表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[4万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』① 元服と婚姻と四州近衛家

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/94

”戦国あいす”②


 翌日の朝餉の後。

 内裏の一角、陽の差し込む渡殿で。

 『はるちゃん』は、欄干にもたれながら庭を見ていた。

 春の風が、長い黒髪をさらさらと揺らしている。

 私は少し離れた位置で控えていたが、 彼女は振り返らないまま言った。


「よし様」

「はい」

「……昨日、お父様が嬉しそうで安心しました」


 その声は、どこか年相応だった。

 十四歳。

 未来のことも、皇家のことも、政のことも理解している。

 けれど同時に、まだ父を案じる娘でもある。


「最近ずっと、難しいお顔ばかりでしたから」


 私は静かに頷いた。


「お父様は、先のことを考えておられます」

「はい」

「たぶん…… 百年単位で」


 『はるちゃん』が小さく笑った。


「よし様みたい」

「え」

「似ております」


 待って。

 それ、褒められてるのか分からない。

 彼女はくすくす笑う。


「でも、お父様とよし様は少し違います」

「違う?」

「お父様は“国を残そう”となさる。よし様は――」


 そこで振り返る。

 真っ直ぐ、こちらを見る。


「“人を残そう”としておられる」


 息が止まった。


「皇家も。宮家も。公家も。武家も。皆が滅びぬよう、必死に繋ごうとしておられるでしょう?」


 図星だった。

 四州近衛家。

 それは単なる家ではない。

 皇家と武家を繋ぐ楔。

 そして、“稀人”を未来へ残す器。

 『はるちゃん』は少し困ったように笑う。


「だからお父様、本当に安心しておられるのです」

「……安心?」

「はい」


 彼女は庭へ視線を戻した。


「よし様がいる限り、皇家は急には滅びないと」


 その言葉は、重かった。

 主上がやろうとしていること。

 それは単なる皇位継承対策ではない。

 “文明の継承”だ。

 皇家。宮家。摂関家。武家。

 それぞれを孤立させず、血と役割で結び直す。


 『はるちゃん』こと永寿内親王は私の正室となった。

 伏見宮第一王女。三条公頼卿の長女。三条西公枝卿の二女。

 多分他の家の幼い姫君たちも、未来には四州近衛家へ入る予定になっている。

 政略結婚。と言えばそれまでだ。

 

 けれども、主上は、もっと長い視点で見ている。

 血を散らし、繋ぎ、滅ぼさぬための仕組み。まるで、巨大な生態系みたいに。


「……不思議です」


 『はるちゃん』がぽつりと言う。


「何がです?」

「昔は、皇家は“閉じる”ことで守られてきました」

「はい」

「でも今は逆です。“繋がる”ことで守ろうとしている」


 それは、確かに時代の転換だった。

 平安。鎌倉。室町。皇家は神秘性と隔絶で権威を守った。

 だが戦国は違う。

 閉じれば、そのまま途絶える。

 だから主上は、あえて外へ血を流し始めた。

 その中心にいるのが、四州近衛家。

 そして――私。


「よし様」

「はい」

「怖くありませんか?」

「何が?」

「未来です」


 静かな問いだった。

 私は少し考える。


 未来。

 知っている。

 これから起こるであろう戦乱も。飢饉も。革命も。敗戦も。

 昭和天皇の人間宣言。象徴天皇制。

 そして令和。

 知っているからこそ、怖い。

 

「……怖いですよ」


 私は正直に答えた。


「すごく」


 『はるちゃん』は驚かなかった。


「でも」


 私は空を見上げる。


「未来を知ってても、全部は守れません」

「……はい」

「だからせめて滅びないようにだけはしたい」

 

 文明は壊れる。国も変わる。制度も変わる。

 けれど、“繋がっている”限り、また立ち上がれる。

 たぶん主上も、同じことを考えている。

 『はるちゃん』はしばらく黙っていたが、やがて小さく言った。


「でしたら」

「?」

「私も頑張ります」


 その顔は、少し大人びていた。


「よし様が未来へ走くなら、私は横で支えます」

「……はるちゃん」

「その代わり」


 彼女は急に悪戯っぽく笑う。


「ちゃんと寝てください」

「うっ」

「あと甘味を忘れないこと」

「そこ重要!?」

「重要です」


 真顔だった。


「未来を救うには甘味が必要です」

 

 誰だこの思想を植え付けたの。

 絶対、主上だ!

 

 渡殿の向こうから、ぱたぱたと小さな足音が聞こえてきた。


「ながよしさまー!」


 現れたのは、まだ七、八歳ほどの幼い姫君たち。

 伏見宮第一王女。

 三条公頼卿の長女。

 三条西公枝卿の二女。

 まだ“側室候補”という言葉の意味すら、完全には理解していない年頃。

 けれど、皆、なぜか私に懐いていた。

 (”アイス”効果だと思う絶対!)


「おあそびしてください!」

「え」

「あと冷たいお菓子!」

「まだ作れてないから!」

「えー!」


 きゃいきゃい騒ぐ幼女軍団。

 『はるちゃん』が口元を押さえて笑っている。


「人気者ですね、よし様」

「いやこれ完全に保育園……!」


 その時、さらに向こうから、主上の声が響いた。


「稀仁ー!“あいす”はまだかー!」


 主上まで来たーーー!?

 しかもめちゃくちゃ期待してる!

 渡殿が爆笑に包まれる。

 戦国の内裏。皇家。宮家。公家。そして未来を知る稀人。

 本来なら、重苦しいだけの時代のはずなのに。

 今この場所には、確かに笑い声があった。

 未来へ繋がる、笑い声が。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ