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41話 憧れの人と任務

 雫さんとパートナーの契りを交わした翌日。


 私たちは任務のため、福岡にある高層ビルの屋上に立っていた。


「じゃあ、準備はいい?」


「は、はい! が、がんばります!」


「よし。じゃあ、行きましょうか」


 雫さんはそう言うなり、一切のためらいなく屋上から身を投げ出す。私もその背中を追い、空へと飛び出した。






                  *






 商店街のアーケードをくぐると、腹の奥が煮えくり返るような轟きが私の耳に響く。


「ぎしゃああああああああああ!!!!」


 その雄叫びと共に、ドン! ドン! ドン! と地響きを鳴らしながら、こちらへ迫ってきたのは――


「っ……!」


 半年前、私が命の危機に瀕したあの日と同じ姿をした骨格恐竜。


 あの日と寸分違わぬ姿かたち大きさの、ティラノサウルス。


 あの時の私は恐怖に呑まれ、子リスのように怯えることしかできなかった。


 正直、今でもあの日の記憶は鮮明だ。トラウマが蘇り、身体は恐怖で震えている。

 

 だけど、あの頃とは違う。


 私は足をしっかりと地に踏み締め、背筋を伸ばし、敵の一挙手一投足を見据えている。


 もう、怯えるだけの私はいない。


 それになにより、私の隣には雫さんがいる。


 あの日、命を救ってくれた人。私の人生を変えてくれた憧れの人。


 あの日を境に、私はただひたすら、その背中を追い続けてきた。


 紆余曲折はありながらも、それでも努力を積み重ねた先で、私は”ゴーストバスターズ”となり、今は憧れだった人のパートナーとして、その隣に立っている。


 もう、あの日の私じゃない。


 恐怖に怯えるだけだった少女は、もうどこにもいない。


 今の私は、人類の希望を背負う。






 ――ゴーストバスターズだ!





「行くよ! 光ちゃん!」


「はい!」


 雫さんの掛け声と共に、私たちは骨格恐竜――ゴーストへと駆け出した。


「ぎしゃああああああああああ!!!!」


 ゴーストは、向かってくる私たちに闘志を燃やした咆哮を轟かせながら、腰を捻り、巨大な尻尾を薙ぎ払う。


 私は集中力を研ぎ澄まし、縄跳びの要領でタイミングよく跳躍して回避する。


 一方、雫さんは、躱す要領はが私と同じだが、着地地点は、その尻尾の上。そこから、不安定な尾の道を覚束なく、軽快な足取りで伝っていく。


「きしゃああ!!」


 鬱陶しい羽虫を振り払うかの如く、ゴーストは尻尾を激しく振り回す。だが、雫さんはそれすらも利用し、弾かれた勢いで、遙か上空へと高く舞う。


 ゴーストは自分より頭上にいる雫さんに釘付けで、足元にいる私への注意は散漫。


「はあ!」


 ゴーストが雫さんに気を取られている間に私は懐に入ると、左後脚目掛けて刀を振るう。


 残念ながらあの時の雫さんのように断ち切ることは出来ず、刃は中途半端な場所で留まってしまう。


 それでも……


「きしゃあああ!!!!」


 ゴーストは痛みの悲鳴とともに体勢を大きく傾ける。


「ナイスよ、光ちゃん!」


 その声と同時に、雫さんが刃を振りかざしながら、空から舞い降りる。


「きしゃ!?」


 痛みから解放されたゴーストだが、もう、雫さんの刃は目と鼻の先。


「はああああ!!」


 一閃。


 雫さんの白き刃が、腹部のコアごとぶった斬った。


「きしゃ、あああ……」


 コアを斬られたゴーストは断末魔を残しながら、骨格を包んでいた淡く青い炎が星屑のように夜空へ溶けていく。


 やがて最後の火の粉までも消え去ると――


 ドォンッ!


 真っ二つになった巨体は左右へ崩れ落ち、商店街を大きく揺らした。


 私と雫さんを挟み込むような形に横倒しになった骨格恐竜の残骸を、私は呆然と見ていた。


 頭は空白で満たされ、まるで夢でも見ているような心地だった。


「光ちゃん!」


「しず、くさん……」


「やったね! 初めてのゴースト討伐だよ!」


 雫さんはそう言って、私に手のひらを向ける。その言葉で夢心地だった私の頭の中は、現実へと引き戻される。


 ――やった……


 ――やったんだ。


 ――私、やったんだ!


 その事実を受け入れた私は喜びに満ち溢れ、


「はい! やりました!」


 私は雫さんの向けられた手のひらに自身の手のひらをぶつけて、ハイタッチをしようとした……


 




 ――その瞬間。





「!? 光ちゃん!」


 切羽詰まった声を上げると共に、雫さんは押し倒す。


 ヒュッ!


 風を斬るような一筋の残滓を引きながら、私たちの頭上に一本の凶器が素通りする。


「エモノ、シトメ、ソコネタ」


 ロボットのように、カタコトな言葉が私の鼓膜を震わせる。


「く……! よりにもよって”人型”なんて。光ちゃん、立てる?」


「は、はい!」


 雫さんは私を引っ張り上げて、立たしてくれる。


 正面を見た私の視界に映るのは――







 瘦せこけた男性の姿だった。

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