53話 光VS焔(一回目)
「さてと、ちゃちゃっと終わらせますか~」
立花さんは余裕たっぷりの笑みを浮かべたまま、軽く伸びをする。そして、私を一瞥すると、まるで道端に転がる石ころでも見るかのように、鼻で笑った。
「はは、おもしろ。この茶番でしか戦いに真面目な顔して挑むなんてね。そんなにずるして白雪先輩のパートナーになった座に縋りたいの? 現実見た方がいいよ。あんたみたいな『凡人』には、過ぎた場所だってことをね」
「私はずるして雫さんとパートナーになってない! ちゃんと正々堂々と戦って、パートナーになったんだよ!」
立花さんに何を言ったところで、きっと信じてもらえない。そんなことは分かっている。
それでも――それでも、否定せずにはいられなかった。
雫さんとのパートナーが、ズルをして手に入れたものだなんて。私が何もせず、誰かに与えてもらったものだなんて。
そんなふうにだけは、思われたくなかった。
「ほんっとに、筋金入りの意固地ね。まあ、いいけど。どうせ? この三回の模擬戦で、全てが決まることだし。さてと、白雪先輩。試合開始の合図をお願いします」
「私も、お願いします!」
「わかったわ。じゃあ、二人共準備は良い?」
「「はい!」」
私たちは返事と同時に刀を抜く。雫さんは私たちから距離を取り、守護君へ開始の合図を促した。
タイマーが作動すると、私はいつものように深く息を吸い、意識を研ぎ澄ます。
因みに、グラウンドには観客(特に一年生が多く占める)がいる。
雫さんからの連絡を受けたその日に、私たちは大衆の面前で言い合いをしていたため、その噂が広まったのだろう。二人の決着を見届けようと、多くの生徒が足を運んでいた。
誰一人として立花さんを応援する者はおらず、私の応援のみが飛び交う。ただ、全員が私の味方とかじゃなく、中には鋭い視線を私へ向け、まるで実力を値踏みするかの如く見つめる者達もいた。
雫さんとのパートナーとなった私だが、一部生徒の中には、立花さんと同様に「何か裏で手を回したのではないか?」そんな根も葉もない風の噂を耳にした。
とりわけ一年生は、訓練で私の実力を知っている。だからこそ、「あの実力で、どうして雫さんのパートナーになれたのか」と、強い疑念を抱いているのだ。
私が立花さんのように高い実力の持ち主なら、こんな疑念に晒されることもなかったのに。と立花さんの強さに嫉妬してしまう自分がいた。
立花さんは性格はあれだが、実力は本物だ。模擬戦を見ていたが、他の追随を許さず、立花さんとの戦った皆、もれなく全員が敗北している。それも、一瞬で。
ただし、立花さんに口答え(私は例外)した生徒だけは、その限りではない。そういう相手に対して、彼女はすぐには決着をつけない。
わざと時間をかけ、徹底的にいたぶる戦い方をする。
そのせいで、立花さんの存在自体がトラウマになる生徒も私は少なからずこの目で見てきた。
立花さんにとって、この戦いは茶番も同然だ。それは言動からも明らかだ。おそらくだが。いたぶることはせず、すぐにケリをつけてくるはず。
ゆえに―—最初から本気で私を叩きつぶしに来る。
ぶううううううううう――ッ!!
開始を告げるブザーが、グラウンドいっぱいに響き渡った
「ふんっ!」
ブザーと共に駆けだした立花さんは、”ただ叩き潰す”、その一念だけを込めたかのような刃を私へと振るう。
本気の立花さんの刃は鋭く、速く、達人の如き洗練された一太刀。それは見惚れる程に美しい太刀筋。
でも、その奥には、触れた者を焼き尽くさんとするほどに猛烈な気迫が渦巻いていた。
私はその一太刀を受け流すため、さらに意識を研ぎ澄ませていく。雫さんから教わった通りに身体を動かし、刃の軌道を見極めながら、鎬へと立花さんの刀を誘い込もうとする。
私の刀へ、立花さんの刃がぶつかる―—その瞬間。
「ふふっ」
引き延ばされた時間の中で、立花さんが小さく笑った。
浅はかだと、短慮だと馬鹿にしたような含み笑い。それを私は如実に感じ取っていた。
「!?」
立花さんは腰を捻り、そのまま身体を回転させた勢いのまま、私の脇腹辺りを目掛けて刀を薙ぐ。
急激な軌道変更に私は咄嗟の判断で、後ろへと大きく跳躍。
「ぐっ……!」
右脇腹に焼けつくような熱が走り私は苦悶の声を漏らす。振り切られた立花さんの刀身の先には、私の血が細く赤い筋を描いていた。
回避することだけを先行した私の稚拙な跳躍は、立花さんにとっては絶好の隙であるらしく、すぐさま私との間合いを詰めると、刀を微かに動かす。
跳躍の最中であり、さらに先程の一撃で生じた熱に意識を奪われ、冷静な判断ができない私は、その微かな動きに焦り、過度に反応。無意識のうちに刀を身体の前へと構え、それを盾にするように防御態勢へ移る私。しかし、それが致命的だった。
立花さんの口端が、にやりと吊り上がった。
私が刀を盾にした、その瞬間。立花さんは、私の刀とは真逆の方向へ刃を振り抜いた。
立花さんの微かに動かした刀は、私に防御を誘導させるための罠だったのだ。
しまっ!?
それに気づいたときには時すでに遅し。私はただ、迫り来る刃の行く末を見届けることしか出来ない。
立花さんの刃の軌道上は、私の左腰辺りから身体を横切るように一直線へと走っている。
私の身体は上半身と下半身に真っ二つに分かれる、そんな未来が訪れる―—はずだった。
不意に私の視界に現れたのはアーム。それは立花さんの振るう刀へと迫り――。
カーンッ!
その甲高い金属音は戦いの終わりの合図であった。
守護君に刀を受け止められた立花さんはその瞬間から刀に宿した闘志を消失させた。
そして、こちらを見て不敵に笑みを浮かべ、嘲笑する。
「ショウシャ! タチバナホムラ!」
守護君の叫んだ勝利の名は、静けさが広がる訓練所内に大きく轟かせたのであった。




