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13/21

第13話 ミユキー

「斎藤さんの旦那は3年前、奥さんも去年、亡くなっちまった。

 文鳥社が狙う訳だよ。戸山は跡継ぎがいなくて空き家だらけ。

 お地蔵さんの世話もいつまで出来るかなあ」


 徳田さんがポールでヘルメットを叩きながらジョージさんに顔を向けた。


「俺は戸山に来たのは20年前だから人から聞いた話だけど、ジョージさん、ミユキーといい仲だったんだって?」


 ホントですか?


「ついでに聞くけど、人気絶頂のアイドルが、なんで、すっぽんぽんになっちまったんだ」


  すっぽんぽん!


 ヌード。


「ジョージさんと喧嘩でもしたのかい?」


 千鶴さんは、責任を取れとジョージさんに言っていた。


「歩きながら話しましょうか」

 ジョージさんはキリンの滑り台にちらっとサングラスを向けると夜道を歩き始めた。


「学部に上がった年ですから私が二〇歳(はたち)のときです。私は跡夢寮に住んでいました」


 ジョージさんと徳田さんが並んで歩きだした。

 梨奈は亜十夢ちゃんと後を追う。


  またとないチャンス


 反逆のアイドル、ミユキーの真相を聞ける。


「夏至祭の夜、箱根山の麓で女の子を捕まえたんです。

 中学生のミユキーでした。

 夏至の夜に7種類の花を摘んで枕の下に置くと運命の人の夢を見るそうですね」


 暗闇の中、梨奈はほほ笑んだ。

 女の子の想いは同じ。梨奈のリュックには七種類の花が入っている。


「ミユキーは戸山団地に住んでいました。

 母子家庭で一人っ子。

 お母さんは仕事で忙しかったせいもあって、いろいろ相談に乗るようになりました」


 お付き合いは、どこまで、だったのかな。

  

  淫行


 今なら逮捕されかねない。


「いいねえ」

 徳田さんが呟いた。


「俺からしたら、ミユキーなんて天女様さ。

 今なら、OMGの壬生敦子だな」

 

  壬生敦子


 OMG634(ろくさんよん)

 大宮の繁華街南銀(なんぎん)に専用劇場を持つ人気女性アイドル・グループの絶対センター。


「ナイトメアに入れって勧めたのもジョージさんって聞いたよ」


 さっすが、自治会長。

 裏話に詳しい。


「私はオーディションに連れて行っただけです。兄って名目でね」


 ばれなくてよかった。


  恋愛禁止


 彼氏がいる子はアイドルに絶対になれない。


「今から30年くらい前の話です」


  暗闇


 ジョージさんの話を聞いているのは梨奈たちだけ。


「ミユキーが夏至祭に現れたんです」


「ホントかよ!」

 徳田が驚きの声を上げた。


「もっと早く、戸山団地に住んでいたかったなあ」


  まったくだ


 スーパーアイドルの降臨。

 生まれていないけれど、梨奈も立ち会いたかった。


「土曜日に予定されていた夏至祭が雨で日曜日に延期になったんです」


 ジョージさんは淡々と話を続けた。


「ミユキーはお母さんに夏至祭はどうなったって電話したんです。


 ナイトメアにはチームDとNの二つのチームがありました。

 ミユキーはチームDのリーダー。

 チームDは土曜日が劇場公演で日曜日はオフ。

 メンバーの子を連れて核理研に現れました。


 所長の長岡先生が夏至祭をオープンにしてくれて、ビールも年齢なんか関係なく飲み放題。

 SNSもなかったし、いい時代でしたねえ」


  30年前はよかったなあ。

  今なら、大炎上。


「盆踊りが終わる頃でした。

 ミユキーが櫓によじ登って叫んだんです。


 お前ら、原爆、つくってみやがれ。


 天井を吹き飛ばすんだって」


  週刊文鳥のキャッチコピーだ


「すっぽんぽんでかい?」

「服は着ていました」


 徳田さんのセクハラ発言にジョージさんは淡々と答えた。


「今年と同じく、衆議院と参議院の同日選挙が行われていました。

 ミユキーは初めての投票です。

 ビールを飲みながら、どの政党に投票しようか、自独党は許せん、野党もだめだって、私や研究所の人たちに議論を吹っかけていました」


 いいなあ。


  政治に関心を持つ子

  政治を話題にする子

  変な子、危ない子


 学校で政治の話はタブー。

 危険人物扱い。生活指導室に送られる。


「ミユキーは母子家庭で苦労していたせいか高校生の頃から政治に関心がありました。

 日本の女性は虐げられている。国会議員に女性が少ない。女は家庭、良妻賢母なんて誰が決めたんですかって、長岡先生にも絡んでいました」


 今はもっとひどい。

 日本はジェンダーギャップ指数がОECD最下位に近い。


「適当にいなしておけばよかったんです。

 僕も酔っぱらっていました。櫓の上のミユキーを揶揄(からか)ったんです。


 自分を何様だと思っているんだ。

 しょせんはアイドルだろう? 

 新橋で腰振ってもナイトメアだけの話だ。

 風俗街でよがって、エクスタシー感じているんじゃねえのかってね」


 梨奈は顔が赤くなるのを感じた。


  エクスタシー

  よがる


 セクハラ言葉の連発。


 ちょっと、がっかり。

 ジョージさんも男尊女卑なのかしら。


「怒ったミユキーは核理研を飛び出していきました。

 待ち受けていたのが週刊文鳥の記者だった福山泰輝。

 今年、最年少で文鳥社の社長になった男です」


「なんで、福山って野郎だってわかったんだい?」

「戸山団地の自治会長さんが名刺を持っていました」

 徳田の問いにジョージさんが答えた。


「夏至祭の夜、団地に見慣れない男がいたんで会長さんが声をかけたんです。

 会長さんが追及すると、男は、自分は文鳥社の社員だと名刺を差し出したそうです」


 会長さん、偉い。

 勇気がある。


「警察に通報すればよかったと会長さんは悔やんでいました」

 ジョージさんの声が沈んだ。


「団地の別の人が、戸山北児童公園でミユキーが二人の男と話しているのを見ています。

 近くに車も停めてあった。

 福山はミユキーをずっと狙っていた。

 ミユキーは福山に捕まっていいように利用されました」


「ジョージさん、あんた、ミユキーを取り返すんだって文鳥社に殴り込みに行ったんだろう?」

 徳田がポールをジョージさんに向けた。


「独りで行くなんて無謀だよ。

 俺がいたら助太刀したのになあ」


  マジですか?


「若気の至りです。編集部の連中にボコボコに殴られ放り出されました。

 おかげでサングラスが外せなくなった」


 ひどい。


「お怪我、されたんですか?」

 梨奈が後ろから尋ねるとジョージさんが振り返った。


「20針くらい縫ったかな」

 ジョージさんは右の眉毛の辺りを指すとほほ笑んだ。

「所長が長岡先生で助かりました。

 暴力沙汰を起こした院生を残してくれて、助手にも採用してくれた。


 こんな日本、吹き飛ばしたい、原爆を作りたいって訴えたら研究をさせてくれた。

 ナイトメアの衣装も残してくれました」


 素晴らしい所長さん。

 埼玉一女の校長の岩倉なら、即、追放。


 高田馬場駅が見えてきた。


  天井を吹き飛ばそう!


 拳を突き上げる蓮沼涼子のポスターがあちこちに貼ってある。


  人通りも増えてきた


 通り過ぎる人たちが不審げな顔を梨奈たちに向けている。


  全共斗

  造反有理


 書き殴られた白いヘルメットを被り、赤白のポールを担いだ爺さん。

 夜なのにサングラスをしているポニーテールで白髪の浴衣の紳士。

 大きなメガネを掛けた細身の美女。

 全身が真っ赤の女子高生。


  怪しい集団


 もう少し話を聞きたい。

 門限に間に合わなかったら厄介だ。

 警察が現れる前に別れよう。


 梨奈はビッグ・ボックスの手前でジョージさんたちに頭を下げた。


「ここまで送って頂いたら、大丈夫です。

 ありがとうございました」


「こちらこそ、ありがとうございます」


  なんだ?


 ジョージさんが梨奈に頭を下げた。


「ミユキーの話を聞いてくれて。

 ミユキーの浴衣を着た岡林さんを見たとき、話さなければと思ったんです。

 機会を作ってくれた徳田さんに感謝だな」


「いやいや」

 徳田さんが照れくさそうに手を振る。


  そうだ


 肝心な話を聞いていない。


「ジョージさん、ミユキーはなんで亡くなったんですか?」

「事故です」

 ジョージさんはあっさりと答えた。


「ミユキーは誤って滑り台から落ちた。

 岡林さん、今の政治を、どう思いますか?」


 突然の方向転換。

 なんて答えたらいいのだろう。


「今の国会議員には、理念も理想もありません。自独党も協和党も、議員の頭にあるのは金儲けだけ。

 どうしようもありません」


 口調が厳しい。

 梨奈の質問が気に障ったのかな? 


「国民もダメです。

 ネットに流され、安易に投票している。

 救いようがありません。


 ミユキーが生きていたら、国会議事堂ごと、全部、吹き飛ばしています」


 過激な発言。

 徳田さんと亜十夢ちゃんも黙ってジョージさんを見つめている。


「岡林さん」


  サングラス


 ジョージさんの視線を感じる。


「お渡ししたアプリ、好きに使ってください」


  え?


「私は、解除、しません」


  2号原爆真正起動アプリ


「また遊びにきてください」

 ジョージさんは軽く手を振ると、核理研に戻っていった。


 オオイヌノフグリは、せっかく摘んだので、捨てずに枕の下に置いた。


  疲れた


 夢は見なかった。


 黒須君に会えなかった。


  残念

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