『稀人』②
方仁親王が、少し咳払いする。
「……実はな」
「はい?」
「永寿だけではない」
?
「伏見宮にも、話は通してある」
「は?」
「さらに、近衛、九条、二条、一条、三条、三条西…… 各家にも」
「ちょっと待ってください」
私は真顔になった。
「何の話です?」
主上が、妙に穏やかな顔で言われた。
「其方の側室候補だ」
「はあ?」
数日前『はるちゃん』と婚姻したばかりの『新婚』なんですけど?
『はるちゃん』を見る。きょとんとしている。むしろ私の反応に驚いている。
「え? 普通では?」
「普通じゃないです!」
『令和のおばちゃん』感覚から行くと新婚早々側室の話を平然と受け入れていることに違和感を感じてしまうんですが。
方仁親王が『はるちゃん』の言葉に真顔で頷く。
「いや、四州近衛家当主であり、皇家の縁者となるなら、むしろ少ないくらいだ」
「戦国怖い!」
だが、次の瞬間、私は気づいた。
「……待ってください」
「うむ?」
「候補って、何歳です?」
微妙な沈黙。
方仁親王が視線を逸らした。
主上が静かに言う。
「七つ」
「八つ」
「六つもおったか?」
「やめてください!」
頭を抱えた。
いや、この時代なら普通なのは分かる。
分かるけど! 精神年齢が令和日本人だから!
倫理観が大混乱してる!
『長慶おじさん』が脳内で爆笑している『観念せい千熊丸!主も戦国武家じゃ!』
嫌だよ! 脳内で反発し合う。
『はるちゃん』が、少しだけむっとした顔をした。
「……でも」
「はい?」
「正室は私です」
その瞬間、部屋が静まり返った
え。
今。
なんかすごい発言しませんでした?
『はるちゃん』は、頬を赤くしながらも、真っ直ぐこちらを見ている。
「よし様の隣は、私ですから」
私は完全に固まった。
方仁親王が天を仰ぎ。
主上は、静かに笑いを堪えていた。
その空気の中、『長慶おじさん』だけが、脳内で腹を抱えて転げ回っていた。
『はるちゃん』の「正室は私です」という宣言。
その余韻が、まだ部屋に残っていた。
当の私はというと、完全に思考停止していた。
けれど、ふと、違和感が脳裏をよぎる。
「あれ……?」
主上たちがこちらを見る。
「その話、初耳みたいになってますけど」
「うむ?」
「いや、側室候補の件、だいぶ前にありましたよね?」
今度は、方仁親王が「あっ」という顔をした。
主上も一瞬だけ目を逸らされる。
やっぱり!
「三年前、近衛稙家殿が、勅使として阿波へ来られた時ですよ!」
空気が微妙になる。
そのことを知らないのか『はるちゃん』が不思議そうに首を傾げた。
「……そんな前から?」
「はい……」
私は遠い目になった。
――あれは三年前。
まだ私が、八歳の三好千熊丸だった頃。
近衛稙家が、勅使として阿波へやって来た。
表向きは、視察と朝廷との関係強化という名の『献金』『献上品』の催促? だった。
だが実際には…
実父、海雲が『稀人』である息子の『保護』の上奏をしたことでの
『稀仁という存在の確認』だったのだろう。
その時、勅命という形で、内々に第二皇女降嫁や伏見宮親王王女、公女(三条と三条西)が側室として婚姻することが告げられたんだった。




