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第14話 民活ジャーナル

 7月3日木曜日。

 週刊文鳥は大きな広告を宇都宮線の車内に吊るした。


  伸太郎君は男ファースト

  緑子さまは選挙の票寄せパンダ


 梨奈は週刊誌の中刷り広告を初めて見た。


  くそ~、枝川に騙された


 皇室典範の改正案の提出は選挙目当ての話題作り。

 枝川は最初から成立を考えていなかった。


「週刊誌に惑わされないでください」

 枝川は火消しに躍起。

「私は、女性天皇実現に向け、選挙後、皇室典範を抜本的に改正します!」


 地雷、踏んじゃった。


  女系(じょけい)天皇を認めるな!


 自独党支持層が枝川に反発。

 投票ボイコットの動きが広まる。


 7月6日の日曜日は衆議院と参議院の同日選挙。

 蓮沼涼子が率いる協和党の地滑り的な大勝利となった。


 投票率は過去最低。


 女系天皇反対の奈良たか子は当選。

 世襲四代目、岩盤選挙区の枝川も当選した。

 

 悩んだ末、梨奈は協和党に投票した。


  自衛隊は国防軍に変わった

  次は徴兵制


 自独党に投票したら、梨奈が、将来、産むかもしれない子供が戦争に行く。


  絶対に

  嫌だ!


「第1回民活ジャーナルを、7月12日土曜日午前10時から開催します」


 投票日翌日の記者会見。

 蓮沼は高らかに宣言した。


 蓮沼は18日の金曜日から開かれる特別国会で内閣総理大臣に選ばれる。


「スピードが大事です。政権の発足を待っていられません」


 テーマは科学技術開発。

 会場は、子供が減って廃校になった東京都新宿区立の戸山南小学校の体育館。

 戸山南小学校は団地を挟んだ核理研の反対側にある。


「民活ジャーナルの入場券があるけど、行きますか?」


 10日水曜日の放課後、梨奈は亜十夢ちゃんから声を掛けられた。

 埼玉一女の土曜授業はは隔週。12日は授業がない。


「明美から連絡が来ました。

 核理研も対象になっています。時間は午後3時からです」


  うっそ


 梨奈は青ざめた。

 核理研が削除されるの? 


「整理券は先着順だって聞きました。入れるんですか?」


 先着順で配られる入場整理券を求めて、戸山南小学校に沢山の人が詰め掛けている様子がネットに流れている。


「核理研は当事者です。

 入場券が割り当てられています。

 ジョージさんは、岡林さん、須藤さん、黒須君に会場で見てもらいたいそうです」


「お願いします!」


  即答


 黒須君も来る。

 受験勉強なんかやっていられない。



 7月12日土曜日。晴れ。

 朝から暑い。


 午前10時少し前。

 梨奈は居住まいを正した。

 戸山南小学校の体育館に設置された大型のスクリーンに梨奈が映っている。


  なんで梨奈を映す


 梨奈は、埼玉一女のセーラー夏服。


  白い半袖

  紺の関東襟

  無地の胸当て

  三角タイ

  胸ポケット

  プリーツスカート 


 テレビ、ネットは民活ジャーナルを生中継。


 埼玉一女の制服を着てきてよかった。


  マミクトイ飯縄優子の赤仕様


 全国にアホ丸出し。


「お嬢さん、映っているよ」

 後ろのお爺さんが梨奈に声を掛けてきた。


 地元枠として戸山団地にも入場券が割り当てられている。

 団地の人は核理研のイベントを通じてジョージさんとは顔なじみ。

 自然とジョージさんを中心に集まり、お年寄りが、梨奈の後ろにいる。


「え? どこ?」

 スマホを見ていた絵里がきょろきょろすると映像が替わった。


  蓮沼涼子


 今日もトレードマークの真っ赤なブレザーを着ている。


 協和党のメンバーの様子は立ち上がらないと見られない。

 ライブ会場と同じ。ステージに設けられた大きなスクリーンが頼り。

 

 蓮沼は今日もメイク、完璧。

 ベリー・ショートの前髪を掻き上げて露出させている額には、汗ひとつ浮かんでいない。


 暑さを感じないのかね。


 蓮沼がマイクを取り上げた。


「まもなく10時です。高速増殖炉研究開発事業団、まだですか?」


「あの女、むかつく」

 絵里が呟いた。

「まだですかって、何様のつもり? まだ9時55分だよ」


 長野から上京してきた絵里とは大宮駅で合流。

 核理研に立ち寄り、荷物を所長室に預けている。

 

「内閣総理大臣閣下です」

 絵里の隣に座っているジョージさんが、のんびりと答えた。


「金曜日まで、何事もなければ、ですけどね」


 ジョージさんは今日も作業服。

 白い髪を後ろに束ね、サングラスをかけている。


「じゃあ、なにか、起こしちゃいましょう。

 原爆を作って核実験しませんか?

 そうだ!」


 絵里が大きな声を上げた。


「戸山で核実験をしましょう。

 みんな、吹き飛ばしてやるんです」


「絵里、黙れ」

 梨奈は絵里を窘(たしな)めた。


 前に座っている人たちが振り返って絵里に視線を向けている。


 核理研は削除対象。

 マスコミもたくさん来ている。

 不謹慎な発言は慎め。


「吹き飛ばすなら国会議事堂だな」

 お爺さんの声がした。

「東京拘置所がいいかい? 杉沢さん。

 一年間も不当拘留された鬱憤晴らしだ」


「秋山さん、やっぱり、新橋の文鳥タワーでしょう。文鳥社こそ諸悪の根源ですよ」


  杉沢さん?


 梨奈は後ろを振り返った。

 丸顔のお爺さんと、ガリガリに痩せて大きなメガネを掛けたお爺さんが話をしている。


「時間がもったいなので、結論を言います」

 蓮沼の声がした。


 梨奈はスクリーンに顔を戻した。

 体育館に入ってきた額の大きい男性を蓮沼が手で制している。


  高速増殖炉研究開発事業団 前橋翔


 男性は首からネームプレートを提げている。

 跡夢ツアーで肉を焼いていた前橋さんだ。

 今日はスーツを着ている。

 

「高速炉事業団は削除します。

 こんな事業団が残っていること自体が信じられません」


 蓮沼の大きな声が、体育館に響いた。


「お待ちください!」

 

 前橋さんが声を張り上げた。


「核燃料サイクルは資源のない日本にとって必要です 。

 再処理で得られましたプルトニウムの有効利用にも繋がります。

 次世代の研究炉のジュニアは」


「削除だって言っているんだよ!」


  びく! 


 梨奈は身体を震わせた。


「もんじゅで、いくら使った。国民を馬鹿するのも、いいかげんにしろ!」


 逢坂亮が前橋さんを睨んでいる。


「そのとおりです。

 私の国に原子力は要りません」


 蓮沼が、さっと右手を振った。


「高速炉事業団は削除。

 お引き取り下さい」


「お待ちください! まだ、説明が」


「帰れ!」「帰れ!」


 前橋さんの声は、会場から湧き上った罵声に掻き消された。




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