第17話 探しに行く舟
タウロの呼びかけを受け、浜辺には島の漁師たちが集まり始めた。
男だけではない。潮の流れに詳しい女や、舟の機械を直せる若者も加わり、濡れた砂の上に描かれた海図を囲んでいる。
その間にラキとテヴァは、東の浜から白い箱を運んできた。
二人では持ち上げられないため、浜辺に置かれていた荷車へ載せて押してきたらしい。ラキが前から引き、テヴァが後ろから押していたが、柔らかい砂へ車輪を取られるたび、箱は荷台の上で大きく揺れていた。
「父さん、これだ」
ラキが息を切らしながら荷車を止めた。
白かったはずの箱は砂と海藻で汚れ、角には岩へぶつかったような傷が幾つもついている。側面には外の文字と、小さな翼にも波にも見える紺色の印が描かれていた。
集まった者たちは文字を覗き込んだが、意味まで分かる者はいなかった。島でも自分たちの言葉を書き記すことはできる。しかし、これは普段使っているものとは違う、海の向こうの文字だった。
タウロは箱の蓋を開けた。
中には水の入った透明な容器や、銀色の薄い布、固く包装された食べ物が残っていた。底の方には赤い筒や小さな機械も入っている。
「舟の緊急用品を入れていた箱だろう」
機械に詳しい若者が、赤い筒を慎重に持ち上げた。
「これは空へ合図を送る道具かもしれない。触らない方がいい」
タウロは箱の中身を一つずつ布の上へ並べ、蓋の内側まで調べた。どれも澪の両親がどこにいるのかを直接教えてはくれない。
それでも、箱に絡んでいた海藻と、金具に挟まった細かな砂は、この島の近くのものだった。遠い海から一度に流れてきたのではなく、幾つかの潮へ運ばれながら、最後に東側の流れへ入ったのだろう。
「昨夜の潮は東へ向いていた」
漁師の一人が言った。
「昨夜だけじゃない。ここ数日は同じだ」
別の女が首を横に振る。
「けれど、あの嵐が起きた日は逆向きの風が吹いていたよ。漂流物は、南の外海から回り込んだ可能性がある」
意見を聞きながら、タウロは砂の海図へ新しい線を引いた。
三日前の風、毎朝の潮、箱が漂着した場所。分かることを一つずつ重ねると、調べるべき海域が少しだけ狭まっていく。
三艘の舟で別々の流れを追い、日が傾く前に合流することになった。
浅い珊瑚礁の内側を調べる小舟と、外海へ出られる二艘の機械付き漁船が波打ち際に並べられる。水、縄、救命具、身体を温める布が次々に積み込まれた。
タウロが先頭の漁船へ乗り込むと、ラキも後ろへ続こうとした。
「俺も行く」
「駄目だ。今日はいつもの漁より遠くへ出る」
「俺だって海は知ってる」
「知っているから残れと言っている。帰りの潮を浜から見て、舟を迎える者も必要だ」
ラキは悔しそうに唇を結んだが、やがて舟から下りた。
「戻るまで母さんたちを手伝え。海から目を離すな」
父に肩を叩かれ、ようやく小さくうなずく。
テヴァは、ナイラの腕に抱かれている澪のもとへ戻った。
海へ入ったときに濡れた服は、ナイラが持ってきた乾いた布へ替えられている。澪の顔には疲れが滲み、熱が戻り始めたのか、頬も赤くなっていた。
マレアは何度も帰るよう促していたが、澪は首を振り続けていた。
「おふね、いく?」
澪が尋ねる。
テヴァはうなずき、砂の上へ二人の人間を描いた。
「ママ。パパ」
「ママ、パパ!」
その横へ舟を描き、タウロを指さす。舟から伸ばした線で二人の絵を囲み、島へ戻すように砂の上をなぞった。
「つれてきて、くれる?」
澪の言葉は分からなくても、何を求められているかはテヴァにも分かった。
見つかると約束することはできない。
テヴァは迷った末、澪が握っている桃色の巻き貝に触れた。それから自分の胸を指し、海へ向かう舟を示す。
「みんなで探す」
澪はテヴァの指先を目で追い、小さくうなずいた。
三艘の舟の機械が、低い音を立てて動き始めた。
「ママとパパ、つれてきて! おねがい!」
澪はナイラの腕の中から身を乗り出し、遠ざかる舟へ何度も叫んだ。
言葉は届かなくても、その声が聞こえたのか、先頭に立つタウロが一度だけ振り返った。
やがて舟は珊瑚礁の切れ目を抜け、強い日差しを反射する海の向こうへ消えていった。




