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[4万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』① 元服と婚姻と四州近衛家

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阿波へ①


 数日後。

 四州近衛家一行の下向の日が訪れた。

 早朝の京。まだ朝靄の残る内裏は静かだった。

 

 その静けさの中に、どこか名残惜しい空気が漂っている。

 庭先には、見送りの人々が集まっていた。

 女房達。公家達。そして、伏見宮の姫達までいる。


 やがて。

 時刻が来る。

 私は静かに表情を改め、主上の前へ進み出た。

 すっと膝をつく。


「……では、阿波へ戻ります」


 四州近衛家。

 その若き当主・稀仁。つまり、私。

 そして―― その隣にはその正室、永寿内親王こと『はるちゃん』。

 つまり『はるちゃん』も、当然ながら一緒である。


「はる様ぁ……」

「寂しゅうございます……」


 女房達が泣いていた。

 『はるちゃん』本人はというと。


「よし様、早く!」


 めちゃくちゃ元気だった。いつもよりテンション高い。

 もう完全に「阿波楽しみ!」の顔である。私は思わず言う。


「……はるちゃん、京離れるの寂しくないの?」

「寂しいですよ?」

「え、そうなの?」

「でも」


 『はるちゃん』は、ぱっと笑った。


「夫婦ですもの」


 周囲の女房達が「きゃー……!」みたいな顔になる。

 私は一瞬固まった。まだ十一歳。前世込みでも、こういう真っ直ぐな言葉には弱い。


「それに」


 『はるちゃん』は、少し得意げに胸を張った。


「阿波には“あいす”があります!」


 そこかーーーい!!

 主上が吹き出された。


「永寿」

「はい?」

「其方、半分くらいそれ目当てではないか?」

「違います!」


 即答。しかし。


「三割くらいです」

「あるんだ……」


 方仁親王が額を押さえる。


「永寿が冷菓子にここまで心惹かれるとは……」


 完全に想像で盛り上がっていた。しかも、冬だけではなく一年中食べれるようにしろと、すでに主上達からにも言われている。つまり『冷凍庫』を作れってことなのだ


「よし様、本当に作れるんですよね?」

「いや、まだ構想段階というか……」

「楽しみです!」


 期待値が高い。高すぎる。頭を抱えたくなった。

 脳内の『長慶おじさん』が笑っている『諦めい。もう作るしかないの』


 そんな中、主上が、静かに『はるちゃん』を見つめられた。


「永寿」

「はい、父上」

「……身体には気をつけよ」


 その声は、帝ではなく父だった。


「阿波は京と違う。風も、言葉も、暮らしも違う」

「はい」

「辛いことがあれば、無理をするな」


 『はるちゃん』は、少しだけ目を潤ませる。

 けれどしっかり頷いた。


「大丈夫です」


 そして隣に立つ私を見る。


「よし様がいますから」


 その言葉に。主上は、静かに目を細められた。

 方仁親王もまた、穏やかな顔をしている。

 私は少し戸惑いながらも、真面目な顔で頭を下げた。


「……必ずお守りします」


 主上は頷かれる。


「頼んだぞ、稀仁」

「はっ」


 その瞬間だった。後ろから、小さな泣き声。


「ながよし様ぁ……」


 振り返ると、伏見宮第一王女が涙目だった。


「阿波へ行ってしまうのですか……」

「行くけど、また来るから」

「本当ですか?」

「本当」


 その隣では、三条公頼の長女も、しゅんとしている。


「お手紙ください……」

「書くよ」

「絶対ですよ?」

「絶対」


 さらに、三条西公枝の二女まで涙目だった。


「わ、私もお返事書きます……!」


 完全に幼女達に囲まれていた。

 『はるちゃん』が、じーーーっと見る。


「……よし様」

「はい」

「随分人気ですね?」

「なんで圧があるの!?」

「別に?」


 絶対別にじゃない。

 周囲が笑いを堪えている。

 主上ですら肩を震わせていた。

 やがて。

 出立の刻。牛車へ向かう前に、私と『はるちゃん』は並んで深く一礼した。


「では、行ってまいります』

「うむ」


 主上の声は静かだった。


「京は任せよ。阿波を、良き国にせよ」


 主上は続けられた。


「阿波を富ませよ。民を生かせ。国を繋げ」


 静かな声。


「それが、未来を守ることになる」


 その言葉に私ははゆっくり頷いた。


「……はい」


 主上は、少し目を細められる。

「そして」

「?」

「たまには休め」


 周囲が吹き出しかけた。

 

「え」

「其方、放っておけば延々と働くであろう」

「否定できない……」


『長慶おじさん』が脳内で『できぬな』と頷いていた。

 主上は苦笑される。


「十一歳らしく生きよ」

「努力します……」

「努力でどうにかなるものかは怪しいがな」


 主上は、完全に保護者目線だった。

 その隣で。

 方仁親王が静かに口を開かれる。


「稀仁」

「は」

「……また来い」

 

 親王がこういう言い方をするのは珍しい。

 方仁親王は静かな目で続けられる。


「其方と話すと、己の視野が広がる」


 未来の話。皇家の形。国の行く末。

 あの数日で、親王もまた大きく考えを変え始めていた。


「次は、もっと未来の話を聞かせよ」


 私は少し笑う。


「……その頃には、また変な話題になってるかもしれませんよ」

「例えば?」

「“空を飛ぶ鉄の箱”とか」


 沈黙。

 方仁親王が真顔になる。


「?」

「いや本当に飛ぶんですって」

「……また妙な冗談を」

「冗談じゃないんだよなぁ……」


 主上が肩を震わせて笑われた。


「其方の未来話は、毎度どこまで本当か分からぬ」

「私もそう思います」


 主上は私と『はるちゃん』に向かって


「達者に暮らせ」

「「はい」」


 二人の声が重なる。


 朝日が昇る。

 その光の中。

 若き四州近衛家当主と、皇女は内裏を後にした。

 未来へ向かうように。



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