第20話 僕、知っているんだよねえ
「馬鹿阿呆政党は自独党だろう! この税金泥棒が!」
吐き捨てるように叫ぶと、逢坂は二階を指さした。
「画像を戻せ! 勝手に触らせるな!」
スクリーンの映像がジャーナル会場に戻った。
右手に協和党のメンバー、左手に牧方さんが映っている。
「あんたの研究所の船こそ、自独党の無駄遣いの象徴だよ」
バンバン!
トキオ丸Ⅱのパネルを叩いた逢坂がニヤッと笑った。
「僕、知っているんだよねえ」
来た
逢坂の定番セリフ。
「待ってました!」
「暴露して~!」
アホ議員が合いの手を入れる。
テレビのバラエティ番組。
僕、知っているんだよねえ
相手が隠していた事情を逢坂が暴露するシーン。
大人気
悪趣味
されど、高視聴率。
我が国の民意は低い。
「蓮沼代表、この船は10年前の予算編成のときに財務省に蹴られたのを、当時の首相の森嶋時雄が、海は男のロマンだ、300億ぽっちで、がたがた騒ぐんじゃねえと認めさせたんです」
森嶋は奈良たか子の前の首相。
身体が大きく、態度もでかい。
週刊文鳥の『早く死んで欲しい爺さんランキング』で、毎年トップを競っている。
蓮沼がマイクを取り上げた。
「それで、トキオ丸なんですか? 森嶋先生のトキオ?」
「ひでえ~!」
「削除しろ~!」
会場の前方、協和党のアホ議員どもから蛮声が上がる。
「自独党政権は、沖乃島新島を原発から出た廃棄物の処分場にしました。
この船は廃棄物を運ぶために造られたんです。
エコ社会、クリーン環境に反する海洋研は削除するべきです!」
「そうだ!」
「削除だあ!」
「ぶっつぶせ~!」
アホ議員どもは大騒ぎ。
時系列がめちゃくちゃ
森嶋の爺さんが首相だったのは十年前。
沖ノ島新島の火山活動が収まり原発の廃棄物保管場が出来たのは最近。
そもそも
トキオ丸Ⅱは海洋生物を調査する船。
魚を獲っている。
戸山のプールは三鷹教授の釣り堀。
釣った魚は核理研の食堂に出される。
仁科さんは、跡夢ツアーで教授の釣った金色の魚を平らげた。
毎食食堂を利用している核理研総務課の千葉雅紀も元気。
梨奈も名前がわからない魚フライを食べた。
おいしかった。
廃棄物を運ぶために造られた船
違うと信じたい。
「当たっていることと間違っていることがあります」
騒然となった会場に、牧方さんの太い声が響いた。
「これからご説明いたします。その前に逢坂先生に、ご忠告、申し上げます」
スクリーンに映る牧方さんは落ち着いている。
なんだろう
会場も静かになった。
「年長者を呼び捨てにしては、いけません。
森嶋議員を先生と呼んでいらっしゃる蓮沼代表を見習うべきです。
あんた、はテレビでは許されますが、国会でやったら、懲罰ものですよ」
逢坂の顔が赤くなった。
いいぞ
相手を罵倒するのも、逢坂の得意技。
攻撃の手段を逆手に取っている。
「さて、トキオ丸の名前ですが」
牧方さんがカメラに目線を向けた。
ぞく
「いい男だねえ」
恵理子さんが呟いた。
「抱かれたいよ」
やだ
おへその下が熱くなった。
「現在のトキオ丸は二代目です。
初代は1978年に建造されました。
名前は東京を表しています」
牧方さんが協和党のメンバーに目を向けた。
「森嶋先生が初当選されたのは1980年。衆参両院の初の同日選挙です。
当時の事情はわかりませんが、初代トキオ丸の建造に森嶋先生は関わっていないと思われます」
逢坂の捏造をやんわりと否定。
牧方さん、すごいなあ。
森嶋の爺の初当選まで調べている。
逢坂の攻撃を予想していたみたい。
牧方さんがカメラに視線を戻した。
「ビターバレー芸能事務所の男性アイドル・グループと読み方が同じですが、関係ありません。
ちなみに、私は、ビターバレーの岡田に似ているようです」
ホントだ。
目つきや口元が、そっくり。
「なにぃ抜かしとんねん! ワレ!」
「ふざけてんのか! オラ!」
アホ議員どもが大声を上げた。
さすが、芸能人。反応が早い。
蛮声が収まるのを待って牧方さんがマイクを口に当てた。
「建造費についてですが、逢坂先生のご認識と事実は微妙に異なります。
森嶋さんは、海は男のロマンだ、300億円ぽっちで、がたがた騒ぐんじゃねえ。
大井の土地を売ってこい、そしたら認めてやると仰ったのです」
逢坂と牧方さんの言い方は微妙に異なる。
どっちにしても、森嶋はひどい爺だ。
「私どもの研究所は、晴海の本部の他に、大井町にも研究施設があります。
大井には運動場もありました。
ラクビーと野球が同時にできたグランドを売って建造費の一部に充てました。
逢坂先生は不動産会社の顧問もされていらっしゃいますから、この辺の経緯は、ご存知だと思います」
牧方さんが口角を上げた。
僕、知っているんだよねえ
逢坂の顔が赤くなった。
逢坂は自分の都合のいいように話を作り変えている。
夏至祭の夜、ジョージさんの言葉が蘇る。
今の国会議員には、理念も理想もありません
自独党も協和党も、議員の頭にあるのは金儲けだけ
国民はネットに流され、アホ議員を選んでいる。
ミユキーが生きていたら、国会議事堂ごと、全部、吹き飛ばしています
お渡ししたアプリ、好きに使ってください
私は、解除、しません
ジョージさん、梨奈に原爆をください。
水戸黄門の印籠を開いて、ジャーナル会場を吹き飛ばしてやります。
「沖乃島新島については逢坂先生の仰るとおりです」
牧方さんの低い声が響いた。
「政府は地質学的にも生物学的にも貴重な沖乃島新島を、放射性廃棄物の最終処分場にする計画です。
既に桟橋が造られています。
蓮沼代表、よろしければ現在の様子をお見せしたいのですが、よろしいでしょうか?」
牧方さんに問い掛けられた蓮沼は逢坂に顔を向けた。
「逢坂さん、よろしいですか?」
「かまいませんよ。見るものなんかない島だろうし」
逢坂が答えると、蓮沼は肯いた。
蓮沼が決めろよ。
ネットによると逢坂は官房長官になる。
蓮沼は逢坂の操り人形。
黒須君によると、蓮沼はミユキーに憧れて政治家になった。
ミユキーに吹き飛ばされるぞ。
スクリーンが変わった。
ハートの形をした島が映っている。
「今、お見せしている映像は、惑星科学研究所の観測衛星ユウコからのものです」
ユウコ?
「画面の上の部分が入り江になっています。
白く見えるのが桟橋です。島の中央には仮設の処分場ができています」
岩だらけの島。
桟橋はハートに刺さった矢みたい。
ハートの真ん中にはキラキラ輝く物体が見える。
「それと、今回の航海の目的ですが」
牧方さんは焦らすようにペットボトルの蓋を開けて、ゆっくりと飲んだ。
しぐさが芝居じみている。
「これも逢坂先生のご指摘どおりです。
沖乃島新島周辺の海域の調査に加えまして、核廃棄物を運搬しております」
「何ですか? それは」
蓮沼が身を乗り出した。
「原発から出ました使用済核燃料を処理した廃棄物です。
核理研、帝都大学原子核物理学研究所の依頼によるものです」




