第18話 OMG634 第8回国民投票
「NHKです。
インタビューをさせて頂きますか?」
午後1時、核理研を出た梨奈は、マイクを突き付けられた。
テレビカメラが梨奈にレンズを向けている。
「顔を出したくなかったら仰ってください。首から下だけを撮るようにします」
梨奈は俯いた。
インタビューに答えたくない
後ろに杉沢がいる。
お断りします
梨奈の声を聴いた杉沢が叫ぶ。
国会議事堂前駅の赤い女だ!
NHKが反応。
梨奈は埼玉一女の制服。
身元がばれる。
前門のNHK
後門の杉沢
どうしよう。
「あなたは、帝都大学の原子核物理学研究所と、どういうご関係ですか?」
沈黙を了承したと捉えたのか、NHKの記者が聞いてきた。
「先ほど構内で、あなたは風呂敷に入れた荷物を運んでいました。
なにをされていたんですか?
何が入っていたんですか?」
NHKはどうやって見たんだ。
正門の鉄製の扉は閉まっている。
「このお嬢さんたちは、核理研のサポーターです」
梨奈が逃げ道はないかとあたりをそっと伺うと、杉沢が前に出た。
「原子力と聞くと、ダメだ、なくせとすぐに騒ぐステレオ・タイプの日本で、原子力が大好きな、素晴らしい子供たちです」
記者が杉沢を睨んだ。
「貴方は、どなたですか? 保護者の方ですか?」
「違います。私は杉沢裕です。
裕は衣偏に谷です。戸山団地に住んでいます。
NHKの方なら、ご存知ですよね?」
「いえ」
NHKの記者は頭を振った。
だろうね
「一年前の国会議事堂前駅での電車ジャックの犯人ですよ。
東京拘置所に、ずっと拘留されていました。
2週間前に、やっと、保釈されたんです。
ミユキーの命日に間に合って、良かったです」
記者の顔付きが変わった。
「詳しく聞かせて頂きますか? この一年間、どう過ごされていたのですか」
「何度も逮捕されました。
公務執行妨害、列車往来危険罪、脅迫、威力業務妨害、器物損壊。
それからなんだったか、いっぱいあって忘れました。
杉沢がペラペラと話し出した。
「精神鑑定も3回受けました。弁護士さんは国選です。何回変わったかなあ。都度、やり直しです。お金を使わなかったので、年金が貯まって良かったです。
検察は、私が原爆なんか簡単に作れると言った根拠を執拗に追求していました」
話しがくどい。
チャンス!
梨奈はカメラマンの脇をすり抜けて横断歩道を渡った。
絵里と黒須君もついてくる。
「よく喋るおっさんだよなあ。電車ジャックの犯人って話、ホントかな」
「杉沢さん、原子力の知識は凄いよ。勉強になった」
絵里と黒須君が話している。
杉沢のおかげで、インタビューから逃げられた。
(杉沢さん、ありがとう)
感謝の言葉を杉沢に直接伝える機会は、たぶん、来ない。
午後1時10分。
まただ
梨奈は背筋を伸ばした。
スクリーンに梨奈が映っている。
「岡林さん、映っているよ」
スマホを弄っていた黒須君が顔を上げた。
絵里はトイレに行っている。
杉沢はいない。
NHKに捕まったのか、杉沢がNHKを放さないのか。
おかげで黒須君と会話が出来る。
「岡林さんは、誰に投票したの?」
やばい
なんて答えよう。
協和党に投票したよ
協和党は核理研を削除しようとしている。
絶交される。
質問を返そう
「黒須君は?」
梨奈が聞き返すと、黒須君がスマホの画面を梨奈に向けた。
OMG634 第8回国民投票
7月20日 東京ドームにて開票
桜色をベースに大きな文字が躍っている。
OMGのホーム・ページ。
「杉沢さんに聞いたんだけど、OMGの総合プロデューサーは、午前中、僕たちの後ろに座っていた秋山さんのお弟子さんなんだって。秋山さんって凄い人なんだね」
黒須君はOMGのファンなのかな。
梨奈は大宮に住んでいながらOMGに疎い。
話題を変えよう。
「凄いのは黒須君だよ。
帝大の理科一類、受けるんでしょ?」
「そのつもりだったんだけど」
黒須君は顔を曇らせた。
「京都に変えるかもしれない」
え? どういうこと?
「核理研が削除されたら帝大に行く意味ない」
「京都って、京都工科大学?」
梨奈が聞き返すと、黒須君は肯いた。
OMG
オー・マイ・ゴッド!
梨奈は東京の大学に絞って受験勉強をしている。
第一志望は核理研に近い早稲田。
京都の大学は、リサーチすらしていない。
同志社や立命館の受験科目は何なのだろう。
「蓮沼さんに核理研を削除するなって言いたいよ。
杉沢さんによると、蓮沼さんは、秋山さんが昔、社長をしていたアイドル・グループの子に憧れていたんだって。
政治家になったのもその子の影響らしいよ」
え?
秋山さんが社長をしていたアイドル・グループ。
ナイトメア
蓮沼涼子。
ベリーショートの黒髪
赤い衣装
ひょっとして。
原爆
つくってみやがれ
ミユキー?
「いよ! お二人! 楽しそうに、何を話、してんの?」
梨奈は、肩をぽん! と叩かれた。
「君たち、困るねえ、こんなところでイチャイチャしちゃ。
神聖な民活ジャーナルを何だと思っているんだ」
びっくりした。絵里だ。
「通路やロビーで話題になっていたよ。あの綺麗なねえちゃんは誰なんだ、って。
協和党のバカ議員ども、涎を流していたぜ」
やだ、恥ずかしい
中継は?
始まっていたら全国の人に見られている。
「おかげで柏木先生も迷わずに来ることができました。
先生、不良少女のご指導、よろしくお願いします」
「岡林さん、こんにちわ」
絵里の後ろで亜十夢ちゃんが微笑んでいる。
「よかった、間に合った」
大きな声がした。食堂を手伝っていた理恵子さんだ。彩佳さんもいる。
飯島部長の指示で核理研の職員さんは早帰り。食堂も午後1時で終了。
「絵里ちゃん、梨奈ちゃん。ジョージさんから伝言、頼まれた。荷物、取りに帰るときは、守衛所に声を掛けてください、だって」
梨奈はマミクトイの赤いリュックを所長室に置かせてもらっている。
洗濯を済ませたミユキーの浴衣も入っている。忍さんに返さなければいけない。
スクリーンの画像が変わった。
体育館右側の校舎に続くドアが開いた。
真っ赤なブレザーを着た蓮沼を先頭に、協和党のメンバーが入ってくる。
「蓮沼さま~! かっこいい~!」
「削除して~!」
アホ議員どもが歓声を上げる。
「准一さん」
亜十夢ちゃんが呟いた。
海生研の牧方准一さんが現れた。
民活ジャーナル、午後の部の始まりだ。




