表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[4万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』① 元服と婚姻と四州近衛家

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/94

『四州近衛家』と『伏見宮家』④

「これより先、皇家男子は仏門へ入れぬ」


 繰り返される静かな宣言。


「男子が生まれれば、新たな宮家を立てる」


 方仁親王も頷く。


「天皇直系の宮家を“血の避難所”にするのだ」


 私の脳裏に、令和の光景が浮かぶ。

 皇族数の減少。皇位継承資格者の不足。そして、“旧宮家復帰”を巡る議論。

 全部、この人たちは既に理解している。


「……ですが」


 私は慎重に口を開く。


「宮家が増えすぎれば、いずれ再び分散します」

「うむ」


 主上は即座に頷いた。


「故に“循環”させる」

「循環?」


 そこで、方仁親王が卓に置かれた湯飲みを指でなぞる。


「皇家と宮家を、婚姻で還流させるのだ」


 私は察した。


「……伏見宮の直系は、皇家女子との婚姻で繋ぐ?」

「その通り」


 主上は微笑まれた。


「そして皇太子には、伏見宮、あるいは四州近衛家の姫を迎える」


 私は静かに目を伏せた。

 四州近衛家。

 本来なら、存在しなかった家。

 “稀人”である自分が現れたことで、歴史に生まれた家。

 主上は、その意味を理解していた。


「稀仁」

「はい」

「四州近衛家は、もはや単なる武家ではない」


 静かな声。


「皇家と民を繋ぐ“橋”だ」


 方仁親王が苦笑する。


「そなたの血は、妙に広がるのでな」

「……否定できません」


 実際、未来ではそうなるだろう。

 四州近衛家は皇家、親王家、宮家、新宮家の血のロンダリングのような役割を担うことになる。

 公家もここを通じてしか皇統に血が繋がらなくなる。

 藤原という家系すらも例外ではなくなる。

 おそらくそれすらも主上は念頭に置いているのか?


 『阿波』で育てられた、未来の知識や技術を知る四州近衛家の女子たちは、皇家、宮家、公家へと嫁ぎ、血を繋いでいく。

 表に出ぬ形で。

 静かに。

 だが確実に。

 主上は遠くを見るように言った。


「皇家とは、“固定された家”ではない」

「……」

「続くために形を変えるものだ」


 その言葉に、昭和を思い出した。

 敗戦。人間宣言。

 “現人神”であることを否定し、象徴へ変わった天皇。

 あれもまた、生き残るための変化だった。

 主上は続ける。


「神であろうと、人であろうと良い」

「!」

「国が続くならば、形は変わってよいのだ」


 私は完全に黙った。

 この人は、本当に戦国時代の帝なのか。

 いや…

 戦国時代だからこそ、理解しているのだ。

 “変われぬものは滅びる”と。

 方仁親王が不意に笑った。


「もっとも、未来では色々揉めるのであろう?」

「……はい」

「女帝や女系の話か?」


 私は頷いた。

 主上は少し考え込み――。


「女帝は良い」


 さらりと言った。


「!」

「過去にもおられる。問題はそこではない」


 方仁親王も静かに続ける。


「問題は、“皇家の血統として人々が受け入れるか”だ」


 重い言葉だった。


「制度だけでは国は続かぬ。民の納得が必要だ」


 令和で繰り返される議論を思い出す。

 男系。女系。女性天皇。旧宮家。

 全部、“正解”がない。

 だから揉める。

 だが…

 主上は静かに笑われた。


「されどな」

「はい」

「揉めるということは、まだ皆が“皇家を残したい”と思っておるのであろう?」


 私は目を見開いた。


「あ……」

「本当に不要なら、議論すら起きぬ」


 その言葉は、妙に胸へ刺さった。

 主上は湯を一口飲み、穏やかに言う。


「ならば、まだ大丈夫よ」


 朝の光が、主上の横顔を照らしていた。

 その姿を見ながら、私はふと思った。

 この人は、滅びを恐れながら。

 それでも、五百年先を信じているのだと。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ