表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[4万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』① 元服と婚姻と四州近衛家

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

83/94

『四州近衛家』と『伏見宮家』①


 主上は、庭に面した縁へ移られていた。

 柔らかな朝日が、御簾越しに差し込んでいる。

 『はるちゃん』は女房達の元へ戻り、今この場にいるのは。

 主上。方仁親王。そして私、稀仁。


 静かな空気だった。

 その時、方仁親王が不意に口を開いた。


「昨日から気になっておったのだが」

「はい?」

「『四州近衛家』というものは、本来存在せぬのであろう?」


 私は思わず目を瞬かせた。

 主上も静かにこちらを見ておられる。

 やはり。この親子、勘が鋭い。

 私は少し苦笑した。


「……はい。本来は存在しません」


 方仁親王が静かに頷く。


「やはりか」

「私の知る未来の歴史では、私――いえ、三好千熊丸は、そこまで皇家と深く結びつきません」


 むしろ…

 史実における三好長慶は、畿内を制した大大名ではあるが、『皇家を支える新たな公武の柱』にはならない。一応は信長前の覇者として知られて入るけれど。

 『阿州近衛家』も『四州近衛家』も。本来存在しない。

 主上が静かに言われた。


「では、其方が現れたことで、歴史そのものが変わったか」

「……はい」


 私はゆっくり頷いた。現在の領地改革をしている『阿波』を脳裏に浮かべる。


「かなり」


 沈黙。

 だが、不思議と重苦しさはなかった。

 方仁親王は、どこか納得したように目を細めている。


「だからか」

「?」

「其方を見ていると、妙に“歪み”を感じる」


 ぎくり。


「未来を知っておる者特有の視線だけではない」


 親王は続ける。


「まるで、本来なら存在しない橋を、無理やり架けておるような」


 私は返事ができなかった。

 図星だった。

 『四州近衛家』とは何か。

 本来交わらぬはずだった“武”と“公”、“地方”と“朝廷”、そして“未来”を、繋ぐものだ。

 そう、主上によって定義された『家』だ。


 その『家』は

 元々は『稀人』を抱え込む『阿波三好』が戦国を生き延びるには、もっと大きな“芯”が必要だったから。結果的に、実父、海雲が皇家に『保護』を願い出たことで、『稀人保護』という名目で皇家と結びつき、近衛を名乗り、天領として四国全体を束ねる“公武一体”の家を作ることになった。


 それが『四州近衛家』だ。


 それは本来の歴史にはない。存在しないはずの枝だ。


 主上は静かに言われた。


「されど、その歪みが必要だったのであろう?」


 私は顔を上げた。

 主上は続ける。


「其方が現れねば、皇家はさらに弱っていたのであろうな」


 私は否定できなかった。

 応仁の乱以後、朝廷は極限まで衰退する。

 未来では、天皇の即位式すら満足に行えず、金銭不足で何十年も苦しむ時代が来る。

 主上自身、まさにその渦中にいる。

 だから…

 現在の『四州近衛家(阿波三好家)』は、“歴史の異物”でありながら。同時に、皇家を支えるための“補強材”的存在になりつつあった。

 方仁親王が小さく息を吐く。


「……面白いものだな」

「え?」

「本来存在せぬ家が、未来の皇家を支えるか」


 その声には、どこか感慨があった。


「四州近衛家の女子が、皇家や宮家へ多く入ることになる…」

「はい」

「ならば」


 親王は少し笑った。


「余の子孫は、其方の血をかなり受け継ぐことになるのか」


 私は思わず遠い目になってしまった。


「…… おそらく、かなり」


 主上、耐えきれず笑われた。


「ははは!方仁よ、未来の皇家は随分賑やかになりそうだ」

「父上、他人事のように申されますが、原因の半分は父上です」

「余か?」

「永寿を稀仁へ嫁がせたでしょう」

 

 その言葉に私は、固まる。

 主上はにやりと笑われた。


「当然であろう」

「当然?」

「『稀人』を他家へ流せるものか」


 さらっと言った。

 だが、その言葉には確かな重みがあった。

 主上は知っている。

 稀仁がただの先読みできる子供ではないことを。

 未来の知識。 異様な政治感覚。 技術への理解。そして、 人を惹きつけるあの不思議な気配。


 『稀人』、時代の外から来た者。

 だからこそ、皇家の側へ置いた。

 永寿内親王を正室に。 

 伏見宮や公家の姫達を縁として。

 血ごと、未来へ組み込むために。

 方仁親王は静かに言う。


「父上は最初から、稀仁を“一代の武家”として見ておられぬ」

「無論だ」


 主上は即答された。


「この者は、国の形そのものを変える」

 

 ぞくり、とした。

 十一歳の少年に向ける視線ではない。

 もっと長い時間を見る目。

 数百年先まで見据える、帝の目だった。

 主上はふっと笑われる。


「もっとも」

「?」

「当人は未だに、自分を“普通の戦国武将”と思っておるようだがな」


 方仁親王、完全に吹き出した。


「それは確かに」

「えっ、私そんな変ですか!?」


 主上と親王、揃って頷いた。


「かなり」「大分」


 ひどい。

 私は本気でそう思った。



「私、そんなにおかしいですか?」

「おかしい」

 方仁親王が即答する。


「即答!?」


 主上まで笑っておられる。


「まず十一の童が、“五百年後の皇統維持”を真顔で語る時点でおかしい」

「うっ」

「さらに、未来の技術、兵站、経済、果ては“冷やした甘味”まで持ち込む」

「最後なんか混ざってません!?」

「重要であろう」 

 主上が真顔で返された。

  主上、たまに食への優先順位がおかしい。

 笑いながらも、方仁親王の視線は静かだった。


「…… だが、其方が現れたことで、確かに皇家の未来は変わった」


 私は口を閉ざす。

 親王は続けた。


「本来なら、皇家はさらに衰えたのであろう」

「はい」

「伏見宮家も、『皇統断絶時の保険』として細々と残るのみ。しかもその『保険』も血の隔たりの遠さを理由に使われぬことが続いた」


 私は目を見開いた。


「そこまで読まれてますか」「昨日、其方が“旧宮家”の話をしたからな」


 方仁親王はゆっくり言う。


「つまり未来では、伏見宮の流れが、皇統維持の鍵となる時代が来る」

「……はい」

 

 実際、令和における旧宮家問題は、ほぼ伏見宮系統の話だ。

 だが、この時代の伏見宮は、まだ“皇統の予備枝”として曖昧に存在している。

 だからこそ。

 主上は、再定義しようとしていた。

 主上が静かに言われた。


「伏見宮を、単なる“余りの皇子”の受け皿にせぬ」

「……」

「皇家を支える、明確な柱にする」


 私は改めて思う。

 この人、やはり恐ろしく先を見ている。

 未来を知る私ほどではない。 だが。

 “何が必要か”を直感で掴む力がある。

 主上は続ける。


「乱世では、何が起こるか分からぬ。一つ枝が折れれば終わる」


 方仁親王が頷く。


「だから父上は、皇子達に新たな宮家を作らせるおつもりなのですね」

「うむ」


 私は、昨日の話を思い出す。


 未来では、逆に宮家が減りすぎた。

 男子皇族不足。

 旧宮家復帰問題。

 女系天皇議論。

 全部、元になる『皇家』の“枝を減らしすぎた”こととも繋がっている。

 主上は私を見た。


「未来の者として申せ」

「はい」

「皇家が長く続くために、最も必要なものは何だ?」

 私は少し考えた。

 血統か。 権威か。 制度か。

 どれも必要だ。

 だけど…


「……余裕、だと思います」

「余裕?」

「はい。“選べる余裕”です」


 二人とも黙って聞いている。


「男子が一人しかいない。宮家がほぼない。そうなると、一つの問題が全部を揺らす」


 令和の議論がまさにそうだった。

 一人に負担が集中する。

 制度変更が、即“皇統そのもの”へ直結する。


「だから、枝が必要なんです」

「ただ増やすだけでは駄目です。存在意義が必要になる」

「存在意義……」

「はい。役目のない宮家は、やがて形骸化します」


 方仁親王が目を細めた。


「だから『四州近衛家』か」

「え?」

「皇家を支える役目を持つ。武と財を担う。地方を繋ぐ。ゆえに必要とされる」


 私は苦笑した。


「結果的には」

「違うな」


 主上が言われる。


「其方は最初から、そこまで見ておった」


 図星だった。

 私は、ただ戦国を生き残りたかったわけではない。

 旧宮家のことを話すことで“未来で皇家が詰む要因”を、無意識に潰そうとしていた。


 地方豪族の分裂。朝廷財政の崩壊。皇統の細り。武家と公家の断絶。


 これを解決するために『稀人』という異分子を取り込んだ『四州近衛家』という、本来存在しない“中継点”が作られた。

 その時、主上がふっと笑われた。


「もっとも」

「?」

「五百年後の者達が、“女系か男系か”で揉めておると聞くと、少し可笑しくもある」


 私は苦笑した。


「まあ…… はい」

「余からすれば、“続いておるならまず男でも女でも良いではないか”と思うてしまう」


 それは、戦国を生きる帝だからこその感覚だった。

 今日、国が残るかも分からない。

 明日、都が焼けるかもしれない。

 そんな時代だ。

 だからこそ“続いている”こと自体が奇跡なのだ。

 だが同時に方仁親王は静かに言った。


「されど、積み重ねた理を崩せば、別のものになる」


 親王は続ける。


「五百年続いた形には、それだけの意味があるのであろう」

 

 その声音には、後の帝となる者の重みがあった。

 主上は小さく笑われる。


「方仁は真面目よなあ」

「父上が自由すぎるのです」

「はっはっは」

 

 その笑い声を聞きながらふと思った。

 もし、この親子が、ほんの少し違う時代に生まれていたなら。

 もっと穏やかな世であったならと。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ