梨奈は浦和駅のコンビニで新聞を2紙買った。

 築地新聞と大手町新聞。

 どちらも社会面で昨夜の事件を大きく報じている。


 学校に行く気分ではない。

 埼玉一女近くの調(つき)神社。

 梨奈は東屋で新聞を開いた。


  元原子力関係者を逮捕

  往来危険罪容疑は否認


 容疑者の名前、衣偏に谷の杉沢裕は、伏せられている。


  A容疑者


 原子力関係の仕事をしていた68歳の男性。

 写真もない。


 杉沢は口調が怪しかった。

 精神鑑定を受けるのかな。


  若い女性が一喝 

  怯んだ隙に警官隊が突入


「話したいことがある」

 A容疑者は車掌室に乗り込みマイクを奪った。


 国会に近い首相官邸には、警視庁の総理大臣官邸警備隊がいる。

 国会議事堂前駅で電車ジャック発生の一報を受け、先発隊が駆け付け様子を窺っていたところ、若い女性が叫んだ。


  いいかげんにしろ!


 驚いたA容疑者は、マイクを落とした。


  制圧のチャンス!


 警備隊が突入。


 大手町新聞と築地新聞の記事は対照的。


  官邸の迅速な指示でテロを防ぐ


 首相官邸の対応を、奈良推しの大手町新聞は称賛。


  多数の乗客いる中での閃光弾の使用は危険極まりない


 アンチ奈良の築地新聞は批判。


 どっちでもいい。


 警察は容疑者逮捕の切っ掛けを作った若い女性を探している。

 同じ格好をした女性乗客が多数いて、叫んだ女性が誰なのか特定できていなようだ。


  木を隠すなら森の中


 マミクトイのライブは、ほぼ全員が贔屓のメンバーの色の衣装を身に纏う。

 千代田線にも飯縄優子仕様の赤い女性がたくさん乗っていた。

 髪の毛が長い人もいた。


 マスクと目深に被った帽子で顔はわからない。


 大丈夫だろうか。

 特定されたりしないだろうか。


 叫んだのが梨奈とわかる。

 警察やマスコミに追いかけられる。

 犯人を煽ったと逮捕されるかもしれない。


 梨奈は頭を抱えた。


  どうしよう


 埼玉一女を辞めなくてはならない。


  どうしよう


 大学に行けない。

 就職できない。

 結婚できない。


  どうしよう


 マミクトイのライブに行けなくなる。


  じょろじょろじょろ


 調神社の池。兎の置物が口から水を吹き出している。


 兎さん、助けて。


  カクリケンって呼ばれています


 梨奈の頭に亜十夢ちゃんが浮かんだ。


  かくりけん

  隔離研!


 調神社のご祭神、ツキヨミさまのお告げ。


 核理研に、隔離、してもらおう!


 サスペンスドラマ。

 警察はすぐに逮捕しない。

 容疑者宅の周辺をうろつき、顔や容姿をチェック。


 重要参考人、岡林梨奈は茨城県高萩に5日間、隔離。

 自宅にはいない。


 警察は忙しい。諦めて他に行く。

 行って欲しい。


 梨奈は登校すると職員室に向かった。


「先生、私、カクリ研のサマー・キャンプに参加します」


 梨奈が告げると、亜十夢ちゃんは驚きの表情を見せた。


「岡林さん、あなた、文系でしょ? 

 なんで、跡夢ツアーに参加するの?」


「金曜日の討論会をむちゃくちゃにした責任を取りたいんです」

 梨奈は亜十夢ちゃんに頭をさげた。


「夏休みは核理研に隔離されて、原子力のレポートを書きます!」

 とっさに考えた。支離滅裂。


「討論会なら気にしなくていいのよ。

 校長先生も、さすが一女だって感心していたわ」


 亜十夢ちゃんが微笑んだ。

「でも、嬉しい。岡林さんが原子力に関心を持ってくれて。

 先生の友だちも喜んでくれると思います」


 亜十夢ちゃん、申し訳ない。

 梨奈の関心は原子力ではない。


  隔離、です。


 母は、あっさりと参加を認めてくれた。


「家にいてもしょうがないから出かけたほうがいいかもね。

 お母さんも福岡に行ってみようかしら」


 母も家を留守にする。これは好都合。


 警視庁には画像の収集と解析を専門とするSSBC捜査支援分析センターがある。

 梨奈の身元など警察がその気になれば、すぐにわかる。

 母が家にいなければ警察も事情を聞けまい。


 翌日、申込書を持って職員室に行くと亜十夢ちゃんの傍らに茜と香がいた。

 校内でのLINE交換。スマホ没収。


「私たちも行く!」

 梨奈が参加すると知った茜と香が言い出した。

  

  うざい


「原子力の研究所なんてとんでもない!」

 二人の親は猛反対。


 原発事故以降、原子力は悪者。


 梨奈は母に「帝大の物理の研究所の見学ツアー。茨城に行く」とだけ告げている。


 茜からは「オカリナの水着、必ず写メしてくれ」と頼まれた。


  無視


 香は「帝大生とエッチができると思ったのに」と残念がっていた。


  無理だろうねえ


 原子力は夢の跡。

 隔離研、もとい、核理研には、たぶん、爺さんしかいないよ

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