第21話 赤い衛星のユウコ
「詳細は存じ上げません。
海水や風雨、太陽の光が廃棄物に与える影響の調査と聞いております」
牧方さんが答えると畑が割り込んだ。
「核廃棄物を運んだって、あなた、誰の許可を得ているんですか?」
畑も牧方さんを、あなた呼ばわり。
「トキオ丸Ⅱでの輸送に関しては海上保安庁に届け出を行っております」
牧方さんは落ち着いた声で答えた。
「昨日、陸揚げを行い、仮の処分施設に設置を完了しました。
ユウコからの映像でも、確認できます。中央の物体です」
ユウコ
なんだろう。
「この光っている物ですか?」
蓮沼がスクリーンを指さした。
「こんなところに、放置して、大丈夫なんですか?」
やっと出番が回ってきた。
民活ジャーナルを主導してきたのは逢坂。
蓮沼は勢い込んでいる。
「安全に管理されていると聞いております。
研究所の方もトキオ丸に乗っています」
助教の入間さんと技官の浜松さんだ。
「大丈夫じゃありません」
逢坂の声がした。
「東京のど真ん中で危険な研究をしているのも核理研。
核のゴミを海に捨てようとしているのも核理研。
蓮沼代表、戸山の研究所、さっさと削除して、再開発をしましょう」
え?
なんで核理研を持ち出す。
今は海生研の時間だよ。
「蓮沼代表に伺いたいことがあります」
牧方さんの声がした。
「民活ジャーナルの本当の目的は、私たちの土地ではないですか?」
スクリーンは協和党と牧方さんの二分割に戻っている。
「逢坂先生が削除しようと仰った核理研は、高田馬場から歩ける場所に広大な敷地を持っています。
惑星研と深宇宙研は吉祥寺。
私たち、海生研は晴海にあります。
協和党の皆さんの本当の狙いは研究所の土地でしょう。
違いますか?」
「だから何なの?」
逢坂の声が被った。
「あんたたちがやっている研究なんて何の意味もないのだよ。
税金の無駄。
そんな研究所はなくして敷地を有効利用する。
負債を資本に変えるんだ。
それのどこが悪い」
悪いぞ!
黒須君が京都に行くと言い出した。どうしてくれる。
「意味のない研究と言われましたが」
牧方さんは大きな目で逢坂をじっと見つめている。
「有用、無用の評価は誰が行うのですか?」
「我々だよ」
逢坂は牧方の視線に抗うように胸を張った。
「協和党は国民に選ばれた。
我々がジャッジをするんだ」
「国民に選ばれた?」
牧方さんは背筋を伸ばすと冷たい笑みを浮かべた。
「今回の選挙の投票率は34%。史上最低です。
国民の多くは投票に行きませんでした」
「バカだねえ」
黒須君の声が聞こえた。
「協和党の得票率は43%。国民の14%に過ぎない。5分の1以下です。
そんなあなたがたが、日本の未来を決めていいのですか?」
「そのとおり」
黒須君が呟いた。
「日本の選挙制度は、おかしいよ。小選挙区をやめて中選挙区に戻せばいいんだ」
「なんで中選挙区制にするの?」
絵里が訊ねている。
「小選挙区は一人しか当選しない。
国民が馬鹿だと偏ってしまう。
変な議員ばっかじゃないか」
馬鹿の一人は梨奈です
黒須君が政治に関心があるなんて意外。
どこに投票したのだろう。
スクリーンの左側では、蓮沼と逢坂が憮然とした表情をしている。
「皆さんは、歴史の負託に答える覚悟は、ありますか?
皆さんが廃止すると決めつけた深宇宙探査研究所の有安君は、惑星研の衛星を使った観測から、時間の揺らぎ、という現象を見つけています。
タイムマシンの原理となる理論です」
へえ~
有安さんって凄い人なんだ。
「有安君に、何で黙っていたんだ、惑星研も深宇宙研もなくなってしまうぞ、と尋ねました。
有安君は、蓮沼代表が深宇宙研究所を、ふか宇宙、と読んだのを聞いて、バカに何を説明してもムダだと思ったそうです。
有安君は天才です。バカは相手にしません」
バカ呼ばわりされた蓮沼の頬が膨らんだ。目つきが怖い。
牧方さん、いいね!
「彼女は日本にいなくてもいいのです。
研究は世界のどこでもできる。日本にいるのは惑星研の衛星があるからです。
惑星研が開発中のロケットとセットなら、世界中が喜んで受け入れてくれるでしょう」
「あなたはそう言うけど、惑星科学研究所ってオタクの集まりじゃないんですか?」
畑がマイクを取り上げた。
「午前中に来ていた惑星研究所の人は、アイドル・オタクです」
畑も山上を『人』呼ばわり。
「全国のコンサート会場に出没するアイドル・ハンターとして有名です。
これは惑星研の1号衛星ユウコです」
畑がパネルの束を取り出した。
太陽電池を広げた赤い人工衛星が写っている。
赤い衛星のユウコ
リナ、クラッカーだ!
「惑星研は4個の衛星を運用しています。
1号がユウコ、2号がカスミン、4号がアヤカ、5号がレミです。
3号モモカは通信が途切れました」
赤 黄色 ピンク 紫
畑がパネルを次々と変えてゆく。
「お気づきですか? 全部、マミクトイのメンバーの名前です」
素晴らしい!
マミクトイの小さな巨人、戸隠桃花の緑の衛星が失われたのは、残念。
復活して欲しい。
「こんなネーミングをするオタク研究所なんて、削除するしか、ないしょ!」
バン!
畑が5号衛星レミのパネルを叩いた、
こら!
一家に一台斑尾レミ、マミクトイの感電少女、笑顔が一番レミちゃんを叩くな!
「惑星科学研究所は国賊ものの研究所です。
人工衛星の打ち上げ、ロケットの開発。研究所の活動は、マミクトイのファンを騙った海外からの資金に頼っているんです」
畑は、赤い衛星ユウコの拡大写真を掲げた。
「4年前、中国のロケットに相乗りして打ち上げられたこの衛星は真っ赤です。
側面には金を出した中国人の名前がずらっと張り付けられています」
いいなあ
梨奈がマミクトイを知ったのは3年前、高校に入ってから。
マミクトイと宇宙に行こう
ファンクラブサイトの片隅にコーナーが残っている。
もっと早く入会していれば、優子と一緒に宇宙に行けた。
「他の衛星も相乗りです。ロシア、インド、アメリカ、ヨーロッパ。
節操がない。
こじ、いや、物乞いみたいな研究所です」
畑が急いで言い換えた。
乞食って言うつもりだったのかな。
「新型ロケットの開発には5年前から国から多額の補助金が出ています。
ロシア、中国と繋がりがあるオタク研究所は危険です。
即刻、削除するべきです!」
「そうだ!」「潰せ!」「削除じゃあ~!」
会場前方から罵声が上がった。
「アイドル・ハンターですか。山上君にも困ったものですな」
苦笑いを浮かべた牧方さんがマイクを口に当てた。
「NASAや中国でロケットを打ち上げている中国航天科技集団は、オタクの集まりです。
科学の発展には仕事熱心なオタクが欠かせない。
日本のアイドルは海外のファンが多い。
山上君は、オタク繋がりで衛星の相乗りを実現しました。
たいした実行力です。切り捨てていいのですか?」
山上さん、偉い。
敬称復活だ。
「終了。時間切れ」
逢坂が手を挙げた。




