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[4万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』① 元服と婚姻と四州近衛家

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天皇の『人間宣言』


 朝の光が、御簾を淡く透かしていた。

 内裏の空気は静かだ。だが、その静けさの奥には、確かに“国の中心”が息づいている。

 稀仁――四州近衛家当主となった私は、小さく息を吐いた。

 向かいには主上。その隣には『はるちゃん』。 少し離れて方仁親王。


「……落ち着かぬか?」


 主上が少し笑われる。


「いえ。慣れません」

「慣れられても困るがな」


 くすり、と『はるちゃん』が笑った。


「よし様、や昨日は普通にお話されていたではありませんか」

「昨日も勢いでした……」


 実際、令和の皇室制度から、女系天皇、旧宮家、今日は伏見宮家再編まで語ったあとで、今さら“畏れ多い”も何もない気もする。

 だが、冷静になると、やはり相手は帝である。

 しかも…

(未来の皇室制度について、数百年単位で説明したんだよな……)

 胃が痛い。

 方仁親王が湯を口に含みながら言われた。


「しかし、未だに不思議よな」「何がです?」「五百年後でも、“天皇”というものが残っておることだ」


 静かな声だった。


「武家が天下を取り続ければ、いずれ皇家など形だけになると思うていた」


 私は少し考えた。


「……形だけ、になった時代はあります」「ほう」

「ですが逆に、“形だけだからこそ残れた”部分もあります」


 主上が目を細められる。


「武力を持たぬゆえか」「はい」


 もし皇家が巨大な軍事権力を持っていたら。歴代武家政権は、もっと徹底して潰しに来ただろう。

 けれど実際には、“権威”として利用価値があった。

 だから残された。

 主上は静かに頷かれた。


「……皮肉なものよな」

「え?」

「力を持たぬからこそ、千年続くか」


 その言葉に、私は返事ができなかった。

 『はるちゃん』がぽつりと尋ねる。


「ですが…… 未来では、主上は“神”ではないのでしょう?」


 空気が少し変わった。

 私は慎重に言葉を選ぶ。


「……ある時代、外国を巻き込んだ大きな戦があります」


 主上も方仁親王も黙って聞いていた。


「その戦で、日の本は敗れます」


 障子の外で、風が鳴った。


「国が焼け、多くの人が死に、価値観が全部変わる」

「……」

「そのあと、当時の、昭和という御代の帝が、“私は現御神ではない”と表明されます」


 『はるちゃん』が息を呑んだ。

 だが、主上は意外なほど静かだった。


「人間宣言、か」


 私は目を見開いた。


「…… 驚かれませんか」「驚いておるよ。されど」


 主上は静かに続けた。


「帝が“人”であることなど、本来当たり前であろう」


 あまりにも自然な言葉だった。


「神であるなどと言われれば、むしろ苦しい」


 その横で、方仁親王が苦笑する。


「父上は昔からそういうところがある」

「方仁」「事実でしょう」


 親王は私を見る。


「父上はな。“帝とは役目であって、人格ではない”と考えておる」


 主上は少し困ったように笑われた。


「言い方よ」

「違いますか?」

「……まあ、間違ってはおらぬ」

  なぜ令和まで皇室が残ったのか、少しだけ分かった気がした。

 絶対神ではない。けれど、完全な権力者でもない。

 “国そのものを繋ぐ存在”。

 だから、形を変えながら生き延びた。

 その時、方仁親王が不意に問うた。


「未来の者達は、帝を敬うのか?」


 私は少し笑った。


「かなり人によります」「ほう?」「熱烈に敬愛する者もいれば、全く興味がない者もいます」


 『はるちゃん』が驚く。


「興味がない!?」

「はい」

「帝に?」


 カルチャーショックを受けている。

 主上は逆に笑っていた。


「良いではないか」

「父上?」「皆が皆、帝のことばかり考える国など、息苦しかろう」


 さらっと言う。

 この人、やっぱり感覚が妙に未来的だ。


「ですが」

 方仁親王は腕を組む。

「敬われぬ皇家など、やがて消えるのでは?」


 そこで私は、静かに首を振った。


「消えませんでした」

「なぜだ?」


 私は少し考え、ゆっくり答えた。


「……多分、“近かった”からです」

「近い?」

「はい。未来の帝や皇族方は、民の前に出られます。被災地へ行き、病人を見舞い、頭を下げる」

 主上も親王も黙る。


「戦のあと、昭和の帝は焼け跡を回られました。平成の帝は災害のたびに膝をつかれた。令和の帝も、民に寄り添おうとされている」


 静寂。


「…… 神ではなく、“人として民に寄り添う”ことで、逆に残ったんです」


 『はるちゃん』が、ぽつりと言った。


「優しいのですね」


 私は首を横に振る。


「優しいだけでは無理です」

「?」

「多分、ずっと苦しかったと思います」


 何百年も。

 政治利用され、理想を押しつけられ、時に偶像にされ、時に否定されながら。

 それでも… “国の形”として在り続けた。

 主上は静かに目を伏せた。


「……ならば」


 ゆっくり顔を上げる。


「余らが今しておることも、無意味ではないのだな」


 私は、強く頷いた。


「はい」


 主上はどこか安心したような顔をしていた。


「……良いではないか」


 その声は朝の光の中で、不思議なほど穏やかだった。


「国が続き、人が続き、血が続く」


 そして…


「それで、皆が笑えておるならば」

 

 その言葉に、私は、なぜだか少し泣きそうになった。


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