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[4万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』① 元服と婚姻と四州近衛家

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将来の義父達


 同じ頃。

 内裏の一室では、別の意味で空気が重かった。

 公卿たちである。

 部屋にいるのは――

 三条公頼、三条西公枝、さらに、伏見宮家の近臣たち。

 皆、表向きは穏やかな顔をしている。

 だが頭の中は完全に同じだった。

 ――なんだあの化け物は。

 沈黙を破ったのは、三条公頼だった。


「……信じ難い」


 三条西公枝が苦笑する。


「どの辺りがです?」

「全部だ」


 即答だった。

「十一の童だぞ? 何故あれほど主上と対等に話せる」


 しかも全く恐れていない。

 媚びてもいない。かと言って無礼でもない。

 まるで“千年先を見てきた老人”が、静かに話しているようだった。

 三条西公枝がぽつりと漏らす。


「正直…… 最初は噂を疑っておりました」

「阿波の神童、か」

「ええ」

 

 四州近衛家。

 突如として現れた、武と公を繋ぐ新たな柱。

 その当主、四州近衛孫次郎長慶稀仁。

 元は三好千熊丸。

 だが今や、主上自らが後ろ盾となる存在。

 そして。“稀人”。未来を知る者。

 最初にその話を聞いた時、多くの公家は半信半疑だった。

 だが実際に会った者は、皆沈黙する。

 なぜなら。

 あれは確かに、“普通ではない”。

 三条公頼が深く息を吐いた。


「だが恐ろしいのは、知識ではない」

「……分かります」

「人を見る」


 その言葉に、部屋の空気が少し変わる。


「あの童、相手の本質を見抜く」


 昨日、自分たちの前ですら、稀仁は、主上に対して一切の虚飾をしなかった。

 “帝”としてではなく。

 一人の、国を残そうともがく人間として見ていた。

 それが、主上には伝わっていた。

 だからこそ。あれほど心を許された。

 伏見宮家の老臣が低く言う。


「……あれは、武家の顔をした公家ではありませぬ」

「うむ」

「公家の顔をした武家でもない」

「では何だ」


 その問いに誰もすぐ答えられなかった。

 やがて三条西公枝がぽつりと呟く。


「“次の時代”そのものでは」


 全員が黙った。

 それは、ある意味で最もしっくり来る表現だった。

 室町でもない。平安でもない。鎌倉でもない。

 もっと先。もっと遠い時代。

 その空気を、あの少年は纏っている。

 しかも恐ろしいことに。


「主上は、本気であのお方に皇家の未来を託すおつもりだ」

 三条公頼の声は重かった。


「伏見宮家の再定義も。宮家の整理も。四州近衛家との婚姻も。全て繋がっている」

 

 主上が昨日『稀人』と婚姻を結ぶ家と引き合わせた。

 その後、今朝の朝議で今後の『皇統』のあり方について述べられた。

 皇家の男子は、仏門へ追いやらない。

 新たな宮家として残す。

 だが宮家は増やしすぎない。

 伏見宮系統は一本化。

 皇家女子と伏見宮直系を繋ぎ、血を保つ。

 そして。

 四州近衛家女子を、未来の皇家へ取り込む。

 逆に皇家・宮家・摂家の女子を、四州近衛家へ流し込む。

 血を循環させるのだ。

 まるで巨大な樹木の根を、地中深くで絡ませるように。


 伏見宮家の老臣が険しい顔をする。


「……つまり四州近衛家は、皇家の“外”にありながら、最も近い位置に置かれる」

「そうだ」

「下手をすれば、皇家以上の影響力を持ちかねぬ」


 その危惧は当然だった。

 武力。財。知識。未来視に近い先見。

 さらに皇家との婚姻。

 普通なら危険すぎて近づけない。

 だが三条西公枝が静かに言った。


「それでも主上が信じられた理由、分かりますか」

「……何だ」

「あのお方、権力に興味がない」


 沈黙。

 全員、昨日の稀仁を思い出す。

 あの少年。未来の話をする時。

 自分が頂点に立つ話を、一度もしなかった。

 考えているのは常に“続くこと”。

 国が。文明が。血が。人が。途絶えないこと。


「だから恐ろしいのだ」


 三条公頼が呻くように言う。


「私欲がない者ほど、大きなことを成し遂げる」


 部屋の空気が重く沈む。

 その時だった。

 襖の向こうから、幼い声が聞こえた。


「ながよしさまー!」

「あいすー!」

「抱っこー!」


 きゃいきゃい。

 騒がしい。

 公卿たちが無言になる。

 しばらくして、三条西公枝が、ふっと笑った。


「……ですが」

「?」

「娘たちは、もう完全に懐いておりますな」


 三条公頼が遠い目をした。


「昨日の時点で、うちの娘は“ながよしさまのおよめさんになる!”と言っておった……」

「うちもです」


 伏見宮家の老臣が頭を抱える。


「第一王女様まで、“冷たい甘味を一緒に作るのです!”と……」


 全員、同時に思った。

 ――何故こうなった。

 本来。

 皇家と結ばれる婚姻とは、もっと重く、もっと政治的で、もっと緊張に満ちたもののはずだった。

 なのに…

 中心にいる稀仁が、妙に子供たちと馴染みすぎる。

 威厳があるのに、距離感がおかしい。

 未来を語る時は仙人みたいなのに、幼女たちに囲まれると保父になる。

 三条公頼が真顔で呟く。


「……あれは本当に、四州近衛家当主なのか?」

「半分くらい、子供好きな苦労人に見えますな」

「あと甘味職人」

「それは否定できませぬ」


 その瞬間、遠くから、主上の声が響いた。


「稀仁ー! “あいす”はまだかー!」


 公卿たち、全員うつむいた。

 ――主上まで何をしておられるのだ。



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