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[4万PV達成!感謝]長慶さんに転生してしまった!  作者: 天の樹
孫次郎の『徒然日記』① 元服と婚姻と四州近衛家

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未來の皇家③


 しばらく、誰も口を開かなかった。

 灯火が静かに揺れる。

 遠くから、夜の京の音が微かに聞こえていた。

 飢えた都。 荒れた町。 争いの絶えぬ時代。

 けれどこの小さな部屋だけは、不思議と穏やかだった。

 やがて… 

 方仁親王がぽつりと呟かれる。


「……未来の者たちは、皇家を不要とは言わぬのか」


 その問いは、あまりにも静かだった。

 だが、そこに滲んでいた不安に、私は息を詰めた。

 今の皇家は弱い。

 武もない。 銭もない。 軍もない。

 だからこそ、誰よりも分かっているのだ。

 “必要とされなくなる恐ろしさ”を。

 私はゆっくり答えた。


「言う者はおります」


 嘘はつけなかった。

 未来では、様々な意見がある。

 天皇制を重んじる人。 不要だと言う人。 もっと変えるべきだと言う人。

 それは当然だ。二千年以上も続けば、一つの考えだけになるはずがない。

 『はるちゃん』が少し不安そうに目を伏せた。

 だが私は続ける。


「けれど」


 顔を上げる。


「それでも、残したいと思う者の方が多い」


 主上が静かにこちらを見る。


「何故だと思う?」

「……安心、でしょうか」

「安心?」

「はい」


 私は言葉を探した。


「未来の国は、この時代とは比べものにならぬほど豊かになります」


 食がある。 服がある。 家がある。

 多くの人が、飢えずに生きられる。

 けれど…


「豊かになっても、人は不安を失いません」


 孤独。 災害。 争い。 分断。

 時代が進んでも、人の心は簡単ではない。


「そんな時、“変わらず在るもの”は、人を安心させるのです」


 静かな沈黙。


「千年前にも居た。今も居る。たぶん千年後も居る」


 私は主上を見る。


「それだけで、救われる人がいます」


 主上は、しばらく黙っておられた。

 

「……祈りのようなものか」

「近いかもしれません」

 

 方仁親王が、ふっと笑われる。


「面白いな」

「え?」

「余はずっと、皇家とは“権威”であると思っていた」


 静かな声。


「だがそなたの話を聞くと、まるで“記憶”のようだ」


 私は息を呑んだ。

 その表現は、あまりにも的確だった。

 記憶。

 この国が、ずっと積み重ねてきた時間。

 嬉しかったこと。 苦しかったこと。 栄えた時代。 滅びかけた時代。

 全部を抱えながら、それでも続いている存在。

 それが未来の天皇制なのかもしれない。


 『はるちゃん』が、そっと主上の袖を握る。


「おもう様」

「なんだ、はる」

「未来まで続くのでしょう?」

 

 幼い問い。

 主上は、娘の頭を優しく撫でられた。


「……そうらしい」


 その声は、どこか安堵していた。

 すると、方仁親王が、こちらを見ながら不意に言った。


「稀仁」

「は」

「未来の者たちは、余をどう見る」


 来た。

 私は固まった。

 いや待って。それ本人が聞く!?

 しかも後の正親町天皇本人が!? 歴史オタクなら卒倒案件である。


「その……」


 どう言えばいい。

 戦国の混乱期。織田信長との関係。朝廷維持。禁裏修復。

 未来では、かなり重要人物扱いだ。

 私は慎重に答えた。


「“苦しい時代に、皇家を繋いだ帝”と」


 方仁親王が少し目を細める。


「良く言いすぎではないか?」

「事実です」


 私は真っ直ぐ言った。


「未来から見ると、今は本当に危うい時代です」


 断絶していても、おかしくなかった。


「それでも続いた」

 

 だから…


「後の世の人は、ちゃんと見ています」


 方仁親王は、しばらく黙っていた。

 やがて、小さく笑う。


「……それなら」


 その顔は、少しだけ青年らしかった。


「もう少し頑張ってみるか」

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