46話 悪名高い問題児
お待たせしました。第二章です。
「神崎光! あたしと戦いなさい!」
ある晴れた日の午後。
訓練の授業にて、朝倉先生の指示で模擬戦の相手を探していたところ、私の前に一人の少女が立ちはだかる。
その少女の赤い髪はさんさんと降り注ぐ太陽の光を浴びることで、鮮烈に輝き、まるで小さな太陽がそこに顕現したかのようであった。
切れ長の双眸は鋭く、近寄りがたい威圧を宿しながらも、その奥に揺らぐことのない芯の強さを湛えている。
その一方で、左右に結われたツインテールが、彼女の厳しさにわずかな柔らかさを添えている。その対照が、かえって彼女という存在を際立たせていた。
鋭さと愛らしさ――相反する二つの気配が、不思議な調和をもって同居している。
彼女は立花焔さん。
入学式で新入生代表の挨拶を務め、一躍一年生の注目を集めた人物だ。だが、その名が広く知れ渡った理由は、晴れやかな実績だけではない。それ以上に、悪名のほうが表立っていた。
立花さんは私の返事も待たず、強引に腕を掴んだ。指が食い込むほどの力には、彼女の苛立ちがありありと滲んでいる。
あまりの痛みに、骨まで握り潰されるのではないかと思うほどだった。
そのまま乱暴に引っ張られる。振りほどこうと力を込めても、銅像のように微動だにしない。
「い、痛い! 立花さん、離して!」
「うっさい! あたしはね、納得できないの! あんたみたいな『凡人』が、『天才』であるあたしを差し置いて、白雪先輩とパートナーとなっていることを!」
私の抗議など意にも介さず、立花さんは一方的にまくし立てる。
彼女の悪名が校内に知れ渡っている理由は、たった一つ。
他人を見下す、その尊大な性格だ。
自分を「天才」と言って憚らず、それに見合わない相手は容赦なく見下す。
ただ、その口ぶりからすると、自分が認めた実力者だけは別なのだろうと思う。
一年生の多くはそんな彼女を快く思っておらず、けれど、面と向かって逆らえる者は少なく、その鬱憤は陰での愚痴や悪口という形で吐き出されていた。
もちろん、最初から皆が黙っていたわけではない。
訓練の授業で模擬戦を挑む生徒も少なくなかった。しかし、その挑戦者たちはことごとく返り討ちに遭い、中には恐怖を植え付けられたのか、彼女の姿を見るだけで震え上がる者までいた。
私も何度か彼女の模擬戦を目にしたことがある。
技量、力、俊敏性――そのどれを取っても常人離れしていた。
おそらく、この三つ葉女学院でも、彼女に勝てる生徒はそう多くないだろう。
その腕を掴まれた瞬間、私に拒否権など残されていなかった。抵抗も虚しく、私は立花さんとの模擬戦へと引きずり込まれてしまった。
――うう、どうしてこんなことに……
こうして私は、学院内でも悪名高い問題児――立花焔さんとの模擬戦に臨むことになってしまった。




