『四州近衛家』と『伏見宮家』③
内裏。
まだ陽も高くならぬ時刻だというのに、清涼殿の一室には人が集まっていた。
主上。方仁親王。そして――私、稀仁。
「…… つまり、伏見宮を“減らす”のではなく、“一本に定める”のですか」
確認をとるかのような私の問いに、主上は静かに頷かれた。
「うむ」
方仁親王が横で腕を組む。
「今のままでは散る」
その声音は、昨夜よりもずっと真剣だった。
「皇家が弱れば、宮家は独自に生き延びようとする。されど宮家が増えすぎれば、今度は皇家を食う」
私は黙って聞いていた。
これは、六百年後の“旧宮家問題”に繋がる話だ。
男系だが、長い年月の元、それはもはや異なる皇統とみなされるといっても過言ではない。
主上はゆっくり言葉を続ける。
「故に、余は決めた」
静かな声。
「伏見宮は“皇統保存のための宮”として再定義する」
室内の空気が張る。
「伏見宮の系統は一本のみ。嫡流のみを残す」
私は思わず目を細めた。
「では、伏見宮の男子は……」
「嫡流以外は臣籍か仏門」
即答だった。
だが、そこで方仁親王が補足する。
「ただし、皇家男子は違う」
「……!」
私は顔を上げた。
主上は頷かれる。
「未来では、天皇の男子が“減りすぎた”のであろう?」
「……はい」
「ならば、減らしてはならぬ」
その一言に、思わず息を呑んだ。
主上は、もう“今”だけを見ていない。
五百年後を見ている。
「これより先、皇家男子は仏門へ入れぬ」
静かな宣言。
「男子が生まれれば、新たな宮家を立てる」
方仁親王も頷く。
「天皇直系の宮家を“血の避難所”にするのだ」
私の脳裏に、令和の光景が浮かぶ。
皇族数の減少。皇位継承資格者の不足。そして、“旧宮家復帰”を巡る議論。
全部、この人たちは既に理解している。
「……ですが」
私は慎重に口を開く。
「宮家が増えすぎれば、いずれ再び分散します」
「うむ」
主上は即座に頷いた。
「故に“循環”させる」
「循環?」
そこで、方仁親王が卓に置かれた湯飲みを指でなぞる。
「皇家と宮家を、婚姻で還流させるのだ」
私は察した。
「そのために…… 伏見宮の直系は、皇家女子との婚姻で繋ぐ?」
「その通り」
主上は微笑まれた。
「そして皇太子には、伏見宮、あるいは四州近衛家の姫を迎える」
私は静かに目を伏せた。
『四州近衛家』
本来なら、存在しなかった家。
『稀人』である自分が現れたことで、歴史に生まれた家。
主上は、その意味を理解していた。
「稀仁」
「はい」
「四州近衛家は、もはや単なる武家ではない」
静かな声。
「皇家と民を繋ぐ“橋”だ」
方仁親王が苦笑する。
「そなたの血は、妙に広がるのでな」
「……否定できません」
実際、未来ではそうなるだろう。
四州近衛家は皇家、親王家、宮家、新宮家の血のロンダリングのような役割を担うことになる。
公家もここを通じてしか皇統に血が繋がらなくなる。
藤原という家系すらも例外ではなくなる。
おそらくそれすらも主上は念頭に置いているのか?
『阿波』で育てられた、未来の知識や技術を知る四州近衛家の女子たちは、皇家、宮家、公家へと嫁ぎ、血を繋いでいく。
表に出ぬ形で。
静かに。
だが確実に。
主上は遠くを見るように言った。




